第5話 グレイソンと対面です
「お嬢様、旦那様と奥様、グレイソン様がお戻りになられました。既に居間で皆様お待ちです」
「そう、分かったわ。すぐに行くわね」
ついに来たのか。とにかく冷静に対応しないと。そんな思いで居間の扉の前にやって来た。この先に、グレイソンが…
目をつぶり深呼吸をする。そしてゆっくりとノックをし、部屋に入っていく。
「お待たせして申し訳ございませんでした」
「ルージュ、来たか。グレイソン、娘のルージュだよ。今日から君の義妹になる子だ。ルージュ、彼がグレイソンだ」
「グレイソンです…どうぞよろしくお願いします」
1度目の時の生と同じく、俯き加減でほとんど私の方を見ずに挨拶をするグレイソン。
「ルージュです。あの…今日からどうぞよろしくお願いします。私の事を、本当の妹の様に思って下さると嬉しいですわ。グレイソン様」
彼に近づくと、スッと彼の手を握ったのだ。私は一体何をしているのかしら?でも、体が勝手に動いたのだ。
彼の瞳を見た瞬間、処刑される寸前の絶望に満ちたあの目と一緒の目をしていた。その目を見た瞬間、胸がぎゅっと締め付けられ、気が付くと今の行動をとっていたのだ。
初めて握った彼の手は、小刻みに震えていた。それになんて細い手なのかしら?しっかり食事は食べているの?そう心配になるくらい、よく見ると彼はやせ細っている。
そういえばお父様が、彼は親戚の家で酷い扱いを受けていたと聞いたと言っていた。きっと食事もろくに与えてもらえなかったのだろう。
確か彼は元々侯爵令息で、引き取られた先も侯爵家だったはずなのに。まって、腕に傷があるわ。もしかして…
ぐいっと彼の袖をまくり上げると、いくつもの傷が。まさか鞭で打たれたの?
「ルージュ、一体何をしているのだ!グレイソン、すまない」
すかさずお父様が彼の裾を元に戻した。まさかそんな非道な仕打ちを受けていただなんて…
「とにかくこれからグレイソンは、家の家族として一緒に暮らしていくから。分かったね」
「ええ、分かりましたわ。あの…急に袖を捲ったりしてごめんなさい」
きっと見られたくなかった傷だろう。それなのに私ったら、いくら何でも配慮が足りなかったわ。それに何より、私はこの人に関わらない様にしようと思っていたのに。
「気にしなくても大丈夫です。あの、どうかよろしくお願いします」
「それじゃあ、グレイソンの部屋に行こうか」
お父様がグレイソン…様を連れて、部屋から出て行った。1度目のせいでは、グレイソンだなんて馴れ馴れしく呼んでいたけれど、少し距離を置く意味でも、“様”と付けよう。
「ルージュ、あなたって子は。でも、あなたも分かったでしょう。グレイソン様は、ご両親を亡くしてから親戚の家で酷い仕打ちを受けて来たの。そのせいで、グレイソン様は見た目だでなく、心にも深い傷を負っているのよ。分かったわね」
「はい、分かりましたわ」
1度目の生の時は、あまりグレイソン様に関わってこなかった記憶がある。彼も私に近づいてこなかったし…今回もあまり彼には関わりたくはないが、あんな酷い姿を見せられたら…
う~ん、やっぱり必要最低限に関わるくらいにしよう。そう心に決め、部屋に戻ってきた。
ただ…
部屋に戻って来てからも、彼の絶望に満ちた瞳が忘れられない。それにあの傷…
考えたくないのに、なぜか考えてしまう。
「お嬢様、昼食のお時間です」
「あら、もうそんな時間なの?よく考えたら私、バタバタしていて朝食も頂いていなかったわね」
地下牢では本当にろくなものを食べさせてもらえなかったのだ。久しぶりの我が家の食事。楽しみで仕方がないわ。
早速食堂へと向かった。
すると、既にお父様とお母様、さらにグレイソン様も来ていた。いけない、最後だったのね。
「お待たせしてごめんなさい」
急いで席に着く。
「それじゃあ、早速皆で頂こうか。グレイソン、沢山食べなさい。君は痩せすぎているから、いっぱい食べないとな」
早速お父様が、彼の世話を焼いている。お父様もお母様も、非常に世話焼きなのだ。そのせいか、私もお節介な性格をしている。
もしかしたらお節介な私の事を、クリストファー様も嫌だったのかもしれないわね。まあ、今更あの男にどう思われようが関係ないが。
それにしても、やっぱり我が家のお料理は美味しいわ。こんなに美味しい食事を食べたのは、いつぶりだろう。
その時だった。ガシャンという大きな音が聞こえたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。