第4話 10歳に戻っていました

「お嬢様、起きて下さい。お嬢様!」


目を覚ますと、私の専属メイド、アリーの姿が。あら?私、あの時騎士に殺されたはずよね。もしかしてアリーも何らかの理由で、命を落としたのかしら?


「アリー、あなたもこっちに来たの?お父様とお母様はどこかしら?あら?これが死後の世界なのかしら?死後の世界は、まるで現実世界の様なのね」


ここはどう見ても私の部屋だ。もしかしたら思い入れの場所を、死後の世界では作り出せるのかもしれないわね。


「お嬢様、何を訳の分からない事をおっしゃっているのですか?一度医者に診て頂いた方がよいかもしれませんね。すぐに医者を呼んで参りますわ」


アリーが急いで出て行ってしまった。ん?医者?私は既に亡くなっているのだから、医者なんて…て、あら?体がなんだか小さい気がするのだけれど…


ベッドから出て、姿鏡の前に立つ。すると…


「私、小さいわ…一体どうなっているの?ここはどこ?」


一体何が起こっているの?私はあの時、確かに殺されたはず。


その時だった。


「ルージュ、一体何があったのだい?」


「ルージュ、体調が悪いの?」


私の部屋にやって来たのは、お父様とお母様だ。私をギュッと抱きしめてくる2人。温かい…もしかして、私たちは生きているのかしら?


「今医者を呼んでいるよ。もしかして、今日我が家にやって来るグレイソンの事を、まだ不安がっているのかい?」


「ルージュ、グレイソン様の件は、あなたにも話したでしょう?彼は今まで辛い思いをして来たのよ。新しい家族として、迎えてあげましょう」


グレイソンが、やって来る?という事は…


「お父様、お母様、もしかして私、10歳ですか?」


「どうしたのだい?ルージュ。そうだよ、君は今10歳だ。確かにルージュの様子がおかしい。医者は何をしているのだ?」


10歳…


もしかしたら私は、何かの拍子に過去に戻ったのかもしれない。正直信じがたい事だが、今の状況を考えるとそうとしか考えられない。


もしかしたら神様が、哀れな私にもう一度生きるチャンスを下さったのかもしれない。きっとそうよ。


「お父様、お母様、変な事を言ってごめんなさい。私はもう大丈夫ですわ。医者も必要ありません」


「何を言っているのだい?とにかく一度医者に診てもらおう。ちょうど医者が来た様だ」


お医者様が来てしまったのね。仕方がない、どこも悪くはないが、診てもらうか。


診察の結果、特に異常なしとの事。もしかしたら怖い夢を見たのかもしれないとの事だったので、先生の話に合わせておいた。


「異状なくてよかったわ。それじゃあ、私たちはグレイソン様のお迎えに行ってくるから、ルージュも準備をしておいて」


そう言うと両親は部屋から出て行った。


グレイソン!あの男があんな女なんかにそそのかされなければ、私たちは!


…いいえ、違うわ。グレイソンもあの女の被害者なのよ。悪いのは私。あの女に目を付けられた私が悪いのだわ。


それにしても、ヴァイオレット!あの性悪女だけは、どうしても許せない!せっかく過去に戻ったのだ。あの女に復讐を…


そう思ったが、あの女のニヤリと笑った顔が脳裏に浮かんだ。その瞬間、ゾクリと寒気がする。あの女は狂っている…あんな女と戦ったらまた、私はもちろん、お父様やお母様を危険に晒してしまうかもしれない。


あの女をこのまま野放しにするのは心苦しいし、腹が立つ。でも…


私は今度こそ、幸せになりたい。令嬢としてどこかの殿方に嫁ぎ、平和に暮らしたい。もう二度と目の前で大切な人を失うなんてしたくない。


だとすると、私がやらなければいけない事は…


本当に悔しいが、あの女には関わらない方がよさそうだ。とにかく目立たず大人しくしていればきっと、あの女も私になんて興味を持たないだろう。


せっかく神様が与えてくれた2度目の生、大切にしていこう。


「お嬢様、そろそろお着替えを」


「そうね、とりあえず着替えをしないとね」


もうすぐグレイソンがやって来る。とにかく着替えて、迎え入れる準備をしないと。


でも、あの男の顔を見たら、怒りがわいてこないかしら?あの男も被害者とはいえ、あいつのせいで私たちは殺されたのだから…


そう考えると、不安になって来た。とにかく、最初の生の時の様に、極力グレイソンには関わらないようにしよう。

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