15.頂点に立つ者

 色味が少し薄れた空間。先程すれ違った学生達は教室の扉を開けた状態からピクリとも動かない。


 窓から外を見れば、小鳥が飛び立とうとしている瞬間で静止していた。普通ならありえない現象。


「……時間が、止まっているのか……?」


 そう呟いたのは僕の隣にいる響だった。


「これなら時間は取らないだろう?」


 問題が解決したといった笑みを浮かべながらそう言う青年。

 以前、僕に助言をくれた人だ。


「御方には恐れ多くも申し上げます。ご戯れで時をお止めなさると学生達が混乱致します」


 神崎会長は跪いたまま丁寧にそう言った。


 それを聞いて謎の青年は一度こちらに目を向けた。


「彼らなら大丈夫だろう。こっちの彼は二度目だしな」


 青年は僕を見てそう言う。


「えっと……僕に会いたいっていうのはもしかして…」

 青年は首肯した。


「あなたは一体……」


 神崎会長の態度からしてかなり目上の人のようだが……


「……強い」

 響が横で呟いた。


 どうやら一目でこの人が自分より格上だと思ったようだ。


「失礼ですよ、シャムロック」


 神崎会長が顔を上げ、響を注意した。


「陛下、我が学園の生徒の非礼をどうかお許しください」


 神崎会長は再び深々と頭を下げた。

 というか今、陛下って言った?


「こんな些細な事は気にしないさ。は相変わらず真面目だな」


 青年は和やかにそう言った。


「はあ、全く、陛下が甘すぎるんですよ」


 神崎会長の態度が緩む。


「上に立つものとしてもう少し…」


「それよりほらっ、彼らが困ってるぞ」


 神崎会長はハッとしたようにこちらへと視線を移した。


「すまない、置いてけぼりだったね」


「い、いえ。それよりもこの方は…」


 なんとなく予想は付いているため恐る恐る聞いた。

 すると神崎会長は改めるように喉を鳴らす。


「こちらに居られるは、我が国の頂点にして『進王』の名を冠する御方。

 ロイド・零・クロノ様で有らせられる」


 予想通りではあったが言葉が出なかった。

 僕の中で様々な感情が駆け巡った。


「あ、あの」


 先に口を開いたの響だった。


「どうした?」


「ロイド陛下が即位されたのってかなり前なんじゃ……」


 僕も同じ疑念を持っていた。

 ロイド陛下が即位したのは百年以上前なはず。


 魔力をコントロールすれば老化は抑えれる。だが目の前にいる青年は見た目が若すぎるのだ。僕らと同年代にさえ見える程に。


「ふむ、それを教えるには王宮の機密情報も含まれていてな。教えてやりたいんだが…」


「んんっ!!」


 神崎会長が大きく喉を鳴らした。それに青年は苦笑いで返した。


「とまあ、教えられないんだ。信じてくれるか?」


 本人は良いと思っていても周りが許さないのだらう。


 響も機密情報と言われてこれ以上の追求は避けたようだ。


「こんな力見せられたら信じるしかないですけどね」


 響が周りを見渡して言った。


「僕も信じます。あの時助けていただきましたし」

 ロイド陛下の目を見てそう言うと、陛下は満足そうに頷いた。


「それでだ。ここからが本題なんだが」


 陛下が真剣な顔つきになったためこの場に緊張が走る。


「蓮から説明があったように、三空くんには疑いがかけられている」


 僕には重要規律違反者と通じてるという疑惑がかけられているらしい。だが全くの無実である。


「修はそんなことしません!」


 響が僕を庇って主張した。


「分かっているさ。俺もそう思っているが、大勢にかけられた疑いを晴らすには証拠が必要なんだ」


 どうやら陛下も僕を信じてくれているらしい。


 しかし逆に進王陛下の口添えがあってもこの疑惑は晴れないということ。王宮は一枚岩ではないのだろう。


「どんな証拠を示せばいいんでしょうか?」


「記憶だ」

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