12.相棒

「そ、そうだったのか」

 響があの時の少年がだったなんて……。


「入学式の日、お前に会ったあの瞬間、一目で分かったんだ。あの時助けてくれた人だって」

 僕なんて全くわからなかった……。


「黙っていて悪かったな」

「そんなことないよっ」


 先程まで空を見上げていた響だが、気づけば膝に肘をついて俯いていた。


「勇気が出なかったんだ。俺はお前に恩を返す…いや、今度は俺がお前を助けるために強くなった」


 そう言いながら僕の目に映る響は何処か悔しいといった表情だった。


「だけどこの事を話したら……お前は自分を責めると思った。そしてそれは嫌だった」

 実際その通りだった。


 響が僕のために強くなって、僕のために大事な大会を諦めるなんて、どれも僕が弱いからだと思った。そして今までこうして響に気を遣わせていたことに気づかなかったこと。それを知って益々自分が嫌になる。


「…………今日、お前が俺に言ったこと覚えているか?」


 それはおそらく、神崎会長との闘いの前に言った言葉。そうだ、この責任を取るために僕は響の力にならなければいけない……ということか?


「すぅーはあー」


 僕が少しばかり戸惑っていると突然響が深呼吸を始めた。そしてこちら向いた響の表情は真剣ではあるものの深刻ではなかった。


「頼みがある」

「うん」


 響のことだからなんとなく予想はできた。

 こんな風に回りくどい言い方をするのは、できるだけ僕に負い目を感じさせないためだろう。

 彼はどこまでも優しいんだ。


 一瞬の間である。


 しかし感じた時の流れは驚くほどに緩やかであった。

 紡がれたその言葉は、ハッキリと届いた。

 響の頼み、それは……



「俺にお前を助けさせろ」


 彼は変わらず真剣な表情だった。


 そんな彼からの頼み。頼む相手である僕を助けたいというもの。


 普通なら何を言っているんだと一蹴されるかもしれない。


 だが僕は彼を助けたいと言った。そんな言葉を響は逆手に取った。


 響を助けるために僕が助けられる。

 僕と響の、互いを助けたいという対照的な願いは交差するが矛盾はしない。


 そんな事を考えながらも答えはすでに決まっている。そう決めた言い訳もある。


 だが言葉紡ぐのには少しばかり勇気が必要だった。


「ふぅ……」

 小さくも深い呼吸を挟む。

 覚悟は決めた。


「その頼み、喜んで受けさせてもらうよ」

 彼の目を見てハッキリと伝えた。


 今まで迷惑をかけていると思っていた。彼の時間を奪っていると。

 でも少し違った。


 彼が僕のために費やした時間は紛れもなく彼の意思であった。ただ恩を返すためではない。友達として手を引くために。


 僕はその優しさを無下にするようなことはしたくない…………。


 ここまでが言い訳だ。

 本当は楽しそうだったから。彼と過ごす時間が想像するだけでワクワクした。

 そのために彼の優しさに甘えることにした。



 改めて彼と向き合った。響はなんだか安堵の表情だった。

「これで断られたらどうしようか思ったぜ」


 ふうと息を吐いてそう言った。


「じゃあまずは対抗戦の予戦ってことでいいのかな?」


「ああ!改めてよろしく頼むぜ相棒!」


 響はそう言って拳を突き出した。


「あ、相棒ってのはなんか恥ずかしいな…」

「いいだろ!ほらっ」


 そう言って彼は拳を強調した。

「じゃあよろしくね」

 二つの拳が合わせられる。

「おう!」


 この日、僕は初めて学園生活が楽しみになった。あの生徒会長と互角に渡り合った人と一緒に戦うことが未だに信じられない。

 僕も彼に見合うくらいに強くならなければ…。


 強くなることに今まであやふやだったものが明確になった。

 僕は彼の隣に立てるように強くなる!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る