19.光と空間
「それじゃあ、作戦は大体そんな感じでいいな」
響が僕の隣に立って言った。
「……うん」
響が立てた、視界の先に佇む進王ロイド陛下に一矢報いるための作戦。
それに不満なんてものは無い。ただこの作戦は僕達二人の全力を更に超えなければならない。それに対する不安が脳を過ぎる。
「それじゃあもう一回行ってくるぜ」
言いながら響は一歩踏み出した。最後に見えた表情は自身に満ちていた。
だがそこで響は動きを止めた。
「なあ、俺はお前ならできるって確信してるぜ。………お前は俺を信じてくれるか?」
響はこちらを振り向かずに言った。
「……?そんなこと当たり前だよ。響のことはずっと信じているよ」
すると響はこちらを振り向いて輝かしい笑みを見せた。
「ならお前を信じている俺を信じろ!」
「響………」
まったく、響にはいつも気を遣わせてばかりだ。
響の言葉に僕の心の中にあった曇りが消えていく。
「うん、信じるよ!!」
響は前を再び前を向いた。
「じゃあ行くぜ!!」
言葉と共に響が大地を蹴る。
響は光の速さで陛下との距離を詰めた。
だがちょうど中間地点という辺りで響の動きが止まる。
否、進んでいるにも関わらず距離が詰まらない。
<
だが響に焦りはない。
「へへっ、そう来ると思ったぜ!」
次の瞬間、響は僕の視界から消え去った。
そしめ前方にいる陛下の視線は遥か上空へと注がれていた。
響は一瞬にして軌道を変更し、<
彼は今、目を凝らしても微塵も見えない程の空にいる。
その場所に目を向けていれば、一瞬何かがキラリと光る。
それは錯覚ではなく、次の瞬間にはその場所に光り輝く数多の流れ星が地上へと落下している様子が見えた。
段々と近づいて来るそれは流れ星ではない。
光の速さを持つ魔砲。<
数はおよそ二〇、その全てがロイド陛下目掛けて降り注ぐ。
しかし、今なお陛下は微動だにしない。
それもその筈である。
全て<
あれは先ほど響を封じた空間の拡張ではない。<
<
だが再び空が煌めく。
そこを注視していると数多の<
けれどもその魔抱が陛下に届くことはない。<
遥か上空では光の砲弾が星の如くドーム状に点在している。
「さて、そろそろか」
僕は魔法を構えて深呼吸をした。
もう不安はない。響を信じるだけだ。
<
よくは見えない、他の光より少し輝いてるだけにも見える。だけど僕には分かる。
あれは響だ。
響が全身に光を纏って急降下しているのだ。
僕はそれに合わせて魔法を行使する。
「<
今回は依然までとは違う。陛下の<
その場所は空で輝く光、響を中心として展開する。
再び二つの魔力領域がぶつかり合う。
「響!ここだ!!」
二つの魔力領域の接点となる位置に僕の魔力を点滅させた。
グラッ
空間が揺れた。
響が<
通常、<
響はそれに対し数多の<
しかしそれでも実際の魔力領域とはズレが生じるだろう。
そこで僕が陛下の魔力領域の外側に<
そして僕が響に正確に魔力領域の外郭を示し、響もそこに攻撃を叩き込む。
これが僕達の立てた作戦である。
ゴゴゴゴゴ…
空間が更に振動する。
響の攻撃と僕の魔力領域がロイド陛下の魔力領域とぶつかっているのだ。
だがまだ足りない、まだ陛下の魔法には届いていない。
「はあああああああ!!」
響の声がここまで届く。
同時に響が纏う光がより一層、輝きを増した。
響も限界を超えようとしている。
僕も…………
「『狭間の理、世界の穿孔、我が存在は無条の内界』」
魔法呪文の詠唱により僕の<
「「はああああああああああ!!」」
……………………………………………………………………………………!!
音は無い。目にも見えない。
だが確かな確信があった。
ロイド陛下の<
「まだ!!」
僕は<
再び陛下に<
「っ!!」
陛下が再び<
今日幾度も見た光景、二つの魔法がぶつかり合う。
僕の<
それでも保って数秒だろう。
僕にとっては余りにも短い隙である。
だが光を操る響にとって数秒というのは充分過ぎる時間であった。
響と共に解き放たれた無数の<
光の雨がロイド陛下を襲う。
ドゴオオオオオオオオ
一閃。
陛下が放った一薙ぎに全ての<
そこに生まれた一瞬の隙を響は見逃さない。
彼は光の速さで縦横無尽に攻撃を仕掛ける。
陛下が空間を支配するまでに残された時間は僅か。
響はそれまでに陛下に勝たなければならない。
………駄目だ。
-数分前
「<
「うん、できると思うけど……」
「俺が攻撃魔法を空から撃ちまくって、陛下の魔力領域の大体の範囲を見えるようにする。そしたら修が<
響は言葉を止めて考えこんだ。
恐らく彼が考えていることは僕と同じだ。
「<
響は首肯する。
「修が全力で魔法を使えばどのくらい耐えられそうだ?」
「良くて五秒かな…」
再び静寂が訪れる。
とどのつまりは響はその五秒間の間にロイド陛下に勝利しなければならないということだ。
ここで彼が"できる”とはっきり言わないということはそういうことなのだろう。
響とロイド陛下にの間には絶対に覆ることのない壁があるのだ。
パンッ
乾いた音が鳴る。
響が両手で自身の頬を叩いたのだ。
「五秒あれば充分だ」
「ほ、本当に?」
「陛下は俺たちならできるって言った。なら全力でぶつかるだけだぜ」
響は笑み浮かべて言った。
「響………」
今の響の笑顔には何かに引きずられているような違和感があった。
「……心配すんなって!ほら、陛下をこれ以上待たせるわけにはいかないだろ?」
響は僕の背中を軽く叩いた。
「それじゃあ、作戦は大体そんな感じでいいな」
魔力も底をつき、片膝を着きながら僕は彼らを見据える。
このままでは僕達は負ける。
それでもいいのかもしれない。響も分かっているはずだ。僕が感じたあの笑顔の裏にあったものは敗北予感だ。
二人で戦えばもしかしたらなんて思った。
だけどロイド陛下は僕たちが思うよりも遥かに強大すぎる壁だった。
僕たちは充分頑張った。
時間はもうない今から僕にできることなんて………
「惜しかったな」
この国の王たる男は悲しげに、だがどこか希望を持って呟く。
彼に挑んだ二人の少年は誰が見ても限界そのものである。
しかしロイドは信じていた。
彼らならもう一歩、先に進んでくれることを。
「はああ!!」
眼前に迫る少年はその期待に応えるかのような気迫を放っている。
だがそれだけでは壁を越えることはできない。
「<
ロイドが終止符を打つべく、再び空間を支配する。
「まだだ!!」
……………………………………………………………………………………!!
それは一度見た光景。
<
正確には魔力領域を展開すると同時に割られたのだ。
ロイドは目を丸くする。
目の前の少年、響・シャムロックは驚くべきことをやってのけたのだ。
<
不可視の魔力領域を正確に認識するには、同じ魔力領域を衝突させる、或いは高度な魔力探知を用いる必要がある。
響が行ったのは後者。光魔法を操る彼はその性質上、空間の把握能力に長けている。
だが今までの彼には到底できなかった事を、一度の経験と直感を以ってやってのけた。
彼は次のステージへと進んだのだ。
僕は目を疑った。
僕はロイド陛下との魔法の押し合いに再び負けた。
そして残ったはずの魔力領域を響が打ち破ったのだ。
彼は限界を超えたんだ。
そして彼は諦めてなどいなかった。
響の姿を見て確信する。あの笑顔の裏にあったものは敗北の予感ではなく彼自身が限界を超えられるかの不安。最初に僕が抱えていたものと同じ、僕の背中を推してくれた彼にも同じものがあったのだ。
「強くなるんだ…」
”あの時”の決意を思い出す。
なら僕もそのとなりに立つんだ!!
「『狭間の理、世界の穿孔…』」
魔力が底をついた僕が魔法を行使するための唯一の手段。
再び魔法呪文の詠唱を行う。
ガキンッ
二つの剣の衝突。
はじかれたのは響だ。
「<
光の砲弾が一〇門放たれる。
普通なら一呼吸置く場面での追撃、陛下に魔法を使う隙を与えないためのそれは恐らく僕を信じてのものだ。
「『我が存在は無条の内界』」
響は僕の詠唱に気づいている。
僕に何の妨げもなく魔法を使わせるために攻めてを無理に増やしているんだ。
響は体を翻して魔砲と共に斬りかかる。
全ての<
ここだ。
響は今もなお僕を信じている。
なら僕はそれに応える!!
「<
空間の圧縮。突き出した拳と共に距離という概念を無視して対象に迫る。
否、その拳は既にに対象に命中している。さらに加速する距離がなかったにも関わらず、その拳には途方もないエネルギーが込められている。拳を振りかぶってから突き出す動作、本来行われるはずの動きの省略により発生したエネルギーは通常の打撃を遥かに凌駕するほど増幅していた。
数瞬遅れて響も僕に並び、手にした剣を振りかぶる。
「「はあああああああああああ!!」」
ガアアアアアアアアアアン
乾いた高音と耳を劈く金属音が響き渡る。
僕の拳は陛下の掌で受け止められ、響の剣撃は同じく陛下の剣に打ち払われていた。
「くっ………」
全身から力が抜ける。
横で響も崩れ落ちた。
今のが正真正銘、最後の一撃。
「とど…か…なかった………」
「そんなことはない」
ロイド陛下の言葉と共に体力が戻っていくのを感じる。
「これは………」
今の今までボロボロだった身体が何の疲れも感じなくなっていた。
恐らく陛下の回復魔法。だがこのレベルのものは見たことがない。
「立てるか?」
陛下が両手を差し伸ばし、僕と響はそれを取った。
「あ、ありが………」
「見事だった!!」
僕の言葉を遮って陛下は声を上げた。
「結局勝てなかったですけどね………」
響が悔しそうに呟く。
「だが、この戦いは君たちに大きなものをもたらした。違うか?」
陛下はいつもの自身満面の顔で言った。
今日、僕と響は大きな一歩を踏み出した。
それは紛れもなくロイド陛下の力あってのものだ。
僕たちは誠心誠意、その気持ちを表した。
「「はい!ありがとうございました!」」
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