今度こそ穏やかに暮らしたいのに！どうして執着してくるのですか？

第39話 入学１日目から疲れました

「何なのよ、あの女。それよりもクリストファー。教室にいた時といいさっきといい、なにルージュを呼び捨てにしているのよ！」

今度は殿下に詰め寄るセレーナ。そういえば、さっき呼び捨てにされていたわね。

「いや、それに関してはすまなかった。以後気を付けるよ。それよりもルージュ嬢、ヴァイオレット嬢はなぜか君に対して敵意を持っている様に僕は感じる。どうか彼女には、気を付けてくれ。さっきもすごい形相で睨んでいたし」

あなたに言われなくても、分かっているわよ！そう言いたいが、ぐっと堪えた。

「ご忠告ありがとうございます。彼女が何を考えているのかはわかりかねますが、十分に気を付けますわ」

もちろん、厳重警戒で行くつもりだ。あの女はどう転んでも、きっと私を憎み何かしら動きを見せるだろう。あの女が黙ってこのまま済ませるとは思えない。何か仕掛けてくる前に、何としても阻止しないと。

そもそも私は公爵令嬢なのだ。あんな女になんて、負ける訳にはいかない。ただ…

今日はなんだかどっと疲れたわ。

「話は終わった様だし、私たちも帰りましょう。本当に人騒がせな女だったわね。第一ルージュがあの女に何をしたというのよ。本当に腹が立つわ」

「本当よね。いくら領地で生活していたからって、貴族としての最低限の常識は身に付けておくべきよ」

「そうよね、仮にも侯爵令嬢なのだから」

皆が珍しく怒っている。

「皆、ありがとう。ただ、彼女はあまり忠告を聞かないタイプの様だから。あまり関わらない方がいいと思うの。私もなるべく関わらないようにするわ」

万が一怒りの矛先が、彼女たちに向いたら大変だ。とにかくあの女の動きには十分注意しつつ、極力関わらない様にしていこう。

とはいえ、既に目を付けられてしまったようだが…1度ならず２度までも、あの女に執着されたらたまったものじゃない。

本当に今日は疲れたわ。

「ルージュ、大丈夫かい？入学式早々、色々と大変だったものね」

「そうよね、あの女のせいで。さあ、早く帰りましょう。明日もまた貴族学院があるし」

なぜかクリストファー殿下も一緒に、皆で馬車が停まっている正門へとやって来た。

「それじゃあまた明日ね」

「ええ、また明日」

それぞれが自分の家の馬車に乗り込んでいった。私達も馬車に乗り込む。

「ルージュ、今日は酷い目に合ったね。ヴァイオレット嬢は、どうしてルージュにあんな酷い事をしたのだろう？また彼女が変な言いがかりをつけてくるといけないから、十分気を付けないとね」

「ええ、そうですわね。とにかく今日は、午後からはゆっくりしますわ。なんだか物凄く疲れてしまいまして…」

やっぱりヴァイオレットは私が思っている以上に、性格が悪い女の様だ。ただ、あんなすぐにばれる様な嘘を付くだなんて、一体何を考えているのかしら？ただのおバカなの？それとも、何か意図があってやっている？

どちらにしろ、十分に警戒して行かないと…

屋敷に着くと、お母様が出迎えてくれた。

「2人ともお帰りなさい。随分と遅かったわね。昼食の準備がもう出来ているわよ。あら？ルージュ、随分と疲れている様だけれど、何かあったの？」

「ええ、ちょっと色々とありまして。先生に呼び出されていましたので、少し遅くなったのです」

「まあ、先生に？一体何をしたの？」

「義母上、落ち着いて下さい。ルージュは被害者ですから。食事をしながらゆっくり話をしましょう」

興奮気味のお母様を必死にグレイソン様が宥め、皆で昼食だ。昼食中、グレイソン様が今日の出来事をお母様に話していた」

「まあ、そんな事があったのね。ファウスン侯爵家のヴァイオレット様は、ずっと領地で生活をされていたのですもの。それにしても、ちょっと令嬢としてどうなのかしら？あまりにも酷いようなら、すぐに報告して頂戴。ファウスン侯爵にも相談という名目で警告しておくから」

「分かりましたわ。もしどうしても気になる事があったら、その時はお願いいたします」

変に両親が出てきて、あの女を刺激すると面倒だ。出来れば両親は巻き込みたくはない。ただ、家の両親は争いを嫌うため、よほどのことがない限り抗議などはしないだろう。

昼食後は、中庭で大好きなキンシバイを見ながらゆっくりお茶を頂く。こうやって好きな花を見ながらお茶を飲むと、心が落ち着くのだ。

「ルージュ、やっぱりここにいたのだね。僕も一緒にお茶を頂いてもいいかな？」

「ええ、もちろんですが、騎士団の稽古はよいのですか？」

「ああ、今日はその…ルージュが心配でお休みしたんだ。最近のルージュ、また何かに悩んでいるみたいだっただろう？その上、今回ヴァイオレット嬢に言いがかりまで付けられて。またルージュの体調が悪くなったらと考えたら、心配で…」

「私の事をそんなに心配してくださったのですね。ありがとうございます。私ももう少し強くならないといけませんね」

「ルージュは十分心の強い女性だよ。ルージュ、もし何か悩んでいるなら、相談してほしい。僕は君が心配なんだ」

グレイソン様が真っすぐ私を見つめ、不安そうな顔で訴えてくる。

「ありがとうございます。確かに少し前までは悩むこともありましたが、今はもう大丈夫ですわ。私の進む道が見えてきましたので。でも、さすがに今日は疲れました」

隣に座ったグレイソン様の肩に、そっと自分の頭を置いた。すっかり大きくなったグレイソン様は、ちょうどいい高さなのだ。こんな風に甘えられるのは、グレイソン様ぐらいね。いつの間にか、私にとってかけがえのない存在になったグレイソン様。

その後は２人でキンシバイを見ながら、ゆっくりお茶を楽しんだのだった。