第37話 なんだか様子がおかしい?

教室に着くと、それぞれ席に着いた。1度目の生の時と同じ席順だ。確か殿下の後ろがヴァイオレットで、その後ろがグレイソン様という何とも言えない席順だ。


グレイソン様、あの美貌の誘惑に耐えられるかしら?なんだか不安になって、グレイソン様を見つめる。すると、にっこり微笑んでくれたのだ。


その時だった。


「クリストファー殿下、初めまして。私、ファウスン侯爵家のヴァイオレットと申します。体が弱かったこともあり、ずっと領地で生活しておりましたの。そのせいで、お友達もいなくて…どうか私と仲良くしてください」


くりくりした目を大きく見開き、上目使いで殿下を見つめ、甘えた声で話しかけているヴァイオレット。魔性っぷりは健在な様だ。これはきっと、殿下もノックアウトね。まあ、どうせ2人はくっ付くのだから、問題ないが。


そう思っていたのだが…


「こちらこそ、クラスメイトとしてよろしく」


ニコリとも笑わずそう言うと、クルリと前を向いてしまったのだ。殿下のその姿には、さすがのヴァイオレットも口をポカンと開けて固まっていた。ただ、これで諦めるヴァイオレットではない。


今度はクルリと後ろを向くと


「あなた様はヴァレスティナ公爵家のご令息、グレイソン様ですよね。どうか私とも仲良くしてください。私、体が弱く領地でずっと暮らしておりましたので、友人が1人もおりませんの。ですから…」


何を思ったのか、グレイソン様の手をスッと握ろうとしたのだ。


「ヴァイオレット嬢とおっしゃいましたね。令息の手を気軽に触れようとするのは、よくないですよ。まあ、ずっと領地で暮していたとの事だったので、貴族としての意識がまだあまりないのでしょうが。それから、あなたは令嬢ですよね。令息にばかり声を掛けずに、令嬢たちと仲良くしようとした方がよいのではないですか?そうだ、僕の義妹のルージュに友達になってもらうといいですよ。彼女は本当に魅力的な令嬢です。ルージュに貴族としての立ち振る舞いも、教えてもらうといい」



ちょっと、グレイソン様。一体何を言っているの?さすがに失礼よ。


「グレイソン様、さすがにその言い方は良くないですわ。ヴァイオレット様、私の義兄が失礼な事を申してしまい、ごめんなさい。ほら、グレイソン様も謝って」


「でもルージュ、僕は間違った事は言っていないよ。今日会ったばかりの令息の手を握るだなんて、よくないよ。令息によっては、その気になる事もあるし。やはり誤解を与える事は、控えた方がいいと思うんだ。よくない事は良くないと、しっかり教えてあげるのも優しさだよ」


そのよくない事をよくないと教えてあげようとして、私はあの女に嫌われ、命まで奪われたのだ。とにかくこの女に目を付けられると碌な事がない。


「ヴァイオレット様、私の義兄はなんと申しますか。少し天然なところがございまして。ただ、決して悪気がある訳ではないのです。本当にごめんなさい」


必死にヴァイオレットに頭を下げた。お願い、どうか私達兄妹を見逃して。


「ルージュ嬢が謝る事ではないよ。僕も令息にばかり声をかけているヴァイオレット嬢に、不信感を抱いていたからね。君、ホールに向かう前にも何人もの令息に声を掛けていただろう?道に迷ったとか言って。親切な令嬢が声をかけてくれた時は、無視していたし。さすがに感じが悪いよ」


何とここにきて、クリストファー殿下が、ヴァイオレットにそんな事を言いだしたのだ。


「私は別に、殿方ばかりに声を掛けていた訳ではありませんわ。それなのにそんな言い方をするだなんて、酷い…」


美しいエメラルドグリーンの瞳から、ポロポロと涙を流している。この涙に、殿下は何度騙されていたか。ただ…


「泣けばいいという問題でもないよ。君、もう13歳だよね。子供じゃないのだから、あまり人前で泣かない方がいいよ。さすがにみっともない」


そう言い放つと、再び前を向いてしまったのだ。一体何が起こっているの?まるで別人の様だわ。


あんなにもヴァイオレットに夢中だった1度目の生の時の殿下と今の殿下は、まるで正反対なのだ。何が起こっているのか理解できず、固まる私。


「皆さん、席に着いて下さい。ヴァイオレット嬢、何を泣いているのですか?一体何があったのですか?」


「先生、聞いて下さい。ルージュ様が私に酷い暴言を吐いたのです」


えっ?どうして私が酷い暴言を吐いたことになっているの?全く意味が分からないが、相変わらず性格が悪い事は健在な様だ。ただ…


「君は何を言っているのだい?先生、違います。ヴァイオレット嬢が僕とグレイソン殿に色目を使って来たので、それを僕たちが注意したら急に泣き出して。そんな彼女を庇おうとしたルージュを、よりによって悪者にするだなんて。本当に恐ろしい女だな!」


強い口調で、殿下がヴァイオレットに詰め寄っている。さらに周りからも


「グレイソン様の発言に対し、頭を下げたルージュを悪者にしようとするだなんて!先生、クリストファー殿下の言う通りです。ヴァイオレット様、あなた、ルージュに何か恨みでもあるの?どうしてそんな嘘を付くの?ルージュがあなたに何をしたというの?」


「そうよ、あなたを庇おうとしたルージュを悪者にしようとするだなんて」


次々と友人たちが、ヴァイオレットに意見している。


「ヴァイオレット嬢、それからクリストファー殿下とグレイソン殿、ルージュ嬢も後で職員室に来てくれるかい?」


なぜか私まで呼び出されることになったのだ。


それにしても、殿下は一体どうしちゃったのかしら?私を庇って最愛のヴァイオレットの嘘を指摘するだなんて…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る