第36話 仲間達の存在



「クソッ! 一体何が有ったってんだよ!」


 急に消えた敵軍を追撃する事なく、悠哉は地面に埋もれていた奏多を発見すると、兵を引き上げ王宮に帰還していたのだが、程なくして意識を取り戻した奏多は、状況が掴めずに目覚めるなりそう叫び出した。


「何が有ったのか聞きたいのはこっちの方だぜ?奏多」


 悠哉は、奏多が目覚めたら事情を訊くつもりでいたのだが、当人のこの反応に面食らってしまう。


 とりあえず、わかっている範囲で、お互い状況についての説明を始める二人。


「気づいたら、いつの間にか敵の軍が撤退を始めていたからよ~。てっきり奏多が敵の大将の首を取ったんだと思って状況を確認しに行ったら、地面に埋もれた状態のお前を発見してびっくりしたぜ。総大将がそんな状態じゃ、どうして良いのかわからなかったから、とりあえず軍を引き上げて、王宮に戻って来た感じだな」


「クソが! 敵をみすみす逃したってのか? こっちは、敵の大将を後一歩で殺すところだったんだ!」


「じゃ、何であんな状態になっていたって言うんだよ?」


「それがわからねーから、俺も余計にムカついてるんだろ!」


「しかし、自動再生ってパッシブスキルはスゲーよな! 発見した時のお前は、殆んど瀕死の状態だったんだぜ? でも、一日もしたら、もうケロっとしてんだからな~」


 あまりにも突然すぎる事であったが故に、奏多はまさか自分がターゲットにしていた男に、一撃で瀕死の状態にまでされていたという状況すら把握してはいなかったのだ。



 両軍が撤退した事で、この戦争はお互いが其々、勝利宣言をし、一応の格好をつける形となった。



☆☆☆



 軍を引き上げて、ヴァーニア侯爵領へと帰還したレイチェルとスネイクは、父のスコットを交えて、戦果の報告と今後の行動についての話し合いを行っていた。


「まさか、異世界人が、あんな化物染みた強さだなんて、思ってもみませんでした......」


 レイチェルが父に向かってそう呟く。


「だから申したであろう? あのディールが、一撃で倒されたと聞いておったのだ! いくら高価な魔道装具を持っていたとしても、常人が敵う相手ではない事はわかっておったのだ!」


「戦自体は、我が軍が常に優勢に運んでいたのですが......個の力であそこまでやられると、軍略も何も有りません。しかし、ディールの奴が、あのフレイア殿と友人関係だったとは......何とかあの御仁を、我が方の味方に出来ないものでしょうか?」


「召喚者を一撃で倒すなど、もはや人かどうかすら怪しいものだがな。少なくとも悪人というわけでは無さそうだから、味方になるよう交渉してみるのも手かも知れん」


「では、早速、ディールの奴に伝聞鳥にて手紙を送りましょう! 実家の危機です。奴の事ですから、必ずフレイア殿を説得してくれるはずです!」


 人外の強さを持つ者に対しては、同じく人外の者を当てるのが最上の策と判断したレイチェルは、話し合いが終わるとすぐに執務室へと向かい、弟に向けた手紙を書き始める。


 伝聞鳥という、魔道具を取り付ける事によって制御できるようにした鳥に、手紙をくくりつけるレイチェル。執務室のテラスに出た彼は、その鳥を空へと放った。


 まさかその弟が、仮面の英雄フレイアであるという事も知らずに───



☆☆☆



 それから数日が経ち、ディールは兄のレイチェルから送られた援軍要請の手紙を受け取っていた。


 フレイアに対し、反抗軍に加わるよう説得して欲しいという内容の手紙に、頭を悩ませられたディールは、臣下の者達を集めて緊急の会議を行っていた。


「フレイアを説得したところで、奴は戦争に加わるという内容では動いてくれないだろう」


 ディールは臣下の者達に事情を説明し、自身の見解を述べた。それに対して、ジト目を向けながらアルは言う。


「ディール様! ここに居る皆には、もう話してしまえば良いのではないですか?」


「話す? 何の事だ?アル」


 あくまでもシラを切り通そうとするディール。情報を知っている人間が多ければ多い程、漏洩する危険性も高まるというものだ。


 ディールの考えを察したのと、自分だけがそれを知っているという優越感から、アルはそれ以上はつつく事はしなかった。


 何か、二人だけの秘密がある様子に、ガルドは怪訝な表情をしつつも、その件は突っ込まずにディールの考えを求める。


「それで、ディール様はこの件に関して、どうお考えなのですか?」


「さあな、どうしたものか......俺がここを長期間離れるわけにもいかないし、かと言ってフレイアは絶対に動かないとわかっている。この際だから、実家の危機は放置するしかないか?」


「大事なご実家の危険なのです! それを放置するなど、ディール様の心情的にも居たたまれない気持ちなのではないですか?」


「まぁ、両親の事だけは心配だけどな。兄貴達の事は正直、自分のケツは自分で拭けって感じか」


 ディールの冷たい反応に、エマは自身の実家の事について心配する気持ちも有った為、彼女にしては珍しく彼に対して懇願する。


「お願いよディール! 私の実家も隣同士なんだから、絶対に巻き添えを食うわ! だから、今回の件は何とかしてあげて欲しいの!」


「最近、アメリア王国の動きも活発になってきたしな......エマの気持ちもわかるが、やはり俺がここを長期間離れるのは、かなり心配だな......」


 ディールの発言に対し、ガルドは彼の不安を払拭する事が出来る方法を思いつき、それに関しての質問をする。


「ディール様がお持ちの、レールガンという武器ですが、それが何挺か有れば、かなりの戦力強化に繋がると思います。しかし、やはりそれは、ディール様が勇者時代にどちらかで手に入れた、神級の魔道具かなにかなのでしょうか?」


「いや、こいつは俺が作った武器だから、他に作ろうと思えば、いくらでも作れるさ。ただし、こいつは普通の人間には扱う事が出来ない」


「あまりにも強烈な威力に、普通の人間ではその反動に耐えられないという事でしょうか?」


「まぁ、それも有るがな。強力な電流を発生させる事が出来ない者には、使用する事が出来ないって言うのが一番の理由だ。だが、その考え自体は良い案かも知れないな」


「何か、類似する別の案でも?」


「ああ、大量に魔力砲を生産して射手を育成すれば、少ない兵力でも有効に戦う事が出来るんじゃないか?」


「しかし、それを大量に生産するなど、可能なのでしょうか?」


「それについては大丈夫だ! 俺に任せとけ!」


 魔力砲をディールが大量に生産するという話にはなったものの、結局のところどう話を進めるのか疑問に思ったエマは問う。


「それで、あなたは実家の救援に向かうって事で良いの? その魔力砲ってやつを大量に配備すれば、あなたが居なくてもここを防衛できるって事?」


「まぁ、とりあえずはな! 俺もそんなに長くここを離れるつもりもないけど、まるっきり顔を出さないってわけにもいかないから、魔力砲の生産が上手くいったらエマにはここの事をしばらく頼んでも良いか?」


「ええ! 勿論よ! それじゃ、私の実家の事もお願いねディール!」



 話は纏まり、新たな防衛体制を整える為の準備が行われる事となる。


 ディールにとって、今回の件は気が重い話ではあったが、それと同時に彼は、新たに得た仲間達の存在を頼もしくも感じるのだった。

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