11月第5週/12月第1週 曇天のビジネスマン
『我妻重晴 ビジュノワール
2020
高畠ワイナリー』
山形県高畠町、県南部に位置し果樹栽培が盛んな自然豊かな町にある。
1990年設立と世界的には新しいが、たとえ100年かけても世界の銘醸地に並ぶ「プレミアムワイナリー」となることを目標に、現在では東北随一のワイナリーの1つとして君臨している。
今回は生産者シリーズというもので、数年に一度だけ職人とも言える契約農家である栽培家が、自信をもって薦める最高品質のぶどうだけを用いて造られているらしい。
このビジュノワールというのは、日本で交配された赤ワイン用品種である。
では、開けてみよう。
透明感のあるルビー色、バニラのような甘い香りとベリー系の果実味と杉の木のような青い印象がある。
味わいが高畠ワイナリーらしい重すぎる、ということはなく意外にも程良いボディであった。
余韻にわずかにカシスのような黒系果実もあって良作だと思わせてくれる。
『鹿肉のロースト』
お隣さんのハンター協会会長、じゃなかった猟友会支部長さんが突然巨大な塊肉を持ってやってきた。
バケツに入ったむき出しの生肉を豪快に手渡されてしまった。
鹿肉らしい。
だが、あまりにも巨大すぎて我が家の冷蔵庫に入らないので、すぐに調理しよう。
何にしようかと考え、豪快さが伝わりやすいローストにしてみようと思う。
とはいえ、オーブンも無いし外は寒いので、魚焼きグリルを活用してみた。
塩とブラックペッパー、ローズマリーだけでシンプルに表面をまぶして味を馴染ませる。
魚を乗せる網を外し、極弱火でひたすら炙る。
20分ごとに裏返し、2時間ほどかけて程良い色となった。
だが、ジビエ肉には寄生虫などが大量にいると思われるので、超ウェルダンで仕上げよう。
一度鹿肉を取り出し、小さいサイズのステーキぐらいに切り分けると、予想通り中はまだ血が滴るほどの半焼け状態だ。
今度は網をセットし、細かいステーキ肉をさらに炙る。
寒さを我慢して薪ストーブを使えば、テキサスバーベキュー程の香ばしさが表現できただろう。
しかし、ガスコンロなので文句の無いほど焼き上がれば良いだろう。
では実食。
シンプルな味付けだからか、鹿肉のやや獣らしい野性味を感じる。
だが、ローズマリーが良い働きをしてくれたのか、それほど嫌な臭みを感じない。
噛み応えがある程よく焼けた固い肉なので、命をいただくという神聖な厳かな気持ちで食することができた。
では、ワインと合わせよう。
今回のワインはわりかしボディが厚めの赤ワインである。
当然ながらここまで焼き上げ、且つシンプルな獣肉であるので十分に相性は良かった。
まさに神の血に相応しい供物、これもまた生きる糧となり生命の循環をここに感じることができる。
生きることを直に感じることのできる良い食事であった。
☆☆☆
ネットショップはオープンしたが、注文は初めだけで静かなものだった。
だが、まだ予約商品だけなのでこれは想定内、試験的なプレオープンと思えば良いだろう。
さて、週前半は良い天気で畑日和であった。
いつもお世話になっているワイナリーで収穫の手伝い、おそらく日本国内で最も遅い収穫が終わった。
今年は雨の多い大変な年だったが、とりあえずは一段落だ。
そして、自分の畑では剪定を開始した。
まだ葉っぱが落ち切ってはいないが、これから先は悪天候続きの予報だ。
早めに枝を切ってやらないと突然の大雪でブドウ棚が潰れてしまったら生きる糧を失ってしまう。
それでも今年は急ぐ作業はないので、昨年よりも丁寧に枝を選んでスッキリさせていく。
来年やその後も考えて木の形をイメージすることが大事なのだ。
週の後半は予報通り、雨ばかりであった。
雨の合間を見計らい、サクランボハウスで解体した必要のない部分を屑鉄屋に売りに行く。
ごみ捨てに行くだけでお小遣いになるので悪くは無い仕事だ。
他では、様々なことが進み出した。
ジュースラベルのサンプルも出来上がり、本格的にラベル作成となった。
うまくいけば来週末に発送開始だろうか?
我が家のガレージという名の農機具小屋を醸造所へ改装するために、地元の業者と建築士がようやく見に来てくれた。
必要な工事や電気、水道などの設備についての話をし、見積もりも頼んだ。
一応、建築士は市議も兼ねているので下手なことをしたら次の選挙が怖いから信用しても良いだろう。
というのは冗談として、町おこしに積極的だし、他のワイナリー立ち上げの実績もあるからおかしな話になることは無いと信じたいと思う。
醸造設備の機械類の見積もりも届き、大体の費用が分かった。
まだ細かい部品が抜けていたので、多少のズレはある。
そういう費用も追加で訂正してもらうように頼んだ。
さて、ワイナリー設立費用は合わせて大体2千万円ぐらいか?
まだ不確定要素もあるのでハッキリとした金額はわからないが、元の建物がすでにあるため、新築よりもかなり投資額は抑えられそうだ。
いずれにせよ、融資の申し込みをするために経営計画書を書かねばならない。
そのためにも、まずはワインの販売実績を作らねば。
お世話になっているワイナリーと取引のある近場の酒屋を聞き、直接出向いてみた。
しかし、まだ売るものどころかワインすら完成していないので、名刺を持っての挨拶回りぐらいしかできない。
それでも存在ぐらいは知ってもらうために、近場の酒屋巡りをし、話を軽くして今回のワインも買ったりした。
卸売業者にも挨拶しようとアポを取ろうとしたら、驚くことに相手先からこちらに来てくれたりもした。
色々と話をし、即席で書いた商品企画書を渡し好印象であった。
農作業が本業であるが、生きる糧、そして将来の活動のためにも慣れない営業回り、企画書作成などの事務作業も必要となる。
ワイナリー経営はまさに総合職の何でも屋だ。
今は悪天候のみ営業活動に出かける『曇天のビジネスマン』となっている。
そんなわけで、近場だけの数件、しかも口約束程度だが取り扱ってくれるような話になった。
この程度で『俺様は仕事ができるんだ』と自惚れる程阿呆ではない。
人の伝手を借りただけで大したことは何もしていないのだ。
しかしながら、どれだけ時代が変わって人間関係が希薄になろうとも、人とのつながりが大きな力であることは変わらないと実感した。
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