11.一筋の光
八年前……………………
ごく普通の家庭で生まれ育った少年、響・シャムロックは魔法属性の中でも珍しい『光魔法』を持っていることが分かり、彼の周りから期待が寄せられていた。
「母さん、今日も行ってくる!」
「遅くならないようにね。それとくれぐれも気をつけるのよ」
「分かってるって!」
少年はそう言っていつもの場所へ向かう。
「よしっ!手始めに……はっ!!」
少年はまだ不安定な魔弾を廃墟の外壁に撃ち込む。ここは以前は貴族が住んでいたが、その貴族は衰亡し、今は巨大な空き地として使われるようになっている。
響は魔法を使えるようになってから、毎日のようにここで魔法の練習をしていた。
「まだまだだな………それにしても…」
いつもは遊びに来た子ども達とその保護者、一休みする大人がいて近辺の公園よりよっぽど賑わっていたが、ここ数日は響以外の人影はなかった。
「まあいっか!」
再び魔弾を廃墟に放つ。
ドゴオン
外壁の一部が崩れ落ちる。
「おっ!今のは上手くできたぞ!」
物静かな空間に少年の独り言が響く。
「よしよし、この調子で…」
「おいこらっ!!」
少年は突然の怒声に驚いて足を滑らせる。
声の方を見れば、見るからに素行の悪い連中が寄ってきていた。
「なんだよ、あんたたち」
響は彼らの圧に屈さずに面と向かって言い返した。
「おいクソガキ、人ん家に魔弾なんか当ててんじゃねえよ」
連中のリーダーらしき男がそう言った。
「人ん家?ここは誰も住んでない廃墟だろ?」
響はそう言いながらもなんとなく状況を察していた。
「あぁ?この屋敷は俺らのものになったんだよ」
響の想像している通りだった。
ここ最近、人気がなかったのは彼らがやってきたからだろう。
「なあぼくちゃん、人に迷惑をかけたらどうするかわかるかなぁ?」
続いて取り巻きの男が言った。
「迷惑かけたなら謝るよ」
響は不満ではあったが、それ以上に厄介事を避けるために素直に謝ることにした。
「謝るだけじゃねえだろうな?」
「他に何を?」
響は首をかしげた。
「…チッ、金だよ、金。慰謝料だよ、分かんねぇのかよ」
痺れを切らしたリーダーが声を上げた。
「悪いけどお金は持ってないんだ」
再び臆せずに答える響。だが彼らにはその態度が気に食わなかった。
「おい…着れてこい」
リーダーが屋敷の方へ踵を返した。それに響は危険を察知する。
「お、俺もう帰ら…」
ドンッ
後ずさりをした響は背後に回り込んでいた男に気づかなかった。
「さあ、行こうかクソガキ」
気づけば男たちに包囲されていた。
「くっ!!」
響は為す術もなく廃墟の中へと連れて行かれてしまった。
あの時の俺は無力そのものだった。
彼らの癇に障ってしまった俺は、教育と称してひたすらに痛めつけられた。悔しいが抵抗するだけ無駄だということは分かった。
「なめてんじゃねーぞクソガキが!!おらっ!」
男達は苛立ちを全てぶつけるように暴行を続けた。
「なんだぁ?言葉もでねぇか?」
俺は冷静だった。抵抗するよりも彼らが飽きるのを待つほうが早いと判断し、沈黙を貫いた。
「オラァ!!なんか言ってみろや!!」
いくら冷静とは言え、痛いものは痛い。今までに味わったことのない苦痛だった。
そう思っているとふと暴行が止んだ。顔を上げると今まで静観していたリーダーが寄って来ていた。
「なあクソガキ。お前、このまま何もしなければ俺たちが飽きると思ってるんだろ」
どうやら俺の狙いはばれているようだ。
「俺はな、お前のその舐めた態度が心底腹立つんだよっ!」
「っう!!!」
腹部に強烈な蹴りが入れられる。故意ではなく、痛みに悶絶して言葉がでない。
追撃というばかりに何度も蹴りが撃ち込まれる。
次第に意識が朦朧としてくる。
「はっ!そういう顔が見たかったんだよ」
奴は再び脚を振り上げる。俺は歯を食いしばった……が何も起こらなかった。
視線だけ向ければ、手下の男がリーダーに何やら耳打ちをしている。
「チッ、こんな時に……おいっ、ガキは向こうの部屋に突っ込んどけ」
そう言い彼らは次々とこの部屋を後にした。
「大人しくしてろよ」
手下の男に運ばれ窓一つない密閉された部屋へ放り込まれる。扉が閉められ、鍵のかかる音がする。部屋は完全に暗闇になった。
ドオオン!!
少しして外から轟音が響いてきた。
一体何事だろう。今がチャンスなのは間違いないが、残念ながらもう身体に力が入らない。
ここで再び彼らが戻ってくるのを待つしかないのか。
ごく普通の家に生まれた俺はごく普通の生活を送って一生を過ごすのだと思っていた。こんな苦痛を味わうなんて思ってもみなかった。これからどうなるのだろうか。
少し耐えれば家に帰れると思っていた。だが彼らにそれを許す様子はなかった。
考えれば考えるほど不安や恐怖が押し寄せてきた。
ドオオン!!ドゴオオン!!
轟音が激しさを増す。どうやら外では戦闘が行われているらしい。
……………………?
なんだ?
暗闇に染まった部屋に突如一筋の光が差し込んだ。
トンッ
誰かが俺の前に降り立った?
なんとか身体を起こすと目の前には一人の少年がいた。歳は同じくらいだろうか。頭上には空間に穴が開いている。なんにせよ奴らの仲間には見えない。
「き…み…」
彼は途端に手を俺の口に当てながら扉の方を見る。どうやら扉の外に見張りがいる可能性を警戒しているようだ。
そしてその少年に身体を支えられて空間の穴に入った。
気づけば廃墟の裏手にいた。
「大丈夫だった!?」
先程まで言葉一つ放たなかった少年が一転して声を上げた。
そして簡単な回復魔法をかけてくれた。
「ごめんね、僕にはこれくらいしかできなくて」
彼の使った回復魔法では傷は治らずとも、かなり楽になった。
「うん…大丈夫。それより君は…」
「君が連れて行かれるところにちょうど通りかかってさ。とりあえずここから離れよう」
ここは廃墟の裏手。奴らに見つかる前に逃げるべきだろう。
俺たちは国の騎士団の役所へと避難した。
大人たちに事情を話すと直ぐに理解してもらえた。どうやら例の廃墟では不良グループの縄張り争いが起きているらしく、すでに鎮圧に向かっているらしい。
(さっきの轟音はそういうことか)
俺は治療を終えて、外で待つ少年のもとへ向かった。
「今日は助けて頂いて本当にありがとうございます!!」
深々と頭を下げる。今日のことは彼に感謝してもしきれない。
「お礼を言われることじゃないよ。本当なら君が連れて行かれるときに助けるべきだったけど、僕には見ていることしかできなかった…」
彼は申し訳ないといった表情だ。
「そんなこと…」
「現に君はあんなにも傷を負った。自分の無力さが嫌になるよ」
彼は暗い顔を見せた後に笑ってごまかした。
「そんなことないです!!」
突然大きな声をだした事に彼は驚いた様子だ。
「足を踏み入れれば自分だって助かるかわからないのに…あなたはそんな危険を顧みず助けに来てくれた。無力なんかじゃない…あなたは絶望しかなかった俺に希望を与えてくれた、俺にとっての光でした!!」
彼はずっと驚いた様子だ。
「……初めてそんなこと言われたよ」
ゴーンゴーン
夕刻を示す鐘が響き渡る。
「あっごめん!僕もう行かないといけないんだ」
彼は鐘の音を聴くなり突然焦りだした。
「最後にこれだけ言わせて…今日君に会えて良かった。さっきの言葉、本当に嬉しかったよ」
そう言うと彼は足早に行ってしまった。
「………あっ、名前…」
名前を聞くのを忘れていた。
思えばここらでは見かけない人だった。
「また会えるかな…」
思っていたことがつい言葉に出てしまう。
もし彼に再会することがあれば、今度は俺が助ける。
そのためにもっと強くなる。
この時から俺は誰よりも強くなることを心に決めた。
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