第3話 私の大切な家族が…
クリストファー様が去った後、また足音が聞こえて来た。今度は一体誰だろう。
「ルージュ様、ごきげんよう」
やって来たのは、ヴァイオレット様だ。
「いつも凛としていたあなたが、随分とみすぼらしい格好をしているのね。本当にいい気味だわ。私、ずっとあなたが嫌いだったの。だからね、あなたから奪っちゃった。クリストファー様を」
ヴァイオレット様がにっこり笑った。さらに
「あの人、本当に単純なのよ。私が涙を流して訴えれば、すぐに私の言う事を聞いてくれるの。男なんてみんなそう。そうそう、あなたの義兄のグレイソン様。あの人、本当に単純よね。ちょっと優しくしてあげただけで、私の言う事を何でも聞いてくれて。私はね、あなたが大嫌いなの。このまま貴族社会に居続けられたら迷惑だから、グレイソン様を使ってあなたには消えてもらう事にしたわ」
「それは一体どういう事?グレイソンを使ったって?」
「“このままだと私は、クリストファー様と無理やり結婚させられる。お願い、私を一緒に逃げて“そうグレイソン様に伝えたのよ。あの男、単純だから本当に私と一緒に他国に逃げようとしたのよ。既に王太子殿下の婚約者でもある私を連れ出せば、どうなるかくらいわかっていたでしょうに。本当にバカな男」
この女、何を言っているの?それじゃあ、グレイソンは…
「要するに、グレイソンを嵌めたという訳ね。あなたは人を何だと思っているの?あなたのせいで、グレイソンは殺されるのよ。それに私達だって…」
「あら、目障りなものを消し去る事は、大切な事よ。貴族社会は、いつもドロドロなの。あなただってわかっているでしょう?嵌められる方が悪いのよ。そうそう、今からグレイソン様の公開処刑が始まるわ。あなた達は彼の処刑を見守ってから、国外に出る予定になっているの。そろそろお迎えが来るだろうから、私はもう行くわね」
「ふざけないで!私はあなたを絶対に許さないから」
何なのよ、あの女。私達の事を、何だと思っているの?悔しくて涙が込みあげてきた。ただ、あの女と入れ違いで騎士たちがやって来て、私たちを外に出したのだ。外には鎖で繋がれたお父様とお母様の姿が。
「お父様、お母様」
「ルージュ、よかった。でも、グレイソンが…」
ふと前を見ると、同じく鎖で繋がれたグレイソンの姿が。既に死を覚悟しているのか、特に抵抗するそぶりはない。ただ、その瞳は絶望に満ちたとても悲しい瞳をしていた。
彼の瞳を見た瞬間、胸が締め付けられた。彼もあの女の被害者なのだ。私はこれ以上グレイソンを見る事が出来ずに、俯いた。途中、お父様とお母様の泣き声が聞こえて来た。
きっと執行されたのだろう。
そして私たちも、乱暴に馬車の荷台に乗せられた。
「グレイソン…可哀そうに…」
涙を流すお父様とお母様。正直グレイソンは気の毒だが、そもそもあの男があんな女に惚れこまなければ、私たちはこんな目に合わなくて済んだのだ。そう思うと、どうしても私は、グレイソンの死を悲しむことが出来ない。
「どうしてお父様とお母様は、そんなに悲しめるのですか?グレイソンのせいで、私たちは今から無一文で他国に放り出されるのですよ…」
そうポツリと呟いた。
「ルージュ、そんな事を言わないでくれ。グレイソンは両親を急に亡くした後、親戚の家で使用人以下の生活を送らされていたのだよ。笑ったり泣いたりすることも許されず、毎日暴力に怯えていた。本来なら私たちが、彼の心の傷に寄り添うべきだった。でも…」
「きっとグレイソンは、初めて優しくしてくれたヴァイオレット嬢を本気で愛してしまったのね。もし私たちがもっとグレイソンと向き合っていたら、グレイソンもこんなバカな事をしなかったかもしれない。そう思うと、グレイソンに申し訳なくて…」
「私はグレイソンの両親が亡くなり、彼を引き取った時に誓ったんだ。グレイソンを幸せにすると。でも、結局こんな形でグレイソンを死なせることになってしまった。その事が申し訳なくて…」
そう言って涙を流すお父様とお母様。グレイソンは、そんな酷い扱いを受けていただなんて…ふと最後に見たグレイソンの瞳を思い出す。
その時だった。急に馬車が停まったのだ。
「おい、降りろ」
そう言うと、私たちは引きずりおろされたのだ。まだ隣国には着いていないはず。どう見てもただの森だ。
すると1人の騎士が、スッと剣を抜いたのだ。
「ヴァイオレット様の命令で、お前たちをここで処分する事になった」
ヴァイオレット様の命令で処分?そうか、あの女、私たちを最初から生かしておくつもりはなかったのね。本当に嫌な女。
騎士の行動で全てを察知したお父様が、急に剣を抜いた騎士に体当たりしたのだ。
「ルージュ、お前だけでも逃げるんだ」
そう叫んだのだ。でも次の瞬間、お父様は切られてしまった。
「お父様!」
急いでお父様の元に駆け寄ろうとしたのだが
「ルージュ、あなただけでも逃げて」
今度はお母様が、騎士に体当たりをしたのだ。でも、またすぐに切り殺されてしまった。
「お母様!!いやぁぁぁ」
誰よりも優しいお父様とお母様が…泣き叫ぶ私に
「すぐにお前も両親の元に送ってやるよ」
そう言うと私に切りかかって来た騎士。
「きゃぁぁ」
体中に激痛が走る。私、もう死ぬのね…
お父様、お母様、ごめんなさい。私があんな女に目を付けられたばかりに…すぐに2人の元にいくから…
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