21.バトルロイヤル

 一週間後……


「Bグループの点呼を取りますので該当生徒は集まってください」


 スタッフと思われる人が魔力で声を飛ばした。


 Bグループの生徒達が集められたのは国外の『ロッソ跡地』と言われる廃墟群だ。

 凡そ一〇〇年前に戦争によって滅びた国の跡地で、巨大な城を中心に様々な建物が並んでいるが、どれも大きな攻撃を受けたようにボロボロであった。


 徒歩で来ようすれば一ヶ月はかかりそうな所にあるこの場所へは『転移門』と言われる魔法術式で一瞬でやって来た。


 生徒達が集まり始めると何人かのスタッフが個別に生徒達を巡回し始めた。


「お名前は?」


「三空修と響・シャムロックです」


「………はい。確認が取れました。こちらをお渡しします」


 僕と響に一つずつ渡されたのはデイヒル上級学園の校章が描かれたバッチだ。


「予備はありませんので失くさないようにお願いします」


 事務的に述べたそのスタッフは次の生徒の下へと行ってしまった。


 しばらくして散り散りになっていたスタッフ達が一点に集まった。


「全員の確認が取れましたのでルールの説明を行います」


 一人のスタッフが再び魔力で声を飛ばした。


「まず今回の競技指定エリアは現在張られている結界内とします。結界外に出た場合は原則失格処分とさせていただきます。また安全の保証もいたしかねますのでご注意ください」


 と言っても確認できる結界はかなりの広さのものだ。学園一つ分はあるんじゃないか?


「次に先ほど渡したバッチについて説明します。参加者の皆さんにはそのバッチを奪い合って頂きます。そしてチームが所持するバッチが〇になると脱落となります。順位はバッチの最終的な所持数にて決定致します」


 単純に戦うのではなく、バッチを取られたら戦闘不能にならずとも負けということか。そしてチームメイトがバッチを奪われてももう一人がバッチを所持していれば戦闘することは可能というわけだ。つまりチームメンバーの両方が戦闘不能になるかバッチを奪われるまではどのチームにもチャンスは残っている。


「バッチはこのように左胸の中央に装着してください。獲得したバッチも同様です。他チームから獲得したバッチは獲得した本人が装着してください。また制限時間は一時間です。制限時間が経過する又は生存チームが最後の一チームとなった時点で競技終了です。競技終了後、生存チームが四チーム未満の場合は最後に脱落したチームから繰り上げて順位をつけさせていただきます」


 予戦を突破できるのは各グループ上位四チームだ。つまり目標は………


「一位だな」


 響が言った。

 どうやら響は予戦でも一位を目指しているようだ。

 響らしい。


「そうだね」


 相棒がこう言っているんだ。僕も同じ場所を目指す。


「最後に、魔法、魔法具、武器の使用制限はありません。ですが、回復不可能な傷を負わせること、相手を死に至らしめることは禁止です。ルールの違反が発覚した場合は時期に関わらず該当チームは失格に加え厳重な処罰が与えられる場合がありますのでご注意ください。競技開始は一〇分後です。時間になるとバッチに付与された術式によりランダムなスタート地点に転移しますので必ず時間までにバッチの装着をお願いします」


 説明が終わるとスタッフ達はどこかへ行ってしまった。


「よお、空間魔法しか使えない雑魚ってのはお前か?」


 背後から声に振り向くと二人の青年が僕を睨んでいた。

 制服を着ているため同じ参加者のようだがどこで聞いたのか僕のことを知っているようだ。


「なんだてめえら………」


 先に反応したのは響だ。

 だが僕は手を挙げて響を制止する。


「………」


 僕を信じてくれたのか響は言葉を止めた。


「僕に何かに用ですか?」


 僕は臆せず男達に言った。


「俺たちはお前にアドバイスをしてやろうと思ってんだ」


 そう言う男たちの顔を見るにまともな助言は期待できそうにないが……


「なんですか?」


 一応訊いてみた。


「はっ、お前みたいな雑魚が戦っても負けるのは分かってるんだからよ、負けて悔しい思いをしたくなかったら俺らにそのバッチを渡すんだな」


 まあだいたい予想通りだ。


「あっ、お断りします。それじゃあ」


 僕は静観していた響に声をかけてその場を後にした。


「なっ!?待ちやがれ!!」


 男が大声を出すので自然と周りの視線が集まる。

 彼も参加者の一人だ。問題を起こすわけにはいかないだろう。


「チッ、覚悟しやがれ」


 苛立ちを吐き捨てるように言ったその声は僕には届いていない。




 所定の時間になると胸につけたバッチが自動で魔法陣を展開した。


 視界が光に包まれ、次に見えたのは瓦礫の散らばった平地だ。

 よく見れば瓦礫の山は元は家だったようだ。そんな風景が奥に続いていき、その先には巨大な城が聳えている。


「それでは競技を開始いたします」


 先ほどのスタッフの声が胸のバッチから響いた。


 カーーーーーーーン!!


 鐘のような音がどこからか耳に届いた。

 開始の合図だ。


「よっしゃあ!行くぜ修!」


 響が気合いの籠った声を上げる。


「っ!!待って!!」


 頭上から急速に迫る魔力を感じた。


 瞬間、僕と響は後ろへ飛んだ。


 降り注いだのは紅蓮に燃える火球だ。


「よお」


 声のした方を向けば瓦礫の裏から二人の男が現れた。


 さっきの奴らだ。


 どうやら彼らとはかなり近くに転移したらしい。


「大人しく言いうことを聞いてりゃ痛い目見ずに済んだのによお」


 男の両腕が先の火球のように紅蓮の炎に包まれる。


 もう一人の男は周囲に斬撃のような風を纏っている。


「さっきの借り、返してやるから覚悟しろよ」


 言葉と共に男の両腕に纏わりついていた炎が蛇のようにうねりながら僕たちに迫った。


火炎蛇柱ツイストファイア!!」


「<鋭刃風ウィンドカッター>!!」


 さらに死角を縫うように風の斬撃が放たれる。


 炎と風、異なる二つの魔法が同時に襲い掛かる………が寸前のところでそれらは音もなく消滅した。


「なっ!?」


 魔法を放った男たちは状況を理解していない。見えなかったのだ。


「ったくよお」


 僕の前に輝く剣を抜き放った響が立っていた。

 放たれた魔法は消滅したのではない。響が一薙ぎで斬り払ったのだ。


「さっきから大人しく聞いてりゃ勝手なことばっか言いやがって」


 先刻は僕が止めてしまったため響は言いたいことを言えずに終わってしまった。要は彼らに相当苛立っていたのだろう。


「覚悟をするのはお前達だぜ?」


 響は挑発するように言った。


「舐めやがって!!」


 男は紅蓮の火球を乱れ打つ。


 その総数は二〇。


 瞬間、もう一人の男が<鋭刃風ウィンドカッター>を身に纏い響に襲い掛かった。

 響は怯むことなく全ての斬撃を弾く。


 だがそれは奴らの思惑通りだ。


 二〇の火球が軌道を変え、僕の頭上へと迫った。


「へっ、死にな!」


 ドオオオオオオオン


「うわあああああああああああ」


 数多の火球が降り注ぐ。

 それは放った本人の下に。


「ぐあああああああああああああ」


 男は地面にのたうち回る。体が炎上しているのだ。

 彼は魔力を巡らせ、反魔法を併せて自身を燃やす炎を必死に消火している。


 今のは彼の渾身の一撃だったのだろうが、それを<空間接続スペースコネクト>により送り返したのだ。


 あの程度の火球では僕が見てきたの魔法には遠く及ばない。いくら放たれようと<空間接続スペースコネクト>で返すのは造作もない。


「くっ、雑魚の分際で……」


 ようやく鎮火したのか男は痛みに顔を歪めながらも立ち上がった。


「遅かったな」


 響が言うと男は啞然とした。


 男が炎上しているうちにもう一人は響にコテンパンにされ、バッチを奪われていたのだ。


「クソッ!!」


 途端に男は背を向けて走り出した。確かにチームに一つでもバッチがあれば脱落にはならないけど………


「ぐはっ!」


 響が男に瞬時に追いつき背後から飛び蹴りを入れた。


「散々言いたい放題言ってくれたんだ………ツケは払ってもらうぜ?」




「これでいいんだよな?」


「うん。大丈夫だと思うよ」


 響が左胸にバッチを三つ装着して確認した。


 説明されたルールでは奪ったバッチは奪った本人が装着する。これは敵と相対したときにバッチを見れば大まかに実力を測ることを可能にするためだろう。付けているバッチが多いほどそれだけ敵を倒したということだ。

 終盤まで隠れていたりするチームがいたら一概には言えないだろうけど。


 そしてバッチにはもう一つ魔法が組み込まれていたようで、それは脱落したチームを強制転移させるものだった。


 響が二つ目のバッチを奪った瞬間その術式は発動し、男達を転移させた。


 全くとんでもないバッチ、魔法具である。


「っ!!」


 視界の端で魔力がちらつく。


 次の瞬間、水で形成された三つ首の化け物が現れた。


 同じ学園にいたのに初めて見る魔法ばかりだ。


「さあ、次いくぜ」





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