5月第5週/6月第1週 厄介者との戦い

『バッド ボーイ

 2018

 シャトー ヴァランドロー』


 フランス・ボルドー・サンテミリオン地区にて、小さな醸造所で造られる「ガレージ・ワイン」にして急激に評価を高めた「シンデレラ・ワイン」として名の知られるシャトー・ヴァランドローのワインだ。

 本来ならば手は届かないが、今回の「バッドボーイ」というブランドでは丸が一つ少なくて気軽に手に入れることができた。


 バッドボーイという名の由来として、常識を覆す異才っぷりに世界的なワイン評論家ロバート・パーカー氏がそう呼んだかららしい。


 逸話として、2000年ヴィンテージを造る際、収穫前の予期されていた雨水による水害を防ぐためにブドウ畑にビニールシートを敷き、雨水を排除した。

 しかし、この方法はテロワールの在り方に背くと考えられているため、フランスの公的機関である国立原産地名称研究所(INAO)によって禁止されており、最下級のテーブルワインに格下げされた。

 だが、格下げされてもなお良いワインを造りたいという想いからリリース、市場では高評価で最も高価なテーブルワインとして取引されたという。


 そんな権威主義に逆らうやんちゃものの1本を開けてみよう。


 メルロー100%であるがかなり濃厚な色合い、アルコール感の強さに思わずむせてしまう。

 少し待ってあげるとよく熟したベリー系とコーヒーのような香り、味わいは濃厚でパンチが利いた重みとチェリーのような甘みとシラーのようなスパイシーさも面白い。


 これは確かに値段以上の飲みごたえがある。


『ネギまみれ牛タンのニンニク塩炒め』


 今回はちょっと手抜きで、すでに味付けされているパックを炒めるだけで済ませた。

 スライスされている牛タン数枚だけよりも、味付けの方が安かったという懐事情もあったりするが。


 サッと炒めて実食だ。


 コリコリとした歯ごたえがあり、一般的な牛たんのイメージ通りだ。

 わりとニンニクとネギの風味が強いが、牛タンの量も多いので十分に食べごたえがある。


 ワインと合わせよう。


 タンニンと牛タンが実に韻よく溶け合うようだ。

 わりかし強いワインだと思っていたが、まろやかに飲み進めることができる。

 ラベルでは羊であったが、牛でも十分によく合うと思う。


 しかし、少々疲れが溜まっていたのか、羊を数える間もなく眠りに落ちてしまった。


 やんちゃものと評されてはいたが、良いものを造るために常識外れのことをすることがあっても良いと思う。

 自分の求めるものがある限り、さらなる努力をすることは大事なことだからだ。


☆☆☆


 前回はワイン部屋が出来たことに浮かれていたが、例のクラウドファンディングで株主の皆様に限定ワインを発送した。

 今回は限定ワインということもあり、一部の大株主の方々のみではあるが。


 この時期に限らず、配送トラック内は晴れた日中には温度が想像以上に上がると言われている。

 そのため、ワインの品質低下を防ぐためにもクール便で送る方が親切というものだ。

 やや出費は嵩むが、信用の方が大事だと僕は考える。


 さて、苗木を植えた畑ではあるが順調に苗木は育っている。

 生育の早い品種はグングン伸び始め、芽出しの遅れていた苗木もほぼ出揃った。

 わずかに数本であるが、芽吹きの怪しい苗木もあることはあるが、こればかりは仕方がない。


 ある程度苗木も育ってきたことで、次の段階へと進もうと思う。


 ブドウ棚を作ったことは作ったが、まだ全ての番線を張ってはいない。

 今の段階では全ての番線を張ってなくても問題はないが、今年の目標の高さにある番線だけは張ろうと思う。

 それに、番線を張ることでアチコチに傾いている支柱もある程度直立になるからだ。


 そのために、まずは番線の高さを合わせるために支柱に付属させる金具を固定させる必要がある。

 1つ1つは大したことはないが、数だけはあるので意外にも時間がかかってしまう。 

 

 この週は台風の影響からか、雨の日も多かった。

 ということで、全ての金具を固定する前に、雨の合間に少しだけ試しに番線を張ってみようと思う。


 この部分の番線は以前の支柱を固定させるためとは違い、ブドウの木の樹形を整えるためなのでそれ程きつく張る必要はない。

 想定通り、以前購入していた部品で十分に事足りた。

 余計な出費がなくて一安心だ。


 と思った矢先だった。


「ぬぎゃああああ!?」


 残り僅かの長さになったことで油断してしまったせいか、番線が絡まってしまった。

 番線が折れ目がついてしまうと、張り詰めた時に切れやすくなってしまうのだ。

 

 絡みを取るために手間取り格闘するも、さらに絡みが酷くなり諦めて途中で切り離した。

 嫌な位置に継ぎ目が来てしまったが仕方がない。


 これも失敗の教訓としておこう。 

 油断大敵である。


 こうやって徐々に番線を張っていこうと思ったわけだが、苗木の周りの草もまた伸びてきた。

 草刈りを行い、この時ヤツラの蹄の後を発見した。


 厄介なやんちゃものオーク、じゃなかったイノシシが侵入してきたようだ。

 外周をグルリと歩いてみると、ネットに大穴が空いていた。


「ふ、ふふ、ふっふっふ……抹殺してやる!」


 畑内にやんちゃものはいらない。

 ヤツラからの宣戦布告は受け取った。 

 ハンター試験は来月に受ける予定である。

 決戦の日は近いようだ。


 そんな血気が溢れかえっていたが、もう一つのブドウ畑ではついに開花が始まった。

 産毛のようなブドウの花であるが、まだ全体の中ではほんの数房程度だ。


 ここらでまた防除をする必要がある。


 しかし、こんな時に雨ばかりがよく降る。

 この時期では雨によって病気の感染がしやすくなるのに、だ。


 今年は昨年よりも9日早く、そして、例年であれば梅雨時が開花時期だ。

 だからこそ、日本では農薬、もしくはビニールハウスがなければ農業が難しい現状もある。


 雨の合間を見計らい、農薬を撒き散らすわけだが、またもやスプレイヤーの故障だ。

 

 水漏れは直ったが、今度はラジエーターが機能せず出発してすぐにオーバーヒート、またも小型のスプレイヤーに農薬を移し替え、完全防護に着替えた。

 曇りで涼しい日であったがそれでも汗だくである。


 これでできる限りブドウの花を防御したわけだが、この週末の大雨を凌ぎ切ってほしいところだ。


 農業というのは、想定外の厄介者との戦いの連続なのである。

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