第37話 反乱
異世界から召喚された者達の目に余る横暴に対し、王都の市民達の間では、ある噂が立っていた。
神の代行者と言われてはいるものの、その実、彼らはハルバの使徒を語る悪魔の遣いなのではないか、というのがその内容であった。
ハルバ教の教会には、いくつかの勢力が存在し、異世界人を召喚した本部の司祭達と対抗する者達が、教会の権威を回復する為にその噂を流していたのだ。
噂が広まった事により、殆んどの召喚者達が王宮を離れているタイミングを見計らい、王都では市民達が次々と脱走を始める事態となっていた。
更には、その状況を好機と捉えた各地の諸侯が、一斉に反乱の火の手を上げ始め、その情報はすぐに王宮にも伝わったのである。
王宮に仕える臣下や兵士達の間でも、その話が盛んに行われるようになり、自分達の立場に不安を感じる者が大半を占める状態となっていた。
そんな状況に、新国王から離れる事を決意する者達が相次ぎ、王宮からは一人、また一人と臣下や兵士達が姿を消していった。
いつの間にか周りから人が消えていく状況に、奏多は当然の事ながら激怒していた。次々と姿を眩ましていく者達に対し天罰を与える為に、彼は各地に散っていたクラスメイト達を、再び自分の元に呼び集める。
「どんどん人が消えてくって言っても、奏多があたり構わず殺しまくってるから、逃げ出したのか殺したのか、どっちだかわからない状態になってるよね?」
そう揶揄する亜里奈に対し、奏多は特に怒る事もなく、不敵な笑みを浮かべながら集まったクラスメイト達に向かって宣言する。
「王様ごっこはもう終わりだ! お前らにはこれから、神に対する供物を徴収する為に働いてもらう! 具体的に言うと、要は狩りに出てもらうって事だな! 武神体の所在についての当たりも、何となくついてきた! 来るべき時が来るその日まで、思う存分に狩りを楽しんでくれ!」
クラスメイト達が、仮面の英雄と呼ばれるフレイアを殺すというゲームを行っている間に、奏多は武神体についての新たな情報を得ていた。
奏多は、天の声によって次なる行動を示されていたのだが、それによるとムーンガルド大陸とは別の大陸である、アーリア大陸という場所に向かう事が、彼ら召喚者達に与えられた新たなる目的のようであった。
もはや、この大陸は用済みであるが故に、彼は最後の祭りを派手に行う事にしたのだ。
奏多の宣言により、王宮を出たクラスメイト達は好き放題に殺戮と略奪を始める。
既に多くの住民が王都を逃げ出していたとは言え、召喚者達による突然の暴挙に町は大混乱に陥る。まだそこに残っていた多くの人々は、彼らの無差別な殺戮に対し、怨嗟の声を上げながらただ逃げ惑う事しかできなかった。
祭りの様子を見る為に、一緒になって町に繰り出していた奏多は、その凄惨な光景に満足そうである。
一つ、彼にとって僅かに気がかりだったのは、聖也の安否についてであった。
しかし、召集の際にもやはり連絡を取る事が出来なかった状況からみても、恐らくフレイアによって殺されてしまったのだろうとも考えていた奏多は、既に彼ら五人については見捨てており、例え彼らが生きていたとしても、そのままこの大陸に置いていくつもりでさえいたのだ。
「どうせ移動の最中に、必要なら略奪して移動していくんだから、ここでお宝や物資を沢山手に入れても、あまり意味がなくない?」
亜里奈の質問に対し、奏多は不敵な笑みを浮かべながら答える。
「これは俺を小馬鹿にしていった連中に対しての、天罰でもあり、祭りでもあるからな! あいつらだって、盛大に楽しんでるみたいだぜ?」
──ただの腹いせじゃない? そう思った亜里奈ではあったが、彼女はその考えを口に出すことはせずに、ただその光景を呆然と眺めるばかりであった。
☆☆☆
その頃ディールは、実家であるヴァーニア侯爵家の城に帰っていた。魔力砲の生産が終わった後すぐに、グリーラッドの領地を出発したのだが、転移陣が使える為に僅か半日程で到着する事ができていた。
アル以外の者達には、自分は黙って出発したという体にしてもらう為に、彼女にはそう話すように言伝てをしていた。
思わぬ愛息子の帰省に、喜びを表すスコット。
「レイチェルが手紙を送ってから、まだ三日しか経たぬというのに、連絡を受け取ってからすぐに、駆けつけて来てくれたのだな? 久々に会えて、嬉しいぞディールよ!」
「実家の危機と聞いては、すぐに駆けつけないわけにもいきませんので、取る物も取り敢えずに駆けつけた次第です」
「そうかそうか! 旅の疲れも有ろう? すぐにでも状況の説明を始めたいところではあるが、まずは風呂にでも入り、ゆっくりと旅の疲れを取るが良い!」
父に進められるがままに、せっかくなので風呂場へと向かうディール。
彼が応接間を後にしてすぐに、次兄のスネイクは舌打ちをしながら悪態をつく。
「ちっ! あの野郎、フレイアを連れて来たのかと思ったら、一人で帰って来やがったぜ! 召喚者に一撃で倒されたアイツじゃ、糞の役にも立たないだろうぜ」
長兄のレイチェルも同意見のようで、期待外れの結果に残念そうに言う。
「やはり、フレイア殿の説得は失敗したようだな......まぁ、状況はかなり変わったようだから、あんな奴でも居ないよりかは少しはマシか......」
二人の言い様に、スコットはいい加減に呆れたと言った感じで、いつものように怒る事はなく、淡々と息子達に向かって説き始める。
「どうしてお前達は、ディールの事をそんなに目の敵にするのだ? 実家の危機を聞いて駆けつけてくれた弟に対し、労いの言葉の一つもかけてやったらどうなのだ?」
そんないつもとは違う感じの父に少し驚きつつも、スネイクはあくまでもその主張を貫き通す姿勢を見せる。
「しかし、父上! 聖剣も返納させられた今の奴では、召喚者を相手にするには役不足なのは事実です! それに、兄上だって期待を裏切られたのです。そのような反応を示すのは、仕方がない事ではないですか?」
あくまでも主張を曲げない次男に対し、更に呆れ返るスコット。彼は、この兄弟達の行く末を案じずにはいられなかった。
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