22.連戦
グオオオオオオオオオン!!
『水魔法』で生み出された三つの長い首を持つの化け物がけたたましい咆哮を上げ、その場に崩れ落ちた。
「見た目の割に大したことなかったな」
魔力が限界を迎えたのか或いは術者が意図的に魔法を解いたのか不明だが、化け物は僕たちに敗北するなり瞬く間に消え去った。
「これだけ高度な魔法を使ったんだ。これ以上は仕掛けてこないと思うけど……」
『水魔法』により生み出されたあの怪物はまるで本物の動物のように複雑な動きをしていた。
術者は確認できていないがかなりの魔力を消費したはず。
こちらも消耗したとはいえ下手に追撃はしてこないはずだ。
一つ不可解なのが……
「まさかいきなりこんな魔法使ってくるとはな……」
どうやら響も同じことを考えたらしい。
膨大な魔力を使った魔法を試合の開始直後、更に僕たちだけを狙ってきたのは腑に落ちない。
あれほどの規模を持つ魔法をいずれ起こるであろう複数チームの乱戦に使おうとは思わなかったのだろうか?
「単純に僕たちがバッチを多く所持しているからって可能性もあるけど……」
「まあ何にせよ返り討ちにしてやったんだ。相手の思惑通りってわけじゃ無いと思うぜ」
「確かにそう……後ろっ!!」
ドゴオオオオオオオオ
突如現れた砲撃により僕たちの居た場所は跡形もなく吹き飛んだ。
「危なかったぜ。ナイスだ、修」
僕たちは瞬時に近くの瓦礫の後ろに退避した。少しでも気づくのが遅れたらあの砲撃をもろに食らっていただろう。まさに間一髪であった。
「あれ、全く当たってないのかよ」
魔法が放たれた方向から二つの人影が現れた。
「魔力はちゃんと隠してたのになー。なんでだろ?」
片方は少し長い髪を後ろに纏めた軽薄そうな男。魔力の痕跡からして今の魔法打ったのは彼だろう。
「やっぱカレンも同時に打ったほうが当たったんじゃね?」
もう一人はカレンと呼ばれた桃色の髪を頭の横で結んだ女。私服なのかシャツに短パンという格好で身体中に装飾品が身につけられている。所謂ギャルって感じだ。
「よお、お二人さん。悪いな不意打ちして」
男は瓦礫の裏で様子を伺う僕たちに声をかけてきた。
今は戦闘中だって言うのにすごい余裕だ。
「俺たちを知ってるのか?」
響が答えた。確かに彼らの口ぶりからして僕たちを知ってて攻撃したようだ。
さっきの『水魔法』も彼らが使ったのか?
「知ってるも何もお前たちは有名人だぜ?神崎先輩と互角に渡り合った一年生と『空間魔法』を持つ相方……。あっ俺は
「カレン・アイビーでーす!カレン先輩って呼んでねー!それとまさきと同じ二回生だよー」
彼女は片手でピースを作り片目にかざす。
「えっと敵ですよね?」
あまりの空気の軽さに思わず聞いてしまった。
「ん?そうだぜ?だけど折角俺の攻撃を避けたんだ、これからも学園で会うだろうし挨拶はしとこうと思ってな」
分かるような分からないようなそんな言葉だった。攻撃を避けた事と挨拶は関係あるのか?
まああの様子だと本人は深く考えていないのだろう。
『修、あの二人ああ見えて結構強いぞ』
響から一般思念魔法、<
『一旦逃げる?』
こちらは連戦で思いの外消耗している。一度下がり立て直すのもありだろう。
『退いてもいいけど仮にあいつらがさっきの水魔法を使ったやつらなら逆にチャンスだ』
確かにそうだとしたら彼らのどちらか片方、あるいは両方が消耗しているはずだ。
響は自信のある顔をこちらに向ける。
『俺が前に出るから修にはサポートを頼む。いざとなったらアレもあるしな。あと危なくなったら退けるように準備しておいてくれ』
彼ら相手なら危機に陥っても退却する余裕はあると判断したのだろう。
僕は首肯する。
「じゃあ行くぜ」
「おっ?作戦会議は終わったか?」
次の瞬間、僕の隣にいた響の姿が消える。
<
響は一瞬にして間合いを詰め、その光輝く剣を振りかぶった。
こちらの手の内は既に知られているが故に響は最初から全力でいくつもりなのだろう。
「きゃはっ!」
楽観的な声と共に華麗な脚技が響の攻撃を弾いた。
アイビー先輩が響の動きに反応し、魔力の込められたあの両脚で防いだのだ。
「やっぱ速いね、君。考えてたら間に合わなかったよ」
「次は間に合わないと思うのでしっかり反魔法を張ってくださいね」
響は挑発するように答えた。
対してアイビー先輩は口に手を当てキャハハと笑う。
だが態度とは裏腹に一瞬たりとも響から視線を外していない。
「次はこっちの番だよー?」
言葉と共に彼女の背後から複数の魔法陣が展開されていた。
「<
それぞれの魔法陣から巨大な岩石が出現した。先程の砲撃だ。それぞれの岩石はかなりの魔力を纏っており、まともに当たれば一溜まりもないだろう。
ただし当たればの話ではある。
砲弾と化した大岩が射出される。数は六。
その全てが響へと向かっている。
その砲撃は速度はあるものの僕の目には追えている。つまり響の方が速い。
響は大地を蹴り宙へ飛び上がる。
「修!!」
響を逃した砲撃はそのまま後方にいる僕へと迫る。
最初から狙いは響ではなく僕のようだ。
「<
迫る砲撃の前方に三つの空間の裂け目が現れる。岩石の砲撃の半数が空間の裂け目へと飲み込まれる。
空間の裂け目に消え去ったのは半数だけ。岩の砲撃はまだ残っている。
ドゴオオオオオオオオン
巨大な爆発が起きる。
「ありゃりゃ。どっちかには当たると思ったんだけどな」
彼の放った魔法は一つも僕たちに命中していない。
<
「でもバラけたじゃん?」
アイビー先輩が爆発により生じた煙幕を駆け抜け僕へと迫る。
彼女の両脚に再び魔力が集中する。
「<
魔法技か……速いな。伊達に響の攻撃を防いだわけではない。
おそらく魔法の効果をあるのだろうがその速度は今の僕でも目で追うのがやっとなぐらいだ。
振り上げられた右脚が僕の左耳を狙う。
まともに食らえば反魔法に全力を注いだとしても戦闘を続行することは極めて困難だろう。
まさかこんな序盤に使うことになるとはね。
ドゴオオオ
アイビー先輩の蹴りから放たれた衝撃波で周囲の瓦礫が消し飛んだ。
どうやら速度以外にも仕掛けがあったようだ。
だがその結果に目を丸くしたのは攻撃をしたアイビー先輩であった。
驚くのも無理はない。
確かに彼女の目の前にいた僕は今頃蹴り飛ばされているはずだった。驚くのも無理はない。そこにいた僕が消え、別の人間と入れ替わっていたのだ。
「よお先輩」
先程まで上空にいたはずの響が一瞬にして彼女の眼前に現れた。
「な、なんで君がいるのかな」
彼女は初めて焦りの表情を見せた。
僕が新たに習得した魔法。<
響には試合が始まる前から魔力でマークしておくことで相手に気づかせずに魔法の準備をすることができる。
そして今までの僕たちの動きは誘いだったというわけだ。
響は既に魔法の発動している。
対してアイビー先輩は魔法が終了した一番無防備な状態だ。
「<
零距離の砲撃が放たれる。
「なっ!?」
刹那、<
<
「危なかったあ。まさきナイスぅ!」
アイビー先輩は後方へ跳び、宮代先輩と並んだ。
そして元々響がいた上空にいる僕は<
「響、今のは?」
「見てみろよ……」
響は視線をその一点に集中していた。
「あれは……!?」
僕たちが見たのは宮代先輩の眼だ。
彼の両眼には先程までは無かったはずの魔法陣が浮かんでいた。
そして宮代先輩の魔力が今までよりも増幅しているのを感じる。
「まさかこれを使うことになるなんてな」
あれはおそらく『魔法開眼』、或いは魔眼と呼ばれるものだ。
高度な魔法技術により行使できる上級魔法の中でも最上位の魔法だ。
魔法を勉強する上で知ってはいたがまさか学生で使える人間がいるなんて。
とにかく今はあの魔眼を一番に警戒しなければならない。或いは退却しても良い場面だ。
響もそれは分かっているはずだ。
「……ふぅ、一旦休戦にしようぜ」
そう提案したのは現状優位に立っているはずの男、宮代先輩であった。
こちらとしては思いもよらない話だが………
「っ!!」
「修?どうかしたか?」
どうやらこれ以上戦うわけにはいかないようだ。
「周りにかなりの人間が集まって来てる……」
「そういうことか」
今感じるだけでも六人以上。実際はもっと多くいると考えて間違いないだろう。
先程の大規模な爆発で注目されたか?
「気づいたか?まっ、お互い手札を晒しすぎたってわけだ」
今使った魔法や作戦は周囲にいる人間に見られてしまった。
彼らは僕たちの戦いが終わった瞬間の隙を突くためにずっと潜んでいたのだろう。
「修」
響と目を合わせ、意見の一致を確認する。
「その提案、僕たちはありがたく受けさせていただきます。宮代先輩」
「こちらこそ理解してくれて助かるぜ。あと正樹でいいぞ」
彼はそう言ってニッと笑った。
「じゃ、またねー!」
アイビー先輩はこちらに大きく手を振っている。
僕たちも雰囲気で手を振り返しておいた。
「<
魔力の伴った大岩が一つ、四人の中心に落とされる。
ドゴオオオン
爆発と共に砂煙が生じた。
四人はそれを合図に動き出す。
「響、準備はできてるよ」
「流石だな」
最初に響に言われたとおり、僕は退却用の<
手をかざせば目の前に空間の裂け目が現れる。
次に視界に広がったのは豪勢な建物の中だ。
『ロッソ跡地』の中心にあった城の中である。
そしてここが僕たちの次の戦場となるのだ。
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