第40話 何を企んでいるのでしょうか?

翌日、制服に着替え、部屋から出る。昨日は半日でお終いだったが、今日から丸1日貴族学院での生活が始まるのだ。昨日のヴァイオレットの行動から考えると、きっと私に何らかの攻撃を仕掛けてくるだろう。


正直気が重いが、既に目を付けられた以上、彼女と戦う事しか残されていない。幸い私は、1度目の生の記憶が残っている。その為、あの女がどれほど冷酷で恐ろしい女なのかも、しっかり理解しているつもりだ。


あの女が何か仕掛けてくる前に、しっかり対策を取らないと。そんな思いで部屋から出る。


「おはよう。ルージュ」


「おはようございます。グレイソン様。さあ、参りましょう」


2人で一緒に、馬車に乗り込んだ。


「今日もしヴァイオレット嬢がルージュに酷い事をしたら、今度こそ僕が彼女にガツンと注意するからね。昨日は結局殿下に助けられたところもあったから。本来なら、僕がルージュを守らないといけないのに。本当にごめんね」


「何をおっしゃっていらっしゃるのですか?グレイソン様は、いつも私をしっかり守って下さっておりますわ。ですから、謝らないで下さい」


確かに昨日の殿下は、1度目の生の時とは全く違っていた。ヴァイオレットに対して、かなりの敵対心を抱いていた感じがしたのだ。まるで親の仇を見るかのように、睨みつけていたし…


一体どうしたというのかしら?1度目の生の時は、どんな理不尽な事をヴァイオレット様が行っても、全て鵜呑みにしていたのに…


「ルージュ、学院に着いたよ。さあ、行こうか」


考え事をしている間に、学院に着いてしまった。気合を入れ直し、馬車から降りると教室へと向かった。さて、今日もあの女に睨みつけられるのかしら?そう思っていたのだが…


「ルージュ様、おはようございます。昨日は本当に申し訳ございませんでした。私、本当にどうかしておりましたわ。あなた様に酷い事をしてしまった事、心から反省し後悔しております。どうかお許しください」


教室に入るなり、ヴァイオレットがこちらにやって来たかと思うと、物凄い勢いで頭を下げたのだ。あろう事か、目に涙を浮かべている。この女が私に頭を下げるだなんて、考えられない。


これは何かの罠かしら?そう思い、近くにいた友人たちを見るが、皆困惑顔だ。ただ、こんなに大声で謝っているこの女を邪険に扱えば、きっと私が悪者になるだろう。そうなると、この女の思うツボだ。


「ヴァイオレット様、どうか頭をお上げください。あなた様のお気持ちは十分わかりましたわ。ですからもう、昨日の事は気にしないで下さい」


極力笑顔を向け、彼女の手を取った。正直この女に触れるだなんて、体中から恐怖を感じるほど勇気がいった。でも、必死に自分を奮い立たせたのだ。


すると


「まあ、なんてお優しい方なのでしょうか。こんなお優しい令嬢に、私はなんて事を…ルージュ様、どうかこれからは、私とも仲良くしてください。私、ずっと領地にいたので、お友達がいないのです」


お願いしますと言わんばかりに、上目使いで訴えてくる。私は正直、この顔が大嫌いなのだが、断れる雰囲気ではなさそうだ。きっと何か企んでいるに違いないが、ここは素直に応じるのが得策だろう。


「もちろんですわ。私でよろしければ、ぜひ仲良くしてくださいね」


そう言って笑顔を向けた。もちろん、仲良くするつもりはない。表面上は仲良くしているふりをして、裏ではしっかり警戒するつもりだ。


「ありがとうございます。それでは今日からよろしくお願いしますわ」


そう笑顔を向けると、自分の席へと戻って行ったのだ。


“ちょっと、ルージュ。あの子の変わりよう、ちょっと変じゃない?”


話しかけてきたのは、ミシェルだ。どうやらミシェルも、不審に思った様だ。


“でもあの子は侯爵令嬢でしょう?さすがに自分より爵位の高い令嬢に喧嘩を売った事を、まずいと思ったのではなくって”


“そうよ、もしかしたら両親に怒られたのかもしれないわよ。私達にも謝って来たし”


“クラスメイトだし、向こうが反省し仲良くしてほしいと言っているのだから、仲良くしてあげたらいいじゃない”


そう言っているのは、残りの3人だ。


“あなた達がそう言うのなら、私はいいけれど…どうも信用できないのよね。あの子…”


さすが裁判長を父に持つ、ミシェルだ。人を見る目は一流ね。あの女は確かに何か企んでいるに違いない。ただ…むこうが好意的に近づいてきているのに、邪険には出来ない。


増々頭が痛くなってきたわ。

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