第8話 《配信》オトコorオンナ?
ダンジョン内にある施設は、まるで近未来の世界のような構造で、SF映画から抜け出したかのような空間だった。
そんな施設を探索する俺とアキラの2人だが……
「いや〜不思議な施設だね! ユリアちゃん!」
「……」
"ユリアちゃんまだ顔真っ赤で草"
"最初はあんなにノリノリだったのにねぇ〜"
"いつになったらユヅキはおっさんの本性を出すの?"
"ユリアちゃんももしかしてほんとに男!? となるとここはTSカップルチャンネル!?"
"↑いや、ユヅキちゃんはおっさんぽい女の子だから! ロリだから! そこんところ間違えないでね?"
"ユリアたそは女の子だよ!"
コメント欄がすごくうるさい。
勝手にカップルチャンネルを成立させようとする奴、俺の正体を知ってる奴、俺をロリと信じて疑わない奴——様々だが、とにかくうるさい。
そもそも一体どこからこんなに視聴者がわんさか湧いて出たのか。アキラの出演効果とは思えないが……
「お、おい……本当にこのまま続けるのかよ?」
後ろからおずおずといった感じでアキラが声をかけてくる。どうやらやっと正気を取り戻したらしい。だが、何かさっきまでとは様子が大きく異なり、どこか女らしい。
「お前が始めた配信だろう?」
「いやでも……でもぉ、こんなはずじゃぁ……」
「もう諦めろ。俺だっていつも女の子やってんだ。お前もすぐ慣れるさ」
俺なりに励ましたつもりだったのだが、どういうわけアキラは口をパクパクと金魚のように開閉し始める。それから次第に頰が紅潮し、しまいには俺の顔を睨みつけるように下から見上げてきた。
「あの……さ……」
「なんだよ? そんな熱い目で見つめてきて……」
アキラが何かを訴えかけるように俺を見つめる。そして俺はそんなアキラのことをからかうようにそう返した。しかし俺の言葉なんて耳に入っていないのか、アキラはただジッと俺を見つめ続けるだけ。
そしてようやく口を開いたかと思うと……
「オレって……男だよな……?」
と、訳のわからないことを聞いてきた。
「え、いや〜どうかな? どちらかと言うと女の子なんじゃないか? 胸もおっきいし……」
「そこは嘘でも男って言えよ!」
アキラが大声で叫び、自身の胸を両腕で隠しながら、俺を睨みつけた。その目は涙ぐんでいるようにも見えた。
「いやでも……なぁ? お前だってそんな胸のやついたら、女の子として見るだろ? な?」
「いや……そりゃ、まあ……うん。でもよぉ……」
「いいから進むぞ。お前の性別の話はここを出てからでも遅くない」
「お、おう……」
そんなやり取りをしながら、施設の奥へと進んでいく俺たちだったが、少し話に夢中になりすぎたらしい。
『おい! お前らここで何をやってる!? ここは立ち入り禁止だぞ!』
広い通路の先から大柄の男が現れ、俺たちに向かって怒鳴り散らす。防護服を着込み、手には警棒を握ったその男は、一目で施設の関係者だとわかる。
「あちゃー、見つかっちゃったか」
『あちゃーじゃないだろ! 今すぐ施設から出ろ!』
「はっ、やだね! こちとら配信中なんだよ!」
"やべえよ! 何か来たぞ!?"
"おい! ユヅキちゃんたちが危ない! 早く逃げろ!"
"ユリアたそは俺が守る!"
画面の向こうにいる分際で、随分と勇ましい視聴者たちだ。
けどまあ、勇ましいだけマシか……
「ユヅキぃ……怖いよぉ……どうしよぉ……」
このメス猫より……。
「おま、ちょ、なんだそれ……」
弱々しい声で鳴きながらアキラが俺の背中に身を寄せてくる。今の今まで強気な発言を繰り返していた人間の態度とは思えない。
瞳は涙で潤んでおり、頬は赤く染まっていて、まるで"男らしさ"のかけらもなかった。
「お、おい! ちょっと離れろ!」
「やだ……こわいよぉ……」
「子供かお前は!?」
俺が怒鳴ってもアキラは離れようとせず、むしろもっと密着してくる。そんなアキラを前にして、大男は更に声を大にして怒鳴った。
『おい! 俺が優しく言ってるうちにさっさと施設から出ろぉー!』
「だってさ。早く離れろって」
「うぅ……ユヅキぃ……」
しかしアキラは俺の言葉に答えず、ただ俺の背中に顔を押し付けてブツブツ呟いているだけだ。
大男はますますイライラが募ったのか、先ほどよりもさらに大きな声で怒鳴り散らしてきた。
『おいオンナァァァァー!!!』
今までの警告とは比べ物にならないほど大きな『威嚇』の意味を込めた叫び声。
その声にアキラはビクッと身体を震わせる。ようやく正気に戻ったか? しかし、そう思ったのもつかの間。
アキラは俺の背中から手を離すと、静かに口を開いた。
「あぁんっ?」
『え?』
「だれがオンナだゴラァ! オレは男だって言ってんだろ!」
アキラの予想外の言葉に、大男も思わず声を漏らす。しかしアキラはそんな大男の反応を気にせず、グイッと俺を押しのけ前に出た。
「マジでどいつもこいつも俺を女扱いしやがって! オレは男だ!」
「でも、お前さっき……」
「ユヅキは黙ってろ!」
「あ、はい……」
割とさっきのアキラ、可愛くて良かったんだけどなぁ……
しかし、そんな俺の考えなど露知らず。
アキラは怒り心頭の様子で大男に怒鳴り散らした。その剣幕は凄まじく、まるで鬼のようである。
『い、いやでも、その胸……』
「うるせぇ。言葉でわかんねぇなら、拳でわからせてやる……」
ドスの効いた声でそう言い放つと、アキラはゆっくりと拳を握りしめる。そして不気味な笑みを浮かべながら大男へと1歩近づいた。
『ちょ、ちょ……落ち着けよ……」
「ミャウマハト流拳法、獰猛之一 ————」
ぷにぷにな拳が瞬く間に凶暴な肉食獣のそれへと姿を変え、その怒りを表すようにメラメラと燃える炎が宿る。
そしてアキラは目にも止まらぬ速さで男の懐に入り込み、燃え盛る炎を纏った拳を男の頭目掛けて振り上げた。
「
ドゴォッ!!という激しい衝撃音と共に、打ち上がる男の体。
『ぎゃああああああああああああ!!』
そしてその勢いのまま、男は数メートル先まで吹っ飛ばされ大の字になって倒れ込む。
床に倒れ伏す男の口からは血が漏れ出しており、身体中の骨が何本か折れているであろうことは容易に想像がついた。恐らく内臓もいくつも傷ついているに違いない。
"えぇ……"
"ユリアたんやば……"
"もはや男が可哀想ww"
"ユリアたんかわいい上にかっこぇぇぇええ!"
"ユリアしか勝たん!"
それを確認したアキラは満面の笑みを浮かべると、そのままクルッと一回転して俺に向かってVサインを突き出した。
「ユヅキ! オレってやっぱり男でしょ!」
そんな無邪気な笑顔とともに、俺にそう聞いてきた。
「そ、そうだな……」
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今日の投稿遅れてすみません!
なるべく遅れないようにしますが、まれにこういうこともあるかもしれません……。本当に申し訳ない。
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