第13話 女王の振る舞い
「いや〜昨日の配信、大盛況だったらしいね。聞いたら、1日で100万稼いだって?」
「あ、ははは……そうなんですよ。でも1日で店を建て直した店長に比べたら、大したことないです……」
「いやいや、私は金を出しただけ。彼女が紹介した大工のおかげだよ。ただ、思ってたよりお金がかかってね……」
「…………」
「追加で1億、それにダンジョンカメラも壊れたからさらに1000万、支払ってもらうね」
「え、それは……」
「店を爆破したくせに、何か文句ある?」
「……いえ、何もありません」
「よろしい。完済するまで収益の99%は私がもらうから。昨日の収益を引いてあと2億901万円、頑張って稼いでね」
あの配信から一晩が過ぎた。ダンジョンを吹き飛ばしたタコ神退治の動画はネットで拡散し、再生数もスパチャも急上昇。しかし、そんな成功にも関わらず、俺の状況は一向に改善されず、むしろ悪化していた。
新しいダンジョンカメラの購入費、店長が雇った闇大工の費用などで、借金は増える一方。さらにはダンジョン破壊の疑いで警察から追われている状況。
そして最も厄介なのが……
「あ、師匠、おかえりなさい!」
「ユヅキ〜、もうタコ食い飽きたよ」
「もふもふ……もふもふもふもふ……」
なぜか俺の家が、この3人によって占拠されてしまっていることだ。事の発端は10時間前にさかのぼる……
☆★☆
10時間前———
「ここがユヅキの家か……何というか何もないなぁ」
「そうですね……本当に何もありませんね」
「まあ、そりゃそうさ……」
アキラ、少女、そして俺の3人はダンジョンから帰った後、直接俺の家へ向かった。目的は単純明快、タコ刺しを楽しむためだ。
しかし「何もない」とは、まさにその通りで、俺の家、つまり魔道具店は……
「今朝、吹き飛んだからな……」
目の前に広がるのはただの瓦礫の山。家と呼べる状態ではなく、当然中に入ることなど不可能だ。
「これ、家と言えんのか?」
「それは……」
「もはや家とは言えないただの瓦礫の山ですね。これじゃあパーティーなんてできそうにもありません」
俺はこの惨状を見て、ため息を混じりにその場に座り込む。
完全に忘れていた……。
タコ神を切り刻んだ勢いでそのまま家に誘ったはいいものの、家がないんじゃ恥ずかしいなんてもんじゃない。一体誘った俺は何を考えていたんだ……!
お前のせいで、恥ずかしさで今にも死にそうだぞ!
「あの……大丈夫ですか?」
恥ずかしさのあまり動かない俺を見かねてか、少女が駆け寄ってくる。心配するように語りかけてくる彼女の声は、優しく、戦っていた時のあの女王様が嘘のようだった。
「いや……誘っておいてなんだけど、ウチ、壊れてるんだった。ごめん……」
「いえ、私は大丈夫ですよ。誘ってもらえただけでも嬉しかったですし」
「でも……やっぱり悪いよ。せっかく来てもらったのに……」
流石にこのままでは面目立たない。そんなことを考えていると、俺の想いを知ってか知らずか、少女は突然立ち上がり、瓦礫の山に向かって歩き出す。
「何してるんだ……?」
驚きながらも、俺は立ち上がって少女の後を追う。すると、少女は瓦礫の前でしゃがみ込み、
「あ!これとかいいんじゃないですか?」
瓦礫の中から何かを見つけ、それをヒョイっと持ち上げた。形を見るにそれは魔道具の陳列棚のようだが、辛うじて形を保っているような瓦礫にしか見えない。
「えっと……それは……」
「テーブル代わりですよ。ほら」
少女は瓦礫を地面に置き、それをテーブルに見立てて座った。彼女の動きには何の躊躇いもなく、その整った容姿からは想像もつかない行動に心の中で俺は驚きの声を上げる。
「さあ、あなたも」
そう言って少女は俺に手を差し伸べた。戸惑いながらもその手を取り、少女の隣に座る。本当の女の子はあんなにスッと座ったのに、中身おっさんの俺が躊躇うとは……恥ずかしい限りだ。
「え〜、オレはばっちいからいいわ」
しかし、アキラだけは瓦礫の上に座ろうとしなかった。そんなアキラを見て、少女は顔をしかめる。タコ神の時にも見た下民を見下す女王のような目つきだ。
「大してモフモフでもない猫なんて元からお呼びじゃないのよ……。文句があるなら失せなさい」
「にゃ、にゃにおう!? 猫舐めんなよ!?」
薄々気づいてはいたことだが……もしかしてこの子って、相手によってメチャクチャ態度が変わるタイプ……?
しかもその基準がモフモフか否かに見えるんだけど……。
「にゃあ! ユヅキも何か言ってやれ!」
「え? 俺も別にアキラは呼んでないけど……」
「うにゃぁ!?」
意外な返答にショックを受けたのか、アキラはその場に崩れ落ち、何を考えてかそのまま地面にゴロゴロと転がり始めた。
「ユヅキのうらぎりものぉぉ!!」
もはや行動も猫みたいになっているが、まあほっといても大丈夫だろう。俺はゴロゴロアキラを尻目に、少女の隣に腰を下ろす。
「ふう……なんだかごめんな」
「いえ……全然大丈夫です。それより、早く始めましょう。タコパ!」
「それはたこ焼きのパーティー……残念ながら今回はタコ刺しのパーティーだから、ちょっと違うかな……」
「あ……そうなんですね。でも大丈夫です。私、タコ刺し大好きですから」
タコ刺しが大好きだという少女。それが本当なら随分とユニークな趣味だ。ただ、気を使っているようにも見える。
しかし、彼女の笑顔には不自然さが見えない。もしこれが作り笑いなら、彼女はかなりの女優だ。
「そういえば、まだ自己紹介してなかったね」
「そうでしたね」
少女はそう言うと立ち上がり、スカートの端をつまんで一礼した。その美しい所作はまるで舞台上の一幕のようだった。そして、丁寧に彼女は名乗る。
「私の名前はレイナ・インペラトリスです。気軽にレイナとお呼びください」
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