9月第4週 試練の長い秋雨

『ロッソ メログラーノ

 2021

 ロッカフィオーレ』


 イタリア・ウンブリア州緑豊かな丘と谷間にて、家族経営で有機栽培を取り組む小規模ワイナリーである。

 地元出身の先代レオナルド氏が古い畑を購入したことから始まり、現在は2代目が父の夢を引き継いでいる。

 

 今回のワインは、北イタリアのスキアーヴァ種のようにエレガントな果実と酸が持続する飲み心地の良いワインが大好きだった先代の夢を実現するために造られたそうだ。

 醸造家もまた北イタリアから招き、情熱的に献身的にワイン造りに取り組んでいる。


 では、開けてみよう。


 ワインレッドらしい濃い紫であるが、グラスに注いでみると背景が透けて見える程の透明感がある。

 香りはラズベリーのようにピュアな甘酸っぱさを感じる。

 口当たりは実に軽やかでフレッシュ、余韻もスッキリしていて心地良い。


 陽気で親しみやすく、晴れた昼間に飲みたい程だ。


『栗とチキンの煮込み』


 栗をいただいてしまったのでどう使おうかと考える。

 基本的には栗ご飯か甘味になるが、今回のワインには合わせにくい。

 そんなわけでレシピを調べるとちょうど良さそうなものを見つけたので、今回の料理にしてみよう。


 https://onnela.asahi.co.jp/article/43426


 我が家に電子レンジという文明が無いので、茹でてから放置し粗熱が取れてから硬い鬼皮と内部の渋皮も剥く。

 そうしてからレシピ通りに調理していけば完成だ。


 実食。


 ブイヨンの深みのある味わいと舞茸の風味がよく出ていて、お手頃価格の鶏もも肉が一段優雅に感じる。

 それでも白身肉なので比較的あっさりと味わえる。

 栗のホクホクとした仄かな甘味が良いアクセントとなっている。


 ワインと合わせよう。


 比較的スッキリ味の軽めの赤ワイン、比較的あっさりとした味付けの淡白な鶏肉である。

 これが相性良く、見事に食が進んだ。

 似通った性質のワインと料理は相性が良いことが多い。

 今回の場合はお互いに自己主張が強くないので、特にしっくりと来る。


 人もまた穏やかに生きていくことが実はより良い生き方なのだろう。

 

 しかし、人生はいつだって激動の荒波に飲み込まれる危うい足場に立たされているのである。

 大事な瞬間に悪夢のような嵐がやってきたりもする。


 そんな時こそ、ワインと料理でも楽しみながら、落ち着いてやり過ごせる胆力が欲しいものだ。


☆☆☆


 「なんでやねーん!」


 突然関西芸人になってツッコんでしまった。


 掠ることもなく遥か彼方に消えていくはずだった台風14号が、直角以下の角度でカーブして日本列島を目指し始めていた。

 こんな変化球、大谷翔平ですら打てないだろう。


 僕のブドウ畑のあるこの土地では秋雨前線が居座り、悪天候が続いていた。

 そこに線状降水帯が発生し、台風までやってくるという。

 ブドウにとっては最悪の状況である。


 晴れ間が少ないため、ブドウの糖度が上がってこない。

 雨が多いということは、それだけブドウが水っぽくなって味が薄くなる。

 雨に打たれて湿度が高いということは、カビを始めとする病気も拡大していく。

 収穫期が近いということは、それだけ腐りやすくなっている。


 まさに悪夢のような試練の時であった。


 不幸中の幸いとしては、土曜日の最高温度が20度を下回るほどの低温になっているので、病気の勢いは衰えそうか。

 当然ながら、ブドウも熟さないわけであるが……。


 そんな惨劇ではあるが、ジュース用のブドウを収穫しなければならなかった。

 

 当然ながら、ジュースを作って販売するためには製造の免許が必要になる。

 しかし、ワインとはまた違う免許になるので2つ隣の市まで持っていて加工してもらうしかない。


 しかもワインよりも免許の規制が厳しいので、限られた業者しか無いのである。

 必然的に収穫期は過密スケジュールになるので、相手先の空いている日に加工してもらうしかないわけだ。


 収穫前までの2日間は雨季の合間で奇跡的に晴れ間があった。

 前夜と早朝に雨に降られたが、当日は何とか天に見放されることはなかった。


 10時頃に雨も乾いたので、ジュース用の収穫を開始した。

 たかだか130kgの量、本数にして100本に満たないので独りで余裕の収穫だ。


 全体としてはワインにするにはもう1段熟度が必要だが、ジュース用としては甘すぎない方が飲みやすいと僕は考える。

 フレッシュで甘さ控えめなタイプのジュースになるだろうと予想されるが、絞ってみるまでは分からない。

 それでもできる限り良いモノにしようと思う。


 そんなわけで、ある程度熟していそうな房を探しながら収穫したので、想定よりも時間がかかってしまった。

 1箇所で一気に収穫すれば一瞬で終わったはずだが、予定の3倍の時間が過ぎていた。


 それでもまだまだ日は高いので、このまま納品しに軽トラックを走らせる。

 

 片道1時間足らずで到着、思っていたよりも小さい加工場であった。

 近隣のジュース加工をほぼ請け負っているので、この規模なら過密スケジュールになっても仕方がない、か。


 そして、冒頭の変化球台風が来る前にジュースの収穫は無事に終わった。


 あとは、ワイン用の収穫を待つわけだが、この大雨を耐え忍ぶことができるかどうかが運命の分かれ道になることだろう。

 試練は本日日曜日もまだまだ続く。

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