第38話 結局目を付けられた様です

ホームルームの後、私達4人は先生に連れられ、職員室に向かった。貴族学院は生徒と先生が、ゆっくり話が出来るよう、職員室の奥には個室がいくつか準備されているのだ。そのうちの1つに通された。


「それで一体何があったのですか?詳しく話してください」


「先生、私はただ、席が前と後ろのクリストファー殿下とグレイソン様に挨拶をしただけです。それなのに…」


再び涙を浮かべ、先生に訴えているヴァイオレット。相変わらず上目使いが得意な様だ。


「僕はただ、馴れ馴れしく僕の手を握ろうとしてきたので、初対面の男の手を軽々しく握るのは良くないよと、教えてあげただけです。それに対し義妹のルージュが、なぜか僕が失礼な事を言ったと、ヴァイオレット嬢に謝り出して…」


「必死に謝るルージュ嬢をなぜか凄い形相でヴァイオレット嬢が睨んでいたので、僕も令嬢が令息にあまり色目を使うのは良くないと注意しました。そうしたら、ヴァイオレット嬢が泣きだして。僕たちに怒りをぶつけるならわかるけれど、どうしてルージュ嬢を悪者にしようとしたのか、僕たちにはさっぱりわかりません」


「ヴァイオレット嬢、どうしてルージュ嬢を悪者にしようとしたのですか?彼らの話を聞いていると、ルージュ嬢はどちらかと言えば、グレイソン殿の発言に対し、謝罪していただけの様に感じますが」


「あら?そうでしたか?私はてっきり、私の行いを指摘されたと思ったのですが」


「“グレイソン様が失礼な事を申してしまい、申し訳ございませんでした”のどこが指摘なのだい?誰が聞いても、謝罪じゃないか!君の耳、少しおかしいのじゃないのかい?」


怖い顔でクリストファー殿下が、ヴァイオレットに詰め寄っている。


「そんな…私はただ…」


「クリストファー殿下、落ち着いて。確かに私にもルージュ嬢の言った言葉は、謝罪に聞こえますね。違いますか?」


「そう言われてみれば、謝罪だったかもしれません。私の勘違いでしたわ…」


ヴァイオレットが、ポツリと呟いたのだ。


「そうですか、分かりました。それではヴァイオレット嬢の勘違いと言う事で、よろしいですね。ただ、クリストファー殿下、あなたのヴァイオレット嬢に対する言葉は、さすがに酷すぎます。その点に関しては、今後改善をして下さい。これから一緒に勉強をしていく、仲間なのですから」


「はい、申し訳ございませんでした。あまりにもヴァイオレット嬢がルージュ嬢に理不尽な事を言っていたので、頭に血が上ってしまって…その点は僕の落ち度です」


「ヴァイオレット嬢は、ずっと領地で生活していたと聞きます。まだ貴族社会になれていないのかもしれませんが、あまり令息に誤解を与える様な行動は慎んでください。それから、もう13歳なのです。すぐに泣くのもよくありません。貴族たるもの、よほどのことがない限り、涙を流さないものです。分かりましたね」


「はい…以後気を付けます」


きっと気を付ける事はないだろう。1度目の生の時、私は何度も同じことを注意した。でも、全く聞いてくれないどころか、逆恨みして嫌われ、最終的に殺されたのだ。この人に何を言っても無駄なのだ。関わらないのが一番。


現に不満そうな顔をしているし、なぜか私を睨んでいるわ。私、ここに来てから一度も言葉を発していないのだけれど…


結局私は、何をしてもこの女に嫌われる運命なのね。


ついため息が出そうになるのを、ぐっと堪えた。


「今日はもう帰ってもいいです。気を付けて帰ってくださいね」


どうやらもう帰ってもいいらしい。なんだかとても疲れたわ。今日は帰ってゆっくり休もう。そう思い、職員室を出る。


「ルージュ、グレイソン様も大丈夫だった?」


「皆、わざわざ待っていてくれたの?ありがとう。ええ、大丈夫だったわよ」


職員室の前で、友人たちが待っていてくれたのだ。


「それなら良かったわ。ただ、ヴァイオレット様、どうしてあの場でルージュに泣かされたと嘘を付いたのですか?」


近くにいたヴァイオレットを問い詰めるのは、セレーナだ。


「セレーナ、もういいのよ。既に話は済んだから」


「でも…」


「ただヴァイオレット嬢は、ルージュに謝っていないよね。それも勘違いしただなんて、白々しい嘘を付いて!」


話しにはいって来たのは、クリストファー殿下だ。


「謝っていない?一体どういう事?あなたは悪い事をしたのに、謝る事も出来ないの?」


「わ…私は謝りましたわ。とにかく、私はただ勘違いしただけです。寄ってたかって私を虐めるのはお止めください」


そう言うと、ヴァイオレットは走ってどこかに行ってしまったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る