第38話 王都奪還



 魔物達の襲撃も完全に収束した事もあり、各地で上がった召喚者達に対する反抗の火の手であったが、それらの勢力は魔王殺しの勇者を得たヴァーニア侯爵家の軍勢に、まるで引き寄せられるように集約されていった。


 既に王都を守る軍勢は完全に瓦解しており、15万にも膨れ上がった召喚者討伐軍は、これと言った抵抗を受ける事もなく、ついに目的の都へと到達した。


 討伐軍の総大将は、建前上ヴァーニア侯爵家の長男であるレイチェルという事になっていたが、多くの反抗軍がそこに加わった理由は、他ならぬディールの存在が大きかったと言える。


 召喚者達が、軍を率いて打って出る様子はない。


 攻撃を開始するにあたり、最後の作戦会議が開かれる。


「王都の様子は、如何にも不気味だ! まるで、住民も兵士も、誰一人として存在していないかのように静まり返っている」


「まさか本当に、人っ子一人居ないのではないだろうな?」


「それは流石にあり得ないだろうが、僅かな軍しか残っていないのは間違い無さそうだ! 数に任せて、一気に陥落させよう!」


「わざとそう見せて、罠を張っている可能性も有るのでは?」


 各将軍達から様々な意見が飛び交う中、一人ディールだけは、この想像以上に大規模となった討伐作戦が肩透かしを食う事になるのを認識していた。


 彼の気配感知は、既に王都に誰一人として存在しない事を告げていたのだ。


 ただ、唯一、人ならざる気配も同時に感知するディール。その正体に心当たりが有った彼は、徐に手を上げると、将軍達に向かって言う。


「まず、俺が一人で様子を見に行っても良いか?」


 弟の発言にスネイクはいつもの調子で、将軍達の前で辱しめを与えようと彼を卑下してみせる。


「召喚者に一撃で倒された奴が、一人で様子を見に行くだと? むざむざ殺されに行くようなもんだろ? 名誉を挽回したい気持ちはわかるがな。そんなお前だって、今となっては大事な戦力の一人だ! 兄としてそんな無謀な事、許可するわけにはいかないな!」


 如何にも自分の方が立場が上であると強調したかったスネイクであったが、その場にいた殆んどの将軍達はその言に閉口してしまう。


 副将であるスネイクの意図をその場の全員が察していたのと、現場経験の多い彼らはディールの本当の強さを知っていたからだ。


 オーガの大群と対峙していた軍の司令官を務めていたマイティスが、堪りかねて挙手もせずに発言する。


「ディール様が異世界人に倒されたという話ですが、何か特別な事情でも有ったのではないでしょうか? 私には彼が噂の通り一撃で負けてしまうとは、とても思えません」


 多くの者達が彼の意見に同調している様子で、皆大きく頷いていた。


「確かに理由は有ったが、その時負けてしまったというのは事実だ。だが、今回は何も遠慮する必要もない状況だからな。万が一、奴らと戦う事になったとしても、もう負けるつもりは微塵もない!」


 ディールの言い様が引っ掛かったマイティスは問う。


「万が一とは?」


「俺の予想では、既に王都も王宮も、もぬけの殻だ! だから、一応、罠である事も想定して、俺が一人で様子を見に行こうって話だ!」


 自信有りげな弟の発言に、総大将であるレイチェルが条件付きで許可を下す。


「そこまで言うのなら良いだろう! どのみち斥候を送るつもりではいたのだからな! 万が一何か様子のおかしな事でも有った時には、すぐに戻って来ると約束するなら、その話を許可しよう!」


 長兄の許可を得たディールは、騎馬に跨がりすぐに本陣を出立する。


 開かれたままの城門を潜った彼は、周囲の状況を気にする事もなく、真っ直ぐに王宮へと向かう。


 索敵こそしていなかったものの、彼の目には市街に広がる、召喚者達の所業による凄惨な光景が、否応なしにも飛び込んでくる。


 久しぶりに入った王宮の中も同様に、凄惨な殺戮の跡が広がっていた。


 気配感知を頼りに、ディールはどんどん奥へと進んで行き、ついには王族達ですら知らなかった秘密の地下空間に到着した。


 巨大な鋼鉄の扉を前にして、絶句するディール。その扉の脇には、変わり果てた王女の姿があったのだ。


 彼の姿を見て状況を察したティナは、驚く様子もなく悲しげに言う。


「ディール様......このような姿になってしまった私を、きっと心の中ではお笑いになっておりますよね?」


 昔の高慢な態度とは違う、すっかり状況を諦めてしまった感じの王女に、同情して言葉を失うディール。


 続けてティナは、彼に対して懇願する。


「もし、できうる事であれば、ディール様! この私を殺していただけませんでしょうか? これから先も、このような姿のまま生き永らえるなど、私にはとても堪えられそうに有りません!」


 ティナの発言を受け、ディールはようやく口を開く。


「わかった......出来る限りの事は、やってみよう......」


 そう言った彼の髪は銀色に輝き、全身から青白い光を放つ。


 光に当てられた鋼鉄の檻と、ティナの胴体となっていた醜悪な肉塊は消滅していき、彼女は最後の叫び声をあげた。


「嗚呼! ディール様───」


 しかし、ディールが輝きを収め元の状態に戻ると、檻の有ったその場所には、人の形を取り戻した、一糸纏わぬ姿のティナが横たわっていたのだ。



★★★



後書き


ここまで読んでいただき、ありがとうございますm(__)m

また、いつも応援くださる皆様、星やハートの応援、作者は非常に励みになっております(*>∀<*)

これにて第3章、終了となります。

今後の展開が気になると思われましたら、早めの★評価などしていただけると、作者の創作意欲に繋がります。

また、一言、冷やかすような内容でも構いませんので、お気軽にコメントなどもいただけると、非常に嬉しいです(*´∀`*)

★評価場所は、目次のページに戻りますとございますので、少しでも面白いと感じていただけた際には、よろしくお願いいたしますm(__)m

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