第24話 せっかく回避できたと思ったのに… 

お茶会に欠席してから、1ヶ月が過ぎた。どうやら何人かの令嬢が、王太子殿下の婚約者になりたいと名乗りを上げたそうだが、まだ正式に王太子殿下の婚約者は決まっていない。


どうやら王太子殿下が、難色を示している様だ。どうせ貴族学院に入学すれば、ヴァイオレットの虜になるのだから、今はまだ婚約者を選ばない方がいいだろう。ある意味英断だと思っている。


ただ…


「ルージュ、グレイソン。実は来月、また王宮主催のお茶会を行うのですって。前回参加できなかった令嬢もいたため、急遽開催されることになったそうよ。きっとルージュが参加しなかったからね」


「どうして私が参加しなかったからと言って、またお茶会が行われるのですか?私は今回も参加しませんわ」


冷たい水を被って風邪まで引いたのに、どうして私がお茶会に参加しないといけないのよ。


「そうは言ってもねぇ。もし次もルージュが欠席する様なことになれば、ある意味目立ってしまうのではなくって。今回は参加して、殿下に近づかなければいいのでは?」


確かに何度も欠席すれば、ある意味目立ってしまう。もしかしたら、どんな令嬢なのだろうと興味を抱かれるかもしれない。そうなると、非常に面倒だ。でも私は、あの男に会いたくなんてない。


「ルージュ、僕がずっと傍にいるから一緒に行こうよ。絶対に君の傍を離れたりしない。ずっと一緒にいるよ」


私の手を握り、優しく語り掛けてくれるグレイソン様。似たようなセリフ、どこかで聞いたような…


「グレイソン様と初めてお茶会に参加した時に、私がそれと似たような事を言った様な気がしますが…」


「そうだね、あの時ルージュのお陰で僕は、一歩踏み出せた。その結果、沢山の友人が出来た。それに騎士団という新たな居場所も出来たし。僕はずっとルージュに感謝しているのだよ。だから今度は、僕がルージュを守る番だ。大丈夫、絶対に僕がルージュを守るから」


「グレイソン様…」


いつの間にか随分と成長したグレイソン様。まさか彼が私を守ると言ってくれるだなんて…


確かにいつまでも逃げていても仕方がない。一度お茶会に参加しよう。絶対に殿下に近づかなければ、大丈夫だろう。


「分かりましたわ。グレイソン様、絶対に私の傍を離れないで下さいね。絶対ですよ」


「ああ、分かっているよ。ずっと一緒にいるよ。それにマリーヌ嬢たちも来るだろうし、アルフレッドにも傍にいてもらう様に頼んでおくから、きっと大丈夫だよ。王宮のお料理、本当に美味しいから、沢山食べようね」


そう言ってグレイソン様が微笑んでくれた。


「よかったわね、ルージュ。グレイソン、申し訳ないのだけれど、ルージュの事をお願いね」


「もちろんです。任せて下さい」


グレイソン様が胸を叩いてる。本当にいつからこんなに頼もしくなったのかしら?もう常に怯え、俯き絶望に満ちた瞳をしていたグレイソン様の姿はどこにもない。今は希望に満ちた生き生きとした目をしているのだ。


そんなグレイソン様を見ていると、なんだか私も嬉しい。きっと今のグレイソン様なら、ヴァイオレットにそそのかされる事なんて、絶対ないだろう。


ただ…


少しでもリスクを回避するためにも、殿下とヴァイオレットには絶対に近づかない方がいい。これだけは絶対なのだ。


まあ、殿下は前回のお茶会で、令嬢たちに囲まれていたとグレイソン様は言っていたし、あえて絡んでくる事もないだろう。


せっかくなので、私は久しぶりに王宮のお料理を堪能する事にしよう。そう考えたら、少しだけ心が軽くなった。


1度お茶会に参加すればきっと、殿下や王妃殿下も満足するだろう。それに後半年もすれば、貴族学院入学も控えているし。


考えただけでめまいがするが、彼らに近づかなければきっと大丈夫だろう。


まずは、1ヶ月後に開催されるお茶会を乗り切らないと。

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