第22話 真の女の子に♡

「じゃあまずはこれから着てみよっか♡」


 嬉々としてサキュバスが持ってきたのは、上下セットで水色を貴重としたフリル付きの可愛らしいデザインのものだった。

 ブラの肩紐には白いリボンがあしらわれており、ショーツの方も同じく可愛らしいリボンが正面についていて、裾いっぱいにフリルが施されている。

 いかにも女の子らしいといったデザインだ。


"いいセンスだ"

"デュフッ……デュフデュフ……"

"ユヅキちゃんならなんでも似合うよ♡"

"恥ずかしがんなくて良いから早く見せて♡"

"ロリっ娘ユヅキちゃんにはピッタリ♪" "わかってますねぇ"

"人生初見の女性の下着姿がジジイでもいいや"


「う……うぅ……」


 俺は顔を真っ赤にして俯くことしかできなかった。しかし、そんな様子も配信に映し出されており、画面の向こうでは大量の視聴者たちがこの痴態を見て楽しんでいるのだと思うとますます顔が熱くなる。

 恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ。


「い、いや! やっぱり無理だって! こんなの履けるわけないだろ!」

「ユヅキちゃんはなんだから、何も恥ずかしがることはないんですよ♡ ほら、試着室はこちらですよぉ?」


 サキュバスは強引に俺の背中を押して試着室へと押し込んだ。そして、カーテンを閉めると外から話しかけてくる。


「はい♪ じゃあ着替えたら教えてくださいね♡」


"おぱんつ! おぱんちゅを所望する!" "早く見せろや!!"

"ユヅキちゃん、おパンツ見せてくださいお願いします何でもしますから!!"

"おいやめろwwwww"

"通報しました"

"下着だからセーフ"


 コメント欄には欲望にまみれた男共の野太い声が大量に流れている。こんな奴らのために服を脱いで下着姿を見せるなんて……。俺は思わず身震いをした。

 しかしいつまでもこうしているわけにもいかない。覚悟を決めると、意を決して服を脱ぎ始める。

 まずは師匠に二神流一番弟子の証として頂いた青い桜の描かれた羽織を丁寧に脱いでハンガーにかける。

 次に袴の紐を帯を解く。しゅるりと音を立てて結び目が解けると、するりと重力に従って落ちていった。

 続いて腰帯を解いて上衣を脱ぎ去ると、白いサラシと男性物の下着が露わになる。


「うぅ……」


 正直、この状態ならさほど恥ずかしいとは思わない。ただ、これからこれが可愛らしい下着に変わると思うと、どうしても躊躇してしまうのだ。


「ユヅキちゃん♡ まだですかぁ?」

"早くしろ!"

"焦らしプレイか?"

"はよ見せて! はよ見せろや!!"

"全裸待機中"

"いや、あえて一生このままでも……だって想像しただけで……!"


 画面の向こうでは大勢の男たちが股間を膨らませながら急かすようにコメントを送っている。それを見るだけで羞恥心と恐怖が入り混じった複雑な感情が込み上げてきた。


「うぅ……」


 俺は小さく呻き声を上げると、意を決したようにサラシをスルスルと解いて、そのままパンツも下ろしていった。


「うぅ……もうお婿にいけない……」


 俺は涙目になりながらもなんとかパンツを足から引き抜くと、それを綺麗に畳んで床に置いた。

 そして、改めて鏡に映った自分の姿を確認する。そこには一糸纏わぬ姿の自分が映っていたが、頬が染まっているせいか、いつもよりも一層女の子らしく見えた。

 今目の前にいるのは、老若男女誰もが見惚れるような可愛らしい女の子。

 真っ白な髪の毛に、透き通るような白い肌。ぱっちりとした大きな碧眼と長いまつ毛、小さな鼻とぷるっとした唇。まるでお人形のような可憐な顔立ちだ。

 胸の大きさこそ控えめではあるが、手足は細くしなやかでほっそりとしている。そして何より極めつけはその圧倒的な存在感を大きな尻尾と狐耳。

 そう。今のオレは紛れもないなのだ。

 その事実を改めて認識すると、あまりの恥ずかしさに顔から火が出てしまいそうだった。


「もう見慣れたと思ってたのにな……」

鏡の前でくるりと回ってみるがやはり恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。特にお尻の辺りとか……。


「お着替えできましたかぁ?」


 俺が悶々としているとカーテン越しにサキュバスの声が聞こえてくる。どうやらもうこれ以上は待ってくれないらしい。


「もう少し……」

「はやくしてくださいよぉ♪」


 サキュバスは待ちきれないといった様子で急かしてくる。俺は大きく深呼吸をすると、震える手で恐る恐るショーツを手に取った。そしてゆっくりと足を通す。

 ツルッとした布地の感触が肌に直接伝わってきてゾクゾクっと変な感覚が体を突き抜ける。

 前の方へ手をやると、尻尾が邪魔をしてうまく穿くことができない。お尻の方からグイッと力を入れるとなんとか入ったものの、違和感がありすぎて変な感じだ。

 ぴっちりと肌に張り付くような感触と、股間を覆う未知の感覚に心が落ち着かない……。


「次は……」


 続いてブラジャーを手に取ると、小さな胸をその中にすっぽりと収めていく。


「んっ……」


 胸に当たる布の感触がこそばゆい……。慣れない感覚に戸惑いながらも背中背中に手を回す。ホックと呼ばれるものを止めるのだが……うまくできない……。


「ユヅキちゃん?大丈夫ですかぁ?」

"はよしろwwww"

"なんか苦戦しとるなw"


 焦るほどに手先が震えて思うように動かない。そうしている間にもコメント欄には欲望に塗れた男たちの書き込みが殺到していく。

 クソッ……こんな奴らに見せるために俺は女物の下着を着ているわけじゃないんだぞ!

 なんとかして落ち着かせようと深く深呼吸をすると、大きく息を吐いた。そしてゆっくりと指先で金具を引っかけるようにして留め具をパチンと合わせることに成功する。

 あとは肩紐のリボンを垂らせば完成だ。


「うわぁ……」


 改めて鏡に映った自分の姿を見ると、まるで別人のようだった。恥ずかしそうに頰を赤らめるその姿はまさしく美少女そのものだ。

 水色の生地が白い肌と髪の毛によく映えている。レースやフリルといった装飾も女の子らしいデザインで可愛らしい。そして何よりも、今まで着たことの無いような肌触りの良さとフィット感。まるで自分のために作られたかのようである。


「終わったよ……」


 だが、この姿を男どもに見せるのかと思うと憂鬱になってくる。しかし、そうも言っていられない。

 覚悟を決めた俺はカーテンを開け放った。

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