第21話 恥ずかしい+可愛い=バズ! ボクの方程式は完璧です!

「今日はどんなのを履いているんですかぁ? お姉さんにみ・せ・て♡」


 甘えるような声色で囁きながら、下から覗き込んでくる彼女。慌てて手で抑えようとするも、まるで魔法でもかけられたかのように体が動かず、そのままスルスルと持ち上げられていく。

 やがてその艶かしい太ももがあらわになった瞬間、心臓が大きく跳ね上がった。


「あらあらあらぁ〜♡ これはまた♡」


 サキュバスは俺の股間を見ると、口元を手で押さえながら嬉しそうな声を漏らしてニヤリと微笑んだ。

 その表情にゾクッとする何かを感じる。そして同時に、体の奥底から熱いものがこみ上げて来るような感覚に襲われた。

 これは羞恥心だ。

 今まで感じたことの無い類の羞恥心が、俺の心を支配していく。そのせいか、体もどんどんと熱くなっていく……。


「うぅ……」


 恥ずかしすぎて死んでしまいそうだ……。だが、そんな俺とは対照的に、サキュバスの方は実に楽しそうである。

 彼女はニコニコとしながら俺の股間を品定めでもするように凝視している。その視線を受けるたびにゾクゾクとした快感にも似た感覚が背筋を走り抜けるのだが、これのせいで抵抗もままならない。


「はぁ……ユヅキさんは男性物の下着を履いてるの。だから貴女に選んで欲しいのよ」


 レイナはそんな俺の様子を見かねたのか、ため息混じりに言う。しかし、サキュバスの方は特に気にする様子もなく、相変わらず俺の股間から目を離そうとしない。


「なるほどぉ♡ ユヅキちゃんは男の子のパンツを履いてるんですねぇ♡ それは勿体無い♡」


 彼女は舌なめずりをしながら囁くように言った。その声色からは情欲の色が見て取れる。その表情には先ほどまでの無邪気な子供っぽさなど一切なく、代わりにあったのは獲物を狙う肉食獣のような眼光だ。


「ユヅキちゃん♡お姉さんと一緒に下着を選びましょうねぇ♡」


 妖艶な笑みを浮かべながら迫ってくるサキュバスから逃れる術はなかった……。俺は涙目になりながらも小さく首を縦に振った。


「ほらぁ♡ あっちに可愛い服が沢山ありますよぉ♪」


 ぐすんと迷子の子供のように泣きべそをかく俺を引っ張るようにしながら、サキュバスは近くのフロアへと連れ込んでいく。


「ぎゃー! 師匠が誘拐されますぅ!」

「されないわよ……。はぁ、とりあえず私たちも行きましょう」


 心配そうに叫ぶエリオットに対し、レイナは呆れたようにため息をつくと俺の後を追ってきた。


「あの女、絶対ロリコンよ。エリー、気をつけなさい」

「それを言ったらレイナさんも……」

「何か言った?」

「……ひぇ、なんでもないですぅ」


 ……などと話しているうちに、サキュバスはフロアの一角にある小さなお店の前で立ち止まった。店内には色とりどりの下着が所狭しと並べられており、そのどれもが可愛らしくてオシャレなデザインをしている。


「ちょ、ちょっと可愛すぎないか?」

「可愛いのが好きなんですかぁ?」

「いや、そういうわけじゃ……」

「ユヅキちゃんはすごく可愛いんですから、下着も可愛く行かなきゃダメですよぉ?」


 そんなこと言われたって俺は中身男なんだぞ……。こんな……こんな可愛い下着なんてつけたら、心まで女の子になっちまう気がするんだよぅ……。

 しかし、そんなことを言えるわけもなく俺は結局されるがままだった。


「師匠……うぅ……行かれてしまうのですね。そちらの世界に……」

「泣くなエリオット! 俺は、生きて帰ってくるからな……!」

「うぅ、師匠……」

「エリオット……」


 涙ながらに見送る弟子を慰めようと、笑顔で後ろを振り向く。しかしそこには……


ピッ!


「師匠の勇姿はボクがしっかり収めておきますね♪」

「へ?」


 カメラ片手に、邪悪な笑みを浮かべた弟子の姿があった。


「はい! みなさんおはコンばんにちわ! 今日のユヅキちゃんねるは下着を買いに来た師匠とそれに付き添うボクの様子をお届けします!」

「おいぃぃぃ!!?」


 突然始まった撮影に、俺は思わず叫び声を上げる。一体どういうことなのかわからず混乱していると、いつの間にか背後に回り込んでいたレイナが耳元で囁くように言った。


「止めようとしたんですけど……気づいた時にはもう……とにかく配信モードに切り替えて」


 どうやら彼女にも予想外だったようだ。困惑気味な表情を浮かべているのがわかる。


「んなこと言われたって……」

「師匠はなんと今の今まで可愛い下着を履いたことがないそうです。そこで今回の撮影で可愛い下着デビューしてもらいましょう!」

「おいおいおい!」


"配信始まったと思ったら下着屋とかこれもうわかんねぇな"

"デュフ、ユヅキちゃん下着デビューと聞いて"

"これは神回確定ですわ!"

"おいお前らwwwwこれ生だぞwwwww"

"パンツ!パンツ!"

"はよ見せろや!!"

"レイナ嬢おらん?"

"てか弟子なんかおったん?"


「むふん♡」


 配信画面に映ったコメント欄に視線を向けながら、サキュバスは何やら舌なめずりをすると、俺の肩をがっしりと掴む。


「はぁい♡ ユヅキちゃんのカワイ〜下着選びはワタシがお手伝いしちゃいまーす!」

"はよ見せろや!!"

"うおおおぉ!"

"これは神回決定ですわ……wwww"

"ありがとうございます!ありがとうございます!

"何この人、エッッッロ!"

"胸がデカすぎますぅぅぅう!"

"↑ユリアちゃんの方がデケェだろ"


 コメント欄には様々な反応が書き込まれていく。

「あわわ……」


 女の子の下着を着るというだけでも十分な恥辱なのに、それを配信されるという羞恥プレイ。

 俺は涙目になりながらもなんとか声を絞り出して抗議する。


「あの……せめて配信切るとかは……」


 だがしかし、そんな彼女の言葉を聞く様子もなくサキュバスは続ける。


「ユヅキちゃんはどんなおぱんちゅがスキなのかなぁ?お姉さんに教えて欲しいなぁ?」

"おぱんちゅて!"

"この痴女め!"

"もう我慢できません! 早く見せてください!!"

"↑通報しました"

"おいやめろwwww"


 コメント欄の盛り上がりっぷりを見て満足したのか彼女は俺の肩を掴む手に力を込める。

 もはや俺も腹を括るしかないようだ……。


「うぅ……じゃあ、その……可愛いのが好きです」


 消え入りそうな声でそう答えるとサキュバスは嬉しそうに笑った。

「うんうん♪やっぱり女の子は可愛いのが一番だよぉ♡」

"ユヅキちゃんカワイイヤッター!"

"おぱんつ何色?白?ピンク?"

"これは神回決定ですわ!wwww"

"パンツ見せてくださいお願いします何でもしますから!!"

"↑なんでもすると申すか……"

"ユヅキちゃんのちっぱいには可愛いのが合うよね!"

 コメント欄は更に加速していく。もう完全に収拾がつかない状況だ。どうしてこんなことに……。最悪すぎる……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る