第19話 尻尾と下着はセット! コレ常識
「でもちょうど良かったとも言えますね」
「な、な……なにがでしょうか?」
女王の剣幕に押されて思わず敬語で返してしまう俺。そんな俺に彼女はニヤリと笑みを浮かべて言った。
「ユヅキさんを可愛くしたいと思っていたところなんですよ♡」
「お、俺を可愛く? ちょっと何言ってるかわからない……」
俺は思わず後ずさりしながら答える。そんな俺の反応を見たレイナはクスリと笑った。
「あら、ユヅキさんったら……そんなに怖がらなくてもいいんですよ?」
そう言いながら彼女はゆっくりと近づいてくる。そして彼女は俺の肩を掴むと耳元で囁くように言った。
「大丈夫……痛いことは何もありませんから」
「いや、そのセリフ自体がもう怖いんだけど……」
耳をくすぐるような甘い声が脳内を刺激してきて、思わず身震いする。ゾクゾクとした感覚は全身を駆け巡り、緊張を解きほぐしていった。
「あの時からずっと思ってたんですよ……。ユヅキさんはもっと可愛くなれるって」
「あ、あのとき? どのとき?」
「空に舞い上がってタコを十字に切り裂いた時です」
「な、なぜ?」
「それはですね……」
レイナはそこで言葉を切ると、俺の耳元から顔を離して真っ直ぐにこちらを見つめてきた。そしてそのままくるりと周り、まるで探偵が真犯人を暴くような口調で告げる。
「見えたんですよ。下着が」
「は?」
「ユヅキさん、男性用の下着を履いていましたよね。しかもかなりダサいやつ」
「お、お前……あの一瞬でそんなことまで……」
まるで変態のような言動に、思わず顔を引き攣らせる。しかしそんな俺とは対照的にレイナは無邪気な笑顔を見せると、再び俺の方へ顔を近づけてきた。
「可愛くて、かっこ良くて、そしてモフモフな人があんなダサい下着を身につけてるなんてもったいない。そう思ったんです」
「いや、別に俺がどんな下着履いてても関係無いだろ?」
狐耳が生えてるとはいえ、俺だって1人の人間である。そんな人間がどんな下着を身につけてようが他人からとやかく言われる筋合いはないと思うのだが……。
女王様はそれが大変お気に触ったらしく、大きなため息をひとつついて、顎をクイっとあげながら蔑んだ目でこちらを見下ろした。
「ユヅキさん……あなたは自分の魅力を全くわかってないのですね」
「み、魅力?」
そんなことを言われても……確かに下着はダサいかもしれんが、俺は自分の魅力を売りに配信してるんだぞ。今更指摘されずとも、俺は自分の魅力を理解しているつもりなんだが……。
「いいですか? ユヅキさんの下着というのは低く見積もっても1億円、いや、100億の価値があります」
「下着にそんな価値あってたまるか!」
俺が思わず声を荒げると、レイナはやれやれといった様子で首を横に振った。そしてそのまま俺の背後に手を回すと、いきなり尻尾の付け根あたりを優しく揉みしだき始める。
「ひゃぅん!?」
突然のあま〜い砂糖のような刺激に思わず乙女のような声を上げてしまう。身内じゃなかったら完全な痴漢だぞコレ……。
だが可愛らしい嬌声を聴いて気分を良くしたレイナはさらに力を込めながら今度は尻の方へと手を移動させていく。
「ちょっ——はぅ……んっ♡ しっぽ♡ らめぇ……っ♡ あぅっ♡」
「はわわ! 師匠の貞操がすごく危険な状態です!」
「エリーは見ちゃダメですよ。少し刺激が強すぎますから……」
彼女の手は肌を滑って行き、太ももの裏側辺りを指先でツゥーっとなぞられる。その何とも言えないゾワゾワした感覚から逃れようと身を捩るが、それでもレイナは許してくれない。
むしろその動きが彼女の嗜虐心に火をつけたようで、さらに強く尻尾の付け根を揉みしだき始める。
「ユヅキさん、とっても可愛いですよ♪ もっともっとその可愛らしい声、聴かせてください♪」
耳元で囁かれる悪魔の誘惑。俺は必死に耐えようとするが、それでも甘い吐息が漏れ出してしまう。
「あっ♡やっ♡そこっ……やめぇ♡」
「ユヅキさんがいま、感じているように、ユヅキさんにはこんなに可愛らしくてモフりがいのある尻尾があります」
「ふにゃぁっ♡ わかったから♡ やめっ……あぅっ♡」
俺が涙目になって懇願するも、レイナは一切手を緩めようとしない。一体尻尾と下着になんの関係があるのか、俺にはさっぱり理解できなかったが、それでもレイナは執拗に尻尾を攻め立ててくる。
「とある界隈で可愛い尻尾には可愛い下着を合わせるべきであるか。というアンケートが100人を対象に行われました」
「ひゃぁん♡ そ、それがなにっ?」
「その結果なのですが……」
—————————————————————
・とてつもなく激しくそう思う———95人
・非常にそう思う—————————2人
・多少は思うかもしれない—————1人
・(全く思わないとは)全く思わない—1人
・わからない———————————1人
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「このようになりました。そしてこの結果からもわかるように。可愛い尻尾を持つユヅキさんは可愛い下着をつけてこそ、その魅力を真に発揮できるのです」
なんだよそのアンケート!? というか選択肢が明らかにおかしいだろ! 間違いなくモフリストなる者たちの恣意的アンケートだよコレ!
「実際、ユヅキさんの尻尾が出てる袴の隙間からも、ごく僅かですが見えちゃってるんですよね……」
「はぅ♡ そ、そんなのほぼ見えてないも同然だろぉ……」
「何を言ってるんですか……。こんなモフモフで美味しそうな尻尾がチラチラしてたら自然とそこに目がいくでしょう。その際、下着も見えてしまうのです」
「はぁ♡ なに言ってんだこのヘンタイ!」
俺は思わず叫ぶ。しかしレイナは気にする素振りもなく、そのまま俺の尻尾を撫で続ける。そして再び耳元で囁いた。
「ユヅキさん……可愛い下着、履きましょう? ね?」
「はぅ♡ わかったから♡ やめっ……あぅっ♡」
再びゾワっとする感覚に身を震わせながら、俺は小さく首を縦に振った。するとようやく満足したのか、レイナは俺の尻尾から手を離す。
「はぁ♡ はぁ♡」
悪魔の手から解放された俺は、荒い息を整えながら床に倒れ込む。まだ身体が熱い……。まるで熱でも出たかのように頭がボーッとする。
「ふふ♪ ユヅキさん……可愛いですよ♪」
「う、うるさい……」
俺はなんとかそれだけ言い返すと、恥ずかしさを誤魔化すためにプイっとそっぽを向いた。そんな俺を見て、レイナはクスクスと笑いながら言う。
「さて……それじゃあ可愛くなりに行きましょうか。ユヅキさん?」
レイナのその言葉を聴きながら、俺は心の中で疑問に思う。
下着の可愛さはアイドルに関係あるのか……?
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