14.再会

 翌日-

「よし!これでエントリー完了だな!」

「うん。とりあえず教室戻ろうか」


 僕と響は早速、『学園対抗戦』の予戦にエントリーした。


 そもそも『学園対抗戦』とは、国内の全ての学園が集い、それぞれの学園から選抜された生徒が実力を競い合う大会らしい。そしてその生徒達を選抜を行うのが予戦である。


「これからどうする?普通に戦闘訓練でいいのかな?」


 僕はこの大会に関して全くの無知であるためそこそこ見識の深そうな響に判断を委ねたいところだ。


「さっき貰った予戦要項によると………予戦は二体二で普通に戦うみたいだな。戦闘訓練は欠かさないとして……やっぱ二人で戦うんだから作戦を立てたいよな!」


 響はキラキラ輝いた瞳でそう言った。大会を誰よりも楽しみにしているといった様子

だ。


「作戦か……作戦を立てるならお互いに役割を決めた方が良いと思う。普通に考えたら響が前衛で僕が後衛だと思うんだけど…どうかな?」


 響はあの神崎会長と互角に戦えるほどの実力者。対して僕は使える魔法が『空間魔法』のみで攻撃手段が無い。それを踏まえてそう提案した。


「俺もそれが良いと思うけど…そういえば前に桐山の野郎をぶっ飛ばした時に使った魔法はまだ使えそうにないのか?」


 <空間掌握スペースグラスプ>か……。


 空間を自らの手中に収め、意のままに操る魔法。


「あの時以来、何度か試しているんだけど一向に使える気配がないんだよね」


「その魔法が使えたら修だって十分前線で戦えると思うんだけどなー」


 響は真剣な表情で考え込んでいる。


 そんな会話をしていればいつの間にか教室の前まで着いてしまった。


 しかし扉の近くには見覚えのある人物が立っていた。その人物は誰かを待っているといった様子だった。


「やあ、調子はどうだい?」


 こちらに気づくなりその人物はゆるりと近寄って来た。


「こんなところで何をしているんですか?神崎会長」


 響は目の前の人物、この学園の生徒会長たる神崎蓮先輩に向かいそう言った。

 彼は先程まで通りかかる生徒に注目されながらもずっとここで立ち尽くしていたのだ。


「誰かに用があるなら呼んで来ましょうか?」


 響も神崎会長が誰かを待っていると思ったようだ。


「いや用のある人物はちょうど現れたから大丈夫だ。ありがとう」

 神崎会長は響に手を降って礼を言いながらも視線を僕に向けていた。


 ん?……僕?

 辺りを見回しても近くには誰も居らず、神崎会長の目は依然こちらを見ていた。


「それって……僕ですか?」


 恐る恐るそう聞いた。


「そうだね」


 即答だった。


 どうして響ではなく僕なんだ!?なにか悪いことをしてしまったのか!?


 思考を加速し、記憶を遡るが思い当たる節は無かった。


「そう身構えないでくれ、君に直接関係あることではないから」


 僕の様子を見てか、神崎会長はハハッと笑った。


「では一体…」


 神崎会長の先程まで穏やかだった表情が真剣な物へと変わった。


「三空君。単刀直入に聞くが……昨日、何か変わったことは無かったかい?」


 昨日といえば響と神崎会長の『決闘』……


「あっ」

 ふと思い出したことがあった。


「二人の戦ってる最中に怪しい運動場の入場口付近に怪しい人影がありました」


「それであそこに来たんだね」


 気づいていたのか。響は気づいていなかったため、てっきり神崎会長もそうだと思っていた。


「その人物の特徴を教えてくれるかな?」


 僕はあの時見た人に関して包み隠さず話した。


「それと、僕が向かっている途中にはすれ違いませんでした」


 そう伝えると神崎会長の言葉が詰まった。


「……すれ違うも何も、あの人物は君がやって来た時も真横に居たんだけどね」


 一瞬言葉の意味が理解できなかった。


 それはつまり僕はすぐ横にいる人間に気づかなかったということなのか?


「それは…本当ですか?」

 恐る恐る聞いた。

「ああ」

 神崎会長は静かにそう答えた。


「それでだ。ここからが本題なんだが……ローブの男は重要規律違反者ということで既に王宮によって捕縛されているのだが、その男と君の接触が確認された……」


 神崎会長の言葉はそこで止まり、後は分かるだろうという視線をこちらに送ってくる。


「ちょっと待ってください」


 僕よりも先に響が反応した。


「つまり修が疑われているってことですか!?」


 言葉と表情には明らかに怒りの感情が込められていた。


「落ち着くんだ。確かに疑われていることは事実だ。……君が犯罪者の協力者、或いは、ってね」


 響の表情が更に険しくなったが、制止されたため様子を伺っているようだ。


「だが先程の君の話を聞いて、その可能性は限りなく零に近いと俺は判断した。とは言え俺一人の憶断的な意見ではこの疑いを晴らすことができない。そこで……」


 言葉が止まったと同時に数人の生徒が僕らの横を通り過ぎて行った。


 神崎会長は生徒達が遠ざかったことを確認して再び口を開いた。これから言うことはかなり内密的な話のようだ。


「会って欲しい……いや、会いたいと仰る方がいるんだ」


 予想とは少し違った。


 話の流れ的にその人の力があれば僕の疑いも晴らせるようだけど……


 会いたい?僕に?


 言い方からしてかなり目上の人のようだが、そんな人がどうして僕に?


「あ、あの、その人と僕にどんな関係が…」


「何、会えば分かるさ。じゃあ行こうか」


 そう言って彼は先導するように前に出た。


「い、今からですか!?」


 思わず声を上げる。そして神崎会長の足が止まった。


「あの方に会えばどんな疑いも晴らしてくださるさ」


「胡散くせえ…」


 響が静かに呟いた。


「あ、あのこれから授業が…」


 神崎会長は息を吐いた。


「悪いがこれはどんな事よりも優先しなければならない事だ。さあ来てくれ」


 これと言うのは僕の疑いを晴らすことか或いは"あの方"と言われる人物が会いたいと言っていることか…


 僕は一度、響と目を合わせた。

 覚悟を決めてお互いに頷き合う。


 僕と響が歩き出す瞬間、周囲の空気に漂う魔素が揺れた。


 僕と響は足を止め、様子を伺う。


 なんだが不思議な感覚だ。前にも何処かで感じたことがあるような……


 神崎会長もそれに気づいているようで足を止めていた。


 瞬間、神崎会長はこちらを振り返ると焦燥した様子で駆けて来るや否や跪いた。


「なにが…か、会長!?」


 横を見れば響と目が合う。


 彼も状況を理解できていないようだ。


いや、僕は少しだけ気づいていた、いや知っていた。この感覚を。


「悪いな」


 突然、背後から声がした。


 僕と響は驚きの余り飛び退いた。


 何しろ声がするまで全く気配を感じなかったのだ。


 ようやく声のした方を見ると、そこに居たのは……


「悪い、学生は授業があるんだったな」


 空間は静寂そのものだった。


「貴方は…」


 音のない空間に二人の人間の言葉が響く。


「ああ、また会ったな」


 そこに居たのは、以前あの不思議な空間で出会った青年だった。

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