第11話 《配信》gato estúpido(バカ猫)
「金銭欲を満たしたから、次は肉欲を満たしたいのかもしれない」
「はぁ!?」
その言葉を聞いてアキラは絶望の表情を浮かべる。"オンナが欲しい……オンナが欲しい……"そんな声がタコの口から漏れてくる。
間違いなくそれは怒りではなく欲望に塗れた言葉であった。そして触手はその言葉を体現するかのように動き始める。
「なぁユヅキ……」
「ん?」
「俺たちってさ……」
「女だな」
"ぬるぬる触手プレイの始まりだ!"
"ユリアたんの貞操がァー!
"チャンネルBAN展開不可避ww"
"イケー! タコ!"
"ヤメロー! ユヅキちゃんの初めてはおれのもんだぁ!"
"触手! 孕ませ!"
"えっちなのきますね! きちゃいますね!"
"全裸待機!"
再びウネウネと動き出した触手が捕らえたのは金や宝石なんかじゃなく、俺たち"オンナ"。
オンナァァァァァァァ!
「どうやらこのままだと、触手のお嫁さんコースっぽいな」
「何冷静に語ってんだ! そんなの嫌に決まってんだろ! 早く逃げるぞ!」
もはや金など心配している場合ではない。バレリーナも驚きの速度で回れ右した俺たちは出口めがけて走り出す。
しかし欲深いタコ神様がそんな簡単に逃してくれるはずがない。タコ神は俺らを嫁にせんと執拗に追いかけてくる。
オンナァァァ!
障害物などお構い無しといった様子で触手を叩きつけてはなぎ倒し。狭い通路でも無理やりこじ開け、大迫力で迫り来る。
「さすが神様。もう道なんて関係ねぇってか」
「おいユヅキ! 呑気に言ってる場合じゃねぇぞ! 出口はどっちなんだよ!?」
「え、知らん」
「はあ!? このバカ! そんじゃどこに向かって逃げてんだよ!」
"乙"
"終了のお知らせ"
"くる! えっちなのくる!"
"オワタww"
"全裸待機継続中。さむいからなるはやでよろ"
しかし闇雲に逃げてもいつかは追い詰められるのは当然で、
「クソっ!」
最早逃げ場などどこにもなく、気づけば俺たちは機械の密集した部屋の中に入っていた。そしてついにタコ神の触手が俺を捕らえようと迫る。
オンナァァ!
「もうだめなのかよぉ……」
「いや、そうでもないみたいだぞ」
奇跡とはまさしくこのこと。雑多な機械に混じって、スチームパンクな扉とその横にコンソールのような物が見える。そして扉の上にはみんなご存知緑のピクトグラム。
「どうやら奇跡的にここが出口らしい」
「本当か!?」
「俺がこのタコを相手するから、そこの端末を操作してロックを解除してくれ」
「わ、わかった!」
アキラは返事とともに即座に端末の方へと走り出す。しかしタコ神もそれを許してくれるわけもなく、触手でそれを妨害しようとする。
「お触り禁止だぜ」
俺はすかさず抜刀して触手を斬り払った。タコ汁がブシャッと溢れて部屋をヌルヌルに染め上げる。
オンナァ!
しかしタコ神の猛攻は止まらない。
次から次へと生えてくる触手が俺の身体に絡みつこうと迫り来る。俺はそれを片っ端から薙ぎ払い、一歩たりとも踏み込ませないように立ち回る。だがこのままだと長く持ちそうにはない。
「こ、これをこうして……」
一方、アキラはコンソールを操作してロックの解除を始めていた。しかし操作方法がよくわかっていないのか、どこか苦戦している様子だ。
「何やってんだ! 早くしろ!」
「ちょ、ちょっと待て……」
焦る気持ちが俺を急かす。しかしそれに相反して、アキラはのろまだ。苛立ちが募る。
早く逃げたいという思いと、ここを死守しなければという想いで頭の中はごちゃごちゃになる。
そしてとうとうタコ神も痺れを切らしたのか、一度身を引き、何やら力を貯めるような動作を始めた。
「おいなんかやばいぞ。まだなのか!?」
「ちょ、ちょっと待てって! クソっ……どうすれば!?」
「一体何にそんなに手間取ってるんだ!」
もはや一刻の猶予もない。そう思った俺はアキラの方へと視線を移す。するとそこには……
「一体この漢字はなんてよむんだぁぁぁ!?」
端末ではなく、ドアノブの上に書かれた「回」の文字に頭を悩ませる明の姿があった……。
「アホかぁ!!!!」
"ユリアちゃんww"
"まわすだよ……まわす"
"弩級のアwホw"
"まじか……読めないか……"
思わず声を荒らげて叫ぶ。
小学生でも読めるような漢字を読めずに、一体アキラは今まで何をしていたのか。
当然その漢字を読むことができた俺は、即座にドアノブに手をかけて回そうするが時すでに遅し……
『オンナァァァァァアァアアア!!』
強烈な閃光とともに、タコの口からレーザーが発射される。それは施設を粉々の瓦礫へと変えながら一直線に進み、強烈な爆発を引き起こして施設全体を吹き飛ばした————
☆★☆
「うぅ……」
瞼をゆっくりと開くと、そこには粉塵が巻き上がって灰色に染まる景色が広がっていた。辺り一帯には瓦礫が散らばり、空からは光が降り注いでいる。
どうやらここは外で、ダンジョンごと吹き飛ばしたらしい。さすがは神様と言ったところだ。
「お〜い。ユゥヅキィィ〜。助けてくれぇ〜」
不思議なことに空から声がする。ダンジョンの中ならいざ知らず、青空の広がるこの大地で声がするのは少し不思議な感じだ。
俺は立ち上がりながら辺りを見回してみる……が、やはり誰もいない。しかし声は依然聞こえてきている。そしてまさかと思い空を見ると……
「たすげでぇ〜。オレ、触手の嫁になりだぐない〜」
巨大なタコの触手にぐるぐる巻きにされたアキラが、そこにいた。
「あららぁ……。かわいそうに」
「ユヅキぃ〜! たずげでぐれぇ〜」
やれやれ……本当に問題の尽きないやつだな。
アキラは相当必死なようで顔は涙や鼻水やらでぐちゃぐちゃになっており、酷い有様だ。まああんな触手に巻きつかれれば恐怖もひとしおだろう。
俺はゆっくりと立ち上がり、刀の柄に手をかける。
「しかしあんなでかいタコ、どうやって
この巨体であの再生力となると、かなり強力な一撃が必要だろう。だが、タコを吹き飛ばそうとすると、アキラも巻き込んでしまうことになる。
そうなったらたこさしとねこさしのミックスフードの完成だ。
「うーん……どうしたものか」
「うおっ! なんだこれ!」
俺が思考をめぐらせてる間にも、タコの触手がアキラの身体中を這いずり回り、服の中まで入り込んでいく。
「おいユヅキー! 助けてくれぇ〜!! タコの嫁にされるぅぅう!」
あのままじゃ本当に同人エロ漫画みたいな展開になりそうだな。
しかし、助けようにも方法がない。
「せめて動きを止められればそのうちにアキラを……」
精一杯頭を働かせて考える。しかしアキラを助ける方法が思い浮かばない。
一体どうすれば……
「お困りですか」
不意に後ろから声が聞こえた。慌てて振り向くと、そこにはどこか見覚えのあるグレーの長髪を風に巻く少女の姿があった。
「君は……確か……」
このグレーの髪色、そして年齢の割に大人びた雰囲気。新月のように暗く輝く黄色い瞳。
「あ! 今朝の触手に絡まれてた女の子!」
「はい。そうです。その節はお世話になりました」
そう言って少女は軽く頭を下げた。
「あ、いや別にいいよ……というか無事だったんだ……よかったよかった」
自分の損得のために少女を放置して、『助かっていませんでした』となったら、流石の俺でも心に来るからな……。本当に助かっててよかった……。
「どうしてこんな所に?」
「それはもちろんモフモ……ゴホン! たまたま通りかかりました」
「何か言いかけなかった?」
「気のせいです。それより、お困りですよね」
「え? あ、ああ……」
そう言われてタコの方に向き直る。相変わらず触手にぐるぐる巻きにされたまま、アキラはジタバタともがいていた。
「もうやだぁあ! 早く助けてぇ〜!!」
もはや陵辱一歩手前といった様子だ。
「あれを助けたいんだけど、ああも動かれるとどうしようもなくて……」
「そうですか……わかりました。私に任せてください」
そう言って少女は自信ありげな様子でタコ神の方へと歩いていく。
俺もそのあとをついていき、少女の横に並ぶ。
「さて……私が動きを止めるので、モフモ……貴方はそのすきにあの猫を助けてください」
「今モフモフって言った?」
「いいえ。言ってません」
少女にジト目を向けられる。間違いなく何かある気がするが……今は聞かないでおこう。アキラの貞操優先だ。
少女はすぐに視線を俺からタコ神へと戻すと、そのまま足を止めることなく進んでいく。
そしてついには触手の目の前までやってきた。
「いいですか。行きますよ」
「お、おう」
そして少女が最後の一歩を強く地面に踏みつけた瞬間——周囲に眩い閃光が轟き始める。まるて空が星に覆われたようにキラキラとそこらじゅうで光子が煌めいている。
地面を強く踏みつけた勢いで揺れた彼女の髪の隙間からは『光』を
「
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