11月第3週 調子に乗らない

『ボレロ ジュランソン モワルー

 2019

 ドメーヌ コアペ』


 フランスとスペインに跨るピレネー山脈の麓に位置する『ジュランソンの宝石』を生み出すワイナリーである。

 世界最高峰の甘口ワインは世界中の美食家たちを虜にしている。

 

 ワイナリー自体は1980年設立と比較的新しく、現在のオーナー・モラントゥ氏が一代で築き上げた。

 元々は農業と酪農を営む家庭に生まれたモラントゥ氏だったが、敷地内にあるブドウ畑に興味を持った。

 当時ワインの知識は一切なく、独学でワインを学び続け世界的な評価を得ることになった。

 世界的な名声を得てもあくまでワイン職人と名乗っているという。


 さて、前置きがかなり長くなったが、開けてみよう。


 今回のワインは極甘口の最高峰の宝石ではないお手軽価格の中甘口モアルーであるが、グラスに注ぐと黄金のように輝く。

 グラスからは濃厚な黄色を感じる香り、花には詳しくないのでよくわからないが何か華やかな花やハチミツ漬けの桃のような甘さを感じる。

 味わいは良く熟したパイナップル、樽のような香ばしさもあるが、酸味も効いているので余韻も長いのにスッキリとしている。


 まだ若いが宝石の片鱗を感じさせてくれる。


『柿とモッツァレラと生ハムの和え物』


 柿を貰ってしまったのでどう使おうかと考える。

 この地方では渋柿しかないが、別地方産なので渋抜きしないでお手軽にそのまま食べられるので柔らかくなった柿を使ってみよう。


 そんなわけで、オカン🐷さんのいつかの食卓に影響されてパクtt……アレンジしてみよう。


 リンク先はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16817139554709461780/episodes/16818093087574647285


 作り方は簡単、皮をむいて一口大に切ってオリーブオイルを振りかけるだけ、後はお好みの塩コショウで味付けだ。

 これだけではちょっと物足りないのでバゲットを添えてみよう。


 実食。


 甘いと塩っぱい、これは実に危険な組み合わせだ。

 塩が甘さを強調し、快楽中枢を刺激するのだ。

 甘いと塩っぱいの無限ループが起こり、さらに油のまろやかさが拍車をかけていく。

 

 その結果、アメリカンサイズ(横のみ)の出来上がりとなる。


 さらにワインと合わせる。


 今回は甘みを抑えたモワルーであったが、前菜にも使える今回のメニューとの相性も抜群に良かった。

 トロピカルな甘さと酸味があるワインなので、食事をさらに味わい深くさせてくれ食後のデザートのようになった。

 添えたバゲットがクラッカー代わりに、顎が外れんばかりの一口で頬張る。


 快楽中枢が刺激され、脳内からエンドルフィンがドバドバと分泌されていく。

 人間など欲望に塗れた獣なのだ。

 快楽を味わいつくし、太く短く一瞬を生きるのが侍魂であろう。

 後先考えずに今を全力で味わい尽くすのだ。


 と調子に乗って暴食を貪った翌日。


 おなかの調子が1日中悪かった。


☆☆☆


 山頂の白い粉はすぐに消え失せたが、麓も紅葉が進み、山の色合いも日々哀愁を感じさせるようになってきた。

 明るい時間もさらに短くなり、稼働時間が短くなって繁忙期の激務と帳尻が合うように緩やかな時が流れる。


 とはいえ、まだまだやるべき作業があるので行楽を楽しんでいる暇はない。


 サクランボハウスの解体も順調に進み、危険な作業だった高所部分の解体は終わった。

 残るは低い部分だけであるが、それでも油断すると怪我の元なので気を抜いてはならない。


 そして、狩猟解禁となり罠の初心者講習を受けた。

 この時に新事実を知ることになる。


 罠はどうやら補助金の対象外らしい。

 それほど高い物ではないし、全額自腹でも必要なので買うしかない。

 また懐に空風が吹くぜ……。


 さらに、新品の罠は人間や金属の匂いがまだ付いているので、鼻の良いオークが罠の位置を感づいて避けるらしい。

 カンの良い豚野郎は嫌いだよ。


 そんなわけで、新品の罠は我が家の庭に放置して1週間以上雨風に晒して匂い消しの時間が必要となってしまった。

 直前まで知らないことばかりであったので、狩猟解禁日から出遅れてしまった。

 講習をもうちょっと早い時期にやってほしかったが、今更もう遅いので仕方がない。


 最後に、ジュースのラベルのデザイン候補ができたので見させてもらった。

 これが僕のような無骨者には思いつかない程芸術的なデザインであった。

 もうちょっと細かい調整をして、ラベル屋に印刷してもらえば完成だ。


 例のクラウドファンディングの返礼品でジュースを選んでもらった株主の皆様の元へ、できればクリスマスという名の酒池肉林の宴までに届けたいものだ。


 現物は出来上がっており、肝心の味の方であるが、想定以上の美味であった。

 詳しい話はラベルができた時に料理と紹介しようと思う、多分。


 ネットショップも徐々にできあがってきたので、昨年のワインもそちらに載せようかなと思う。

 こちらは自分で醸造したわけではないので完全オリジナルでない。

 それでも前シーズンの戦いの日々を思い出すと味わい深くなるだろう。


 すべてが徐々に良い方向に進み出しているので、調子に乗らないように自重したいが、食欲などの三大欲求は留まることを知らない。

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