第7話 《配信》ユリユヅてえてえ♡
「あ、おい! あっち見ろ! 狐面!」
「ん……?」
頭を悩ませていると、アキラが大声を上げて俺の背後を指さした。その指を追うと、確かに黒いローブに白い狐面をつけた人影が見えた。
「全然俺と似てねぇじゃん」
「うるせぇ! 狐っていう共通点があるだろ! いいから追うぞ!」
「いや俺、お前と遊んでる暇ないんだよ。1億稼がないといけなくて……」
「そんなの知るか! とにかく追うんだよ!」
俺の言葉が届いているのか、いないのか。アキラはそう言って、尻尾をゆらゆらと揺らしながら走りだす。その足はまさに猫そのもので、俊敏性に富み今にも見失ってしまいそうだ。
「あーもう……仕方ない」
このまま放っておけば、またどんなトラブルごとに巻き込まれるかわからない。あんなバカでも、流石に見殺しにするのは寝覚めが悪い。
俺はため息を吐きながらも、アキラのあとを追った。
☆★☆
「はぁ……なんでこうなるかな……」
バカの尻尾を追ってダンジョンの奥深くまで来てしまった。今はそのバカが隣で、狐面の人物が逃げ込んだであろう曲がり角で息を潜めている。
「あ、おいおい! 見ろよ、あれ!」
突然大声を上げて俺の肩を叩くアキラ。俺はそんな隠れる気のないバカの口を塞ぎながらその視線の先を見た。すると、狐面の人物がどこかに入っていくのが確認できる。
「あれは……」
「なんだ!? お宝部屋か!?」
「んなわけあるか。ゲームじゃねぇんだぞ」
金属質の壁にSF映画のような厚い銀の扉。その脇にはタッチパネルがある——
「間違いなく
「マジか! なんかテンション上がってきた〜!」
ピョンピョンと跳ねながら、尻尾をパタパタと揺らすアキラ。そんな興奮しきったバカ猫が大人しく物陰に隠れていられるわけもなく
「うっしゃ!行くぜ!」
アキラはそう言って、物陰から飛び出すと一目散にその施設目掛けて走っていってしまった。
「はっ!? おい待てバカ!」
慌てて後を追い、叫んだがもう遅かった。アキラはすでに施設の扉をくぐっていた。そして、俺もアキラに続いて施設内に踏み入れた瞬間——
ガチャンッ!
まるで俺たちを閉じ込めるかのように、施設の扉が自動で閉まり、明らかにロックがかかったような音が鳴り響いた。
「よーし! 侵入成功っと!」
「なにが侵入成功だ! ただ監禁されただけだろ! おいバカ! マジで何考えてんだ!」
「いいじゃんか別に。オレは金を取り返せる。オマエは取れ高をゲット。ハッピーハッピーじゃん!」
「は? 取れ高?」
「そ、取れ高。オマエもダンジョン配信者の端くれなんだろ? そのダンジョンカメラを見りゃバカでもわかるぜ」
そう言われて、俺はようやく自分の背中に飛んでる1000万の借金の存在を思い出す。
あまりにも静音すぎて、すっかり忘れていた。
「ソイツでこの施設を撮影ば大バズり間違いなし! な、完璧だろ?」
得意げに笑うバカ。しかしそんなバカとは対照的に俺は呆れていた。
だってそうだろう? こんなの配信したら、間違いなく厄介ごとに巻き込まれる。そんなの絶対に嫌だ! これ以上借金増やしたくない……
「そんじゃ早速撮影開始と……」
「おまっ……何勝手に……!?」
俺がアキラの横暴を止めようと口を開く。しかしそれより早くアキラはカメラを起動してしまった。
まぁどうせ視聴者なんてほとんどいないし、別にいいか。
そう思っていたのだが————
"おはコン!"
"え、ユヅキちゃんの配信始まったんだけどww"
"なんか猫耳巨乳美少女もセットだぞ!"
"まさかユヅキちゃんコラボ!? コラボなのか!"
「え、は?」
俺は自分の目を疑った。
いつもはせいぜい3人くらいしかいない俺の配信に1万以上の視聴者が集まってきている。
その数は今もなおどんどんと増え続けており、10万も超えそうな勢いだ。
「お前、メチャクチャ有名人じゃん! なんだよ、この人気! 視聴者多すぎだろ!」
「え? いや……なんで?」
"なんか困惑してるw 可愛い!"
"困惑してる顔も可愛いよ!"
"ユヅキちゃん! 俺だ! 結婚してくれー!!"
「え、いや……あの……」
あまりの事態に言葉を失う。
しかしそんな俺を他所に、アキラはカメラを回しながらどんどんと話を進めていく。
「はいはーい! みんなちゅうも〜く! 今日はユヅキ? ちゃんのチャンネルにお邪魔させてもらってま〜す。どう? 驚いた?」
"驚いた!"
"やったー!"
"コラボキタ━━━━( ゚∀ ゚)━━━━!!"
"ごめん。ロリジジイ推しのみんな……俺、この娘に推し変するよ……"
"↑わかるよ。俺もなんだ……"
「はいはーい。みんなありがとね〜! オレの名前はユリアン! よろしくな〜」
"ユリアン? なんか男っ気を感じる名前だな……"
"ユリアでよくね?"
"ユリアちゃん! かわいい!"
"ユリアちゃん! 結婚してくれー!!"
「え、ちょ……え!?」
アキラは突然湧き上がったファンの声に頭がこんがっているようだ。ここは一つ、先輩として助けてやるか……ふふっ……。
俺はアキラの肩をポンと叩くと、その耳元でボソッと呟く。
「よかったね! ユリアちゃん♪」
「ざけんな! だ、だだだ……誰がユリアちゃんだ!? てかお前何その話し方? キモ!」
アキラは顔を真っ赤にしてそう反論してくる。だが普段から女の子を演じている俺にその手の罵倒は効かない。
「え〜私はいつもこんな感じだよっ♪」
アキラの初々しい反応が面白いのか、ファンからは更に拍車がかかっていく。
"やべ、ユリアちゃんがメスの顔しとる……"
"これが……てぇてぇ……?"
"ユヅキちゃん可愛いよ! ユリアたそもかわいいよ! どっちも結婚してくれー!!"
"ユリユヅてぇてぇ"
「は、はぁ!? 誰がユリアだこのヤロー! オレは男だ!」
まったく、自分で配信をつけたくせに何を今更……俺はそんなアキラのことを鼻で笑いつつ、その猫耳をギュッと掴みあげた。
「んにゃ♡ な、何すんだよ!?」
「いいから黙ってろ。お前は今、ユリアちゃんだろ?」
「は、はぁ!? おま……オマエ! 何言って……」
"「んにゃ♡」だって! 可愛すぎ!"
"ユヅキちゃん! もっとユリアたそのこと教えて!"
"ユリアちゃんは耳が弱いんだね〜"
"ユリアちゃんの「んにゃ♡」だけでご飯3杯行ける!"
"もう、お嫁に行けないね〜"
アキラ改め、ユリアちゃんの鳴き声でコメントはまたも盛り上がり、アキラのことをユリアと呼ぶ人はもうあとを絶たない。そして当のアキラはというと……
「あ、ああ……あぅぅ……」
頭の処理が追いつかないのか、完全にショートしてしまい、壊れた機械のように口をパクパクと動かしていた。
まあこれで勝手に配信をつけたコイツも少しは懲りただろう。
俺はそんなアキラを置いて1人カメラの前へと躍り出る。そして水を得た魚……いや、狐の如く得意げに胸を張った。
「はいはーい! じゃあ今日はこのダンジョンに存在する謎の施設をお散歩していくよ〜♪」
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