11月第4週 人生の半分はトラブルで、残り半分は……

『ヴァンダンジュ メルロー

 2023

 ドロップ(蔵王葡萄酒工房)』


 「命の源である水のように、身体に馴染み、心を満たすワイン」を目標に、2023年山形県上山温泉街中心地にワイナリーとワインスタンドをオープンした。

 減農薬、ほぼ無添加ワインにこだわる自然派ワイナリーで、オーナーの出来氏はソムリエでもあり国内外でワイン修行の経験もある個性派だ。


 では、早速開けてみよう。


 開けた瞬間はややワイルドな香りがする。

 とりあえず、グラスに注いでしばらく放置し空気に触れさせてあげる。

 そうすると野性味は落ち着き、スミレのような花の香りを感じる。

 味わいはラズベリーのようなフレッシュな酸味を始めに感じ、ジューシーなブルーベリーなどのチャーミングなフルーティーさとハーブのような爽やかさがある。

 ミディアムよりもやや軽く、渋みを感じさせない赤ワインである。


 今回は仕事用商材なので、いつものお遊び半分(え!)とは違い、もう少し検証してみよう。

 特に道具やガスを使うこともなく、おそらくワイン業界以外の一般家庭と同じように開けたコルクを軽く差し戻しただけの状態で日の当たらない涼しい部屋の片隅で保存した。


 軽くグラス二杯分だけ開けた翌日、二日目になると外見上の野生的な香りは落ち着き、ピュアな素の姿を見せてくれる。

 前日よりも空気に馴染んでフルーティさを感じさせてくれる。

 

 三日目はより香りと味が開き、酸味のある口当たりとフルーティーさの味わいが調和している。

 好みはあれど、ここらが味わいのピークだろうと僕は思う。


 四日目、酸味がより強く感じ始め、果実の風味が弱くなってきたように感じる。

 前日に感じたように、酢になるほど酸化していないが、寿命の下り坂に入ったのだろうと思う。

 そんなわけで、ここで残りすべてを飲み干すことにした。


 仕事モードのせいで長々と語ってしまった。

 さて、酷暑の大変な年ではあったが、ユニークなワインに仕上げてくれたと思う。


『ピザ マルゲリータ&ベーコン』


 昨年の楽しい収穫祭を思い出すように、インスタントであるがピザを焼いてみた。

 薪ストーブを出すのが面倒くさかったので、キッチンで調理してみよう。


 簡単にフライパンで下面をカリッとするぐらいまで焼き、魚焼きグリルをオーブン代わりに使う。

 魚焼きグリルで上面のチーズが程よく焼ければ完成だ。


 実食。


 流石にピザ窯には敵わないが、これはこれでちゃんと焼けているので手抜きをしたい時にはちょうど良いだろう。

 味は市販のピザなので、それほど語るものは無い。


 ワインと合わせる。


 ピザはトマトソースベースなので、軽めの赤ワインと程よく調和する。

 これは定番の組み合わせなのでまず外すことは無いだろう。


 だが、思い出補正もあるのだろうか。

 必死だった収穫災ではなく、楽しい収穫祭であったのでより穏やかにホッとする味わいだ。


 ワインに限らず食事というモノは、物質的な味わいの美味さだけではなく、心理面でも味わいを深めてくれるものなのである。

 人は錯覚する矛盾した生き物、しかしそれ故に人の感性は変化があって面白いのだ。


☆☆☆


 1か月はかかるだろうと想定していたサクランボハウスの解体が無事に終わった。

 思っていたよりも短い作業時間、ゴブリンに間違えられて撃ち落されることもなく順調であった。


 とりあえず昨年建てたブドウ棚に簡易雨除けを設置する部材を手に入れたので、後はこれらを作り替えていく必要がある。

 これからが本当の戦いだ。


 当然ながら錆びていたり変形している部材は使い物にならないので、軽トラに積んで屑鉄屋に買い取ってもらう。

 それでもまだ残っているので、平日になったらまた持っていこう。


 サクランボハウスの解体が終わった翌日は大雨、ギリギリ天気が持ってくれてよかった。

 こんな日はワインの面倒をみよう。


 今年のワインが入っている樽に入れてから1か月近く経っているので、そろそろワインを継ぎ足してやらないといけない。

 樽は木製なので、熟成している間に極々わずかに蒸発していっているのだ。

 「天使の分け前」とも呼ばれるのだが、このスペースが多くなるとワインが酸化してしまうので埋めてやる必要がある。


 そして、ついにジュースのラベルデザインも完成した。

 すぐにラベル印刷を発注し、出来上がるのを待つだけだ。

 大体10日程で完成できるそうだ。


 そうなれば、ここまで準備していたネットショップもオープンしよう。


 ジュースはまだ仮の状態での予約販売だが、ワインを入れて3種類、まだまだワイン屋としては寂しいが大事な一歩目ではある。

 まだ完全オリジナルワインは無いが、僕自身がどこかで関わっているのでワインに物語を添えてあげることができる。


 様々なSNSで開店の告知をして、後は一息付こう。

 

 と思っていたら、早速注文が入った。

 プライバシーの問題があるので詳細は語らないが、直接会ったことは無くとも知っている御方であった。


 初めてのお客様に狂喜乱舞していると、予期せぬシステムエラーが起こった。

 なぜか各商品がバラバラに注文され、送料が2回分発生していたのだ。

 あれこれと調べた結果、どうやら通常商品と予約商品は同時購入ができないようだ。

 

 どうやらジュースの予約商品を消すか、予約日を同日に設定しないといけないらしい。

 何というシステムなのだ。

 他の販売サイトのワイン屋だと予約日の方に自動設定されるのに、これは実際に始めてみるまで不具合は分からないものだな。


 一度注文をキャンセルしてもらって、再注文してもらうしかないか。

 申し訳ない気持ちですぐにメールで連絡を取ってみた。


 しばらくすると


「キャンセルの仕方がわからんのでこのままで良いですよ☆」


 という懐の大きさであった。


 お客様は神様ではないと思っているが、神様のように拝みたくなるお客様はいる。

 当然、このままご好意に甘えてしまってはプロ意識に欠けるので、後日に余分にもらってしまった送料は返金しようと思う。

 天使の分け前を払っても、貰うのは良くないだろう。


 そう思って現金書留で返金しようとしたのだが、それすらもこのエッセイの投げ銭と思って受け取ってくださいというのだ。

 いつの日か本当に社でも建てて拝みたいと思う。


 苦い勉強になったが、ビジネスに限らず人生にはトラブルは付き物だと思う。

 どれだけ周到に準備をしようとも、当然想定外の事態は起こるものだ。


 人生の半分はトラブルで、あとの半分は……という名言があるのでこの失敗を次に活かせば良いのである。

 前に進むことを恐れていても人生はつまらない。


「人生の半分はトラブル、もう半分はご飯とお昼寝」


 という突き抜けた能天気人生も違う意味で面白いと思うのだが。

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