第15話
————そして今に至る。
レイナが紹介してくれた大工は、予想を遥かに超える腕前で、わずか一時間で瓦礫だった家を見違えるほどに立て直してしまった。
だがしかし……その速さと技術は、俺が想像を遥かに上回っているもので……
「もふもふもふもふ……」
俺がレイナの提案を断ろうかと悩んでいる間に、仕事を終えてしまっていた……。
「ユヅキさん……」
玄関を開けるや否や、俺の尻尾にキラキラ激アツの視線を送ってくるレイナ。
これほどの熱い視線を送られるのは人生で初めてだ。そしてさらに、死とは違う類の身の危険をこれほどまでに感じたのも人生で初めてだ……。
「ダメ……」
考えるよりも先に、本能が口を動かしていた。しかし、拒否してもなお、レイナは尻尾から視線を逸らさず。むしろ悪化したようで、ヨダレを垂らしたゾンビのように、一歩一歩と距離を詰めてくる。
「お願いです……! もう我慢の限界なんです……! もふもふ! もふもふもふもふ!」
もはやモフモフを求めて彷徨う者と化したレイナに気圧されて思わず一歩後ずさる。約束を違う形にはなるが、このまま逃げてしまおうか……。
「んんっ!?」
そんなことを考えたのも束の間、突然体が後ろに引っ張られる感覚を覚える。咄嗟に振り返ると、目に入ったのは何やら不適な笑みを浮かべるアキラ……。その手は俺の尻尾をガッチリとホールドしている。
「キサマ……なにを!?」
「まあまあ、触らせてやってもいいじゃん。減るもんじゃないし!」
「そういう問題じゃねぇ……。てか、裏切ったなお前!」
「裏切るも何も、オレはユヅキと仲間になった覚えはないぜ〜」
「ぐぬぬ……」
アキラはニヒニヒとムカつく顔でほくそ笑む。おそらくタコパでハブられた仕返しのつもりなのだろうが、どう考えても苦痛が釣り合ってないぞ!?
「それにな……オレにも離せない理由があるんだ……」
「は……?」
「ユヅキをモフらせてくれたら俺も家に入れてくれるって、レイナが言ったんだよ! 俺も混ぜてくれるって!」
「いや、ここは俺の家なんだが!?」
もはや全てがレイナの手の平の上だ。あの提案をさせてしまった時点で俺の尻尾はレイナのものに……。
「オラァッ! 観念しろユヅキ! 大人しく尻尾を差し出せ!」
「嫌だ〜っ!!」
「もふもふ、もふもふ……もふっ……もふーーっっ!!」
もふもふを渇望せしレイナが、遂に尻尾目掛けて飛びついてくる。必死に回避を試みるも、アキラに拘束された状態ではどうすることもできず、尻尾にレイナの顔がぽふんっと埋まった。
「んっ……!?」
あまりの衝撃に一瞬変な声が漏れる。レイナはそんな俺のことなど意に介さず、一心不乱にモフモフを堪能するように顔を擦り付けている。
「ああ〜最高ですね……想像以上のもふもふです……」
「ちょ、ちょっと触り方がいやらしくないか……。んっ……」
恍惚とした表情で俺の尻尾を撫で続けるレイナ。その手つきはねっとりと尻尾を堪能するようで、敏感なところを触られると甘い声が漏れそうになる。
「はぁっ……やめ、あっ……」
「ゆじゅきしゃんもふもふ〜。んん〜っ♪」
この姿になってから驚いたが、尻尾というのは体の中でもかなり敏感な部分で、こんなふうに撫でられたり擦られたりすると……どんなに我慢しても、甘い声が漏れてしまう……。
嫌なわけでもないが、何か変な感覚に襲われて、頭の中まで変になりそうになってしまのだ。
「おいおいユヅキィ〜。ずいぶん可愛く鳴くじゃないか〜。実は女の子なのかぁ?」
「バカか……んっ♡ なわけないだろ!」
こいつは他人事だと思いやがって……。自分も耳を触られたら同じ様になるくせに……。
「あ〜なんかオレもモフりたくなってきた……」
「は? いややめろ!? くるなぁ!」
「そうやって可愛い悲鳴をあげられると余計にそそるぜ……うにゃあ!」
「ひゃんっ!?」
レイナと並んでモフりはじめるアキラ。その手つきはひどく乱暴で、しかも撫でるだけでなく、甘噛みしたり、毛繕いしたりとしてくるものだから体から力が抜けてしまう。
そして2人にモフられ続けた結果、限界に達した俺の身体は膝から崩れ落ちてしまった。
「おいぃ……やめってぇ……」
弱々しく、負けを認めるように訴えかける。
だが2人の耳には届かず、むしろその勢いは増すばかり。
「んんん〜〜!! お二人を見ていたらボクもモフりたくなってきました!」
「は!? おい、エリオット……いい子だからやめ……」
「行きますよ〜師匠!」
遂に信じていた愛弟子もが、尻尾をモフりに飛びついてくる。二人分の体重をその身に受けながら、俺は必死に抵抗するが……。
「……あっ♡」
2人のモフりによって体力も限界に達していた俺に、もはや抵抗できる力など残されていなかった。エリオットは尻尾に顔を埋めるとすりすりとほおを擦り付ける。
「師匠の尻尾気持ちいい〜♪」
そしてそれを見ていたレイナもまた、息を荒くしながら口を開いた。
「もふもふ……すごい……こんな極上のモフモフ初めて……」
撫で回すように俺の尻尾を触ってくるレイナ。ゾワっとした感覚に思わず背筋が震える。
しかしそれは決して不快なものではなく……むしろどこか心地よさすら感じてしまうもので、俺はなんとか意識を保つために唇を強く嚙み締めた。
「ユヅキの尻尾……ビクビクしてる」
「おいぃ……変な言い方をするなぁ」
アキラは俺の尻尾をつついたり引っ張ったりしながらそんなセリフを吐いてくる。その度に背筋に走る電流のようなもののせいでまともに喋ることもままならない。
「師匠〜」
「ユヅキさん〜」
「ユヅキィ〜」
「もうやめてぇ……」
3人のモフりによってトロトロに溶かされてしまった俺は……ただひたすらに襲いくる快感に耐えるために歯を食いしばることしかできず……結局その後、日が暮れるまで3人のモフられてしまった……。
そして、とろけていた俺は知らない……これが最高で最悪な4人の初めての共同作業であることを……。
☆★☆
「もしもし……」
『これはお嬢様、いかがなさいましたか?』
「腕の立つ大工を用意して。今すぐに」
『かしこまりました。最短で1時間ほどでお届けいたします』
「ありがとう」
『ところで、調子の程はいかがでしょうか』
「最悪よ……。愚民を1000万人集めたところで、所詮は愚民だったわ。誰も何も知らなかった」
『左様でございますか。それでは配信者として情報を集めるのは失敗に終わってしまわれたのですね』
「いいえ、そうでもないわ。情報こそ集まらなかったけど、運命の出会いがあったから……」
『運命の相手……ですか……』
「とってももふもふだったの♡」
『それはまた、お嬢様の好きそうな……』
「ふふふ……こんなにドキドキしたのは初めてよ……♡」
『左様でございますか……。お戯れも程々になさってくださいね。本来の目的をお忘れなきよう』
「……ええ、わかってるわ」
レイナ・インペラトリスは耳元で輝くイヤリングをそっと撫でると、その顔に深い曇りを落として、静かに呟いた。
「絶対に……"勇者"を殺す……」
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