第25話 不安の中王宮に向かいます

「お嬢様、どうして奥様がご準備してくださったこちらのドレスをお召しになられないのですか?せっかくとても素敵なドレスですのに…」


「それは目立ちすぎるからダメよ。極力シンプルなドレスがいいの。だからこっちのドレスにして頂戴」


今日はついに、王宮主催のお茶会に参加する日。この1ヶ月、やっぱり参加したくない!いいや、今回だけ乗り切ればいいのだから参加しよう!やっぱり無理!という具合に、毎日コロコロと変わる感情と戦って来た。


ストレスからか、食欲も落ち、2キロも体重が落ちてしまった。そんな私を心配した両親が


「そこまで嫌なら、無理にお茶会に参加しなくてもいい。ルージュは最近体調がすぐれないと断りを入れるから」


そう言ってくれたが、これ以上逃げる訳にはいかないと、行く方向で進めてきたのだ。1度目のお茶会の時は、何が何でも参加させようとしていたのに、一体どんな心変わりがあったのだろう?


正直両親の考えている事がさっぱり理解できないが、とにかく今回は参加する事にしたのだ。


ただ、ドレスは地味目の色にした。ちょうどグレイソン様が紫色のドレスを私にプレゼントしてくれたので、そのドレスを着ていく事にした。紫なら落ち着いた色だし、あまり目立たないだろう。


それに兄でもあるグレイソン様の瞳の色のドレスを着ていても、皆何も思わないだろう。現に家族の瞳や髪の色のドレスを着る令嬢も沢山いるものね。


着替えも終わった。後は出発するだけなのだが、やはりまだ殿下に会う勇気がないのか、不安からなんだか胸がムカムカする。


でも、ここで逃げ出す訳にはいかない。胃薬を飲んで気合を入れ直し、部屋から出た。


「ルージュ、なんだか顔色が悪いね。やっぱり今日のお茶会、欠席するかい?」


部屋の外には、心配そうな顔のグレイソン様が待っていてくれた。お言葉に甘えて、欠席しますわ!そう言いたいが、今日欠席しても、またお茶会に誘われる気がするのだ。それなら今日、行っておいた方がいいだろう。


「グレイソン様、私は大丈夫ですわ。ただ、ずっと傍にいて下さいね。絶対に1人にしないで下さい」


「ああ、分かっているよ。アルフレッドにも話はしたから、大丈夫だ。それにルージュは、いつも友人たちに囲まれているから、1人になる事なんてないだろうし。もちろん僕も、ずっと傍にいるよ」


確かに私の周りには、大切な友人たちがいつもいてくれる。グレイソン様もいてくれるし、きっと大丈夫よね。


そう自分に言い聞かせて、グレイソン様と一緒に玄関へと向かった。


「ルージュ、あなた少し顔色が悪いわよ。本当に大丈夫なの?」


「ええ、大丈夫ですわ。それにしてもお母様、前回のお茶会の時は、何が何でも私をお茶会に行かせようとしていたのに。随分と今回は私に優しいのですね」


「あの時は、ただの我が儘だと思っていたのよ。それに元気そうだったし…でも今回は、明らかに体調に異変が出ているじゃない。とにかく、無理はしない事。もし無理だと思ったら、帰って来なさい。分かったわね」


真剣な表情のお母様。お母様なりに私の事を考え、心配してくれているのね。それなのに私、ちょっと意地悪な事を言ってしまったわ。


「ありがとうございます、お母様。それでは行って参りますわ」


「くれぐれも無理はしないでね。グレイソン、どうかルージュの事をよろしく頼んだわよ」


「ええ、任せて下さい。僕が必ずルージュを守りますから」


2人で馬車に乗り込む。まだ不安そうなお母様がこちらを見つめていた。あの顔、グレイソン様が初めてお茶会に参加した時と同じ顔をしているわ。私、知らず知らずにお母様を随分心配させてしまったのね。


なんだかお母様に悪い事をしてしまった気がして、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


「ルージュ、そんな顔をしないで。不安な気持ちもあるだろうけれど、君にはたくさんの友人もいる、もちろん僕もいる。きっと大丈夫だよ」


私の手をギュッと握ってほほ笑んでいるグレイソン様。彼の笑顔を見ると、なんだか心が少し落ち着く。


「ありがとうございます、グレイソン様。正直まだ不安ですが、あなたの笑顔を見たら、少しだけ落ち着きましたわ」


「それは良かったよ。僕の笑顔でも役に立つ事もあるのだね。それにしても今日のドレス、とてもよく似合っているよ」


「本当ですか?確かに落ち着いた雰囲気がいいですよね。私、紫色のドレスってあまり持っていなくて。素敵なドレスをプレゼントしてくださって、ありがとうございます」


「どういたしまして。さあ、王宮に着いたよ。行こうか」


グレイソン様が私の手をギュッと握った。大丈夫、きっと大丈夫よ。ゆっくり深呼吸をして、馬車を降りたのだった。

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