第18話 アイドルたるもの可愛らしく
「それで、解毒剤を餌に全部吐かせたと……」
呆れ果てたようにそう呟くのは、『どこからともなくあなたの元へ』つい先ほど、なぜかクローゼットの中から現れたレイナ・インペラトリス。
「そうです♪ すごいでしょ〜!」
「ええ、さすがはエリー。ユヅキさんの次にもふもふなだけあります」
「えっへんです!」
得意げに胸を張るエリオットと、そんなバカ弟子の頭を優しく撫でる……フリをしながら耳をモフるレイナの2人を見ながら、俺は深いため息をついた。
「いや、お前らなぁ……普通に犯罪だからな? これ」
俺はそう言いながら、床に倒れ伏すおっさんに目を向ける。その目は虚ろになっており……もはや意識があるかどうかすら怪しい。
「別に新都心ではそんなに珍しいことでもないでしょう。これが犯罪なら今朝コベイトンの銅像の頭の上にクソを投下したドラゴンの方がもっと犯罪らしいですよ」
「それはそれ、これはこれだろ……」
「埼玉県警もこんな軽犯罪に手を出すほど暇じゃありませんから。バレないでしょう。あ〜エリーモフモフ〜♡」
ポイ捨てと毒物による脅迫を同列のもののようにに語るレイナ。そんな調子の彼女に再び大きなため息をつくと、俺は立ち上がって部屋の窓を開ける。
「おや師匠、何をなさるおつもりで?」
そして、佐々木を抱き上げるとそのまま窓から外に放り出した。
「oh〜♪ 師匠も見事な手際ですね♪ 迅速な死体遺棄にボク感動しちゃいました!」
「ちげーわ! お前という悪魔から佐々木さんを逃がしてあげたの!」
俺はそう叫ぶと、そのまま窓の鍵をかける。そして、改めてレイナの方に向き直ると口を開いた。
「あ〜それで佐々木から聞き出した話なんだが……」
「あ、そういえばそんな話でしたね。毒殺の話に夢中になって忘れてました」
「いや、殺してないからね? 繰り返すけど、殺してないからね?」
話の腰を折られながらも、俺は大きく深呼吸をして気持ちを切り替えると佐々木から聞いた話をかいつまんで話し始めた。
「まあ、なんと言うか……端的に言うとだな。今回のライブはとんでもない大資本の主催がバックについているライブらしい」
「ふむ。それも新都心じゃ珍しくないことですね。なんせ世界の中心ですから」
俺の言葉に特に驚くこともなく淡々と答えるレイナ。まあ、確かに彼女が言うように新都心は今や世界中の資本が集まる巨大都市。今さら驚くようなことではないのかもしれない。
しかし、今回ばかりはそういうわけでもないのだ。
「まず前提としてだが、そもそも『歌って踊るダンジョン配信者』って企画自体がどこかのスポンサーありきのものみたいだ」
「まあそんなクソ企画、普通だったら通らないでしょうからね」
レイナは鼻で笑いながらエリオットの耳を撫でている。ちなみにエリオットは目を細めてとても気持ちよさそうだ。そんな彼女らを眺めながら俺は話を続ける。
「それでここが重要なんだが……そのスポンサーが出した出資条件っていうのがその……俺を出演させるってことだったらしいんだ……」
「あら、随分と強欲なスポンサーですね。ユヅキさんのモフモフを金で買おうとするなんて……。私でもクローゼットの裏にコッソリ隠し部屋を作るくらいしかしてないのに……」
「今また犯罪行為が垣間見えた気がするんだが……」
「いえ、気のせいです」
レイナはニコッと笑って誤魔化すと、何事でもないかのように話を続ける。コイツを早めに逮捕した方がいい気がするのは俺だけだろうか……。
「まあ、そのスポンサーがユヅキさんを狙っていることはわかりました。でも、だからって素人をスーパーアリーナに立たせるのはリスクが高くありません?」
「まあ、そうなんだけどな……。でもこの企画には佐々木さん的にどうしてもやらなきゃいけない理由があるらしいんだ」
「へぇ、どんな理由です?」
俺が尋ねると、レイナは撫でていたエリオットの耳を優しくつまんだ。エリオットはピクッと反応するが特に抵抗せずに大人しくしている。すると彼女はそのままグイッと自分の方へモフ耳を引っ張りながら新たな話を続けた。
「このライブは、どうやら佐々木さんの担当しているアイドルの卒業ライブも兼ねてるらしいんだ……」
「へえ、そんなクソ企画で卒業なんて。ダンジョン資本が入ってきて、アイドル業界も大変ですね」
レイナはそう言いながらエリオットの耳をモフり続ける。すると、今度はエリオットの方がレイナの太ももに頭を擦り付け始めた。どうやらもっと撫でろということらしい。
というか、ずっと思ってたんだが……いつの間にこの2人こんな関係になってたんだよ。
レイナってまだ自己紹介すらろくにしてないよね? そもそもこの家に馴染んでるのがおかしいんだけど催眠とかされてないよね?
「それで、受けちゃったんですか?そのお仕事」
レイナは片手でエリオットの耳を、もう片方の手でそのお腹を撫で続けながら俺に尋ねてきた。
「まあ……な」
俺がそう答えると彼女は大きくため息をつく。そしてジト目で俺を見つめて言った。
「ユヅキさんって、本当にお人好しですね……」
「いや、別にそういうわけじゃないけどよ……」
そんな俺の反応を見て再び大きなため息をつくレイナだったが、突然何かを思い出したかのように顔を上げたかと思うと、今度は俺の方にズイッと顔を近づけてくるのだった。
彼女の整った顔が目の前に現れて思わずドキッとする。
「でも……私としては好都合です」
「な、な……なにがでしょうか?」
女王の剣幕に押されて思わず敬語で返してしまう俺。そんな俺に彼女はニヤリと妖艶な笑みを浮かべて言った。
「ちょうどユヅキさんを可愛くしたいと思っていたところなんですよ♡」
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