第7話 川上くんの記憶

 京都へ向かう修学旅行のバスが、学校のロータリーから町へ出て、最寄りのインターチェンジを越えて高速に乗る。車内は早くもお菓子の匂いで充満して、弾むような笑い声もあいまって、七色の時間を描き出す。


 実行委員は暇つぶしの映画に、『バトル・ロワイヤル』を選んだらしいが、残念ながら、誰も見向きはしなかった。この映画の冒頭は、修学旅行のバスのシーンからはじまるし、なるほど臨場感は申し分ないのに。誰かさんの粋な趣向は、クラスメイトには伝わらなかったようだ。


「おーい、川上もトランプやろうぜ」

 

 一列後ろの補助席から、活発そうな男子が私を呼んだ。……川上? あ、そうそう。私はまた力を使ったのだ。見えているのは川上くんの記憶? 振り返ると、学ランの袖のボタンがシートに当たって、私の知らない感触がした。


「どうした? 車酔い?」

 

 私を呼んだ男子が、トランプを切りながら首をかしげた。私は彼を知らないが、川上くんは知っている。勉強が苦手で、足が速いが、得意なのは短距離だけだ。同じ小学校だった女の子を、かれこれ五年も思い続けているのに、告白をしたことは一度もない。二日目の夜に呼び出すんだ、と班行動の計画のときに意気込んでいた。


「……高井、くん?」

「は? なんで〝くん〟付け?」

 高井くんはちょっと困惑したみたいに笑った。


「優実もやろ~よ~」

「早く早くー」

 

 周囲の女子が私を呼ぶ。けっこうモテるんだな、と感心したが、川上くんはべつの女の子を探していた。なんで来ないんだよ、と思っていた。

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