10.響の真意
運動場の入場口に着くと同時に一際大きな歓声が会場を包んでいた。
その中心では響が治療を受けている。様子を見るに勝ったのは神崎会長のようだ。
しかし……。
さっきいた怪しい人物の姿がどこにもない。今のところ問題が起きた様子もないし、僕の考えすぎだったのだろうか。
ひとまず元いた場所へ戻ることにした。
「治療は終わりました。今日一日安静にしてれば明日には良くなると思いますよ」
俺を治療した教師はそう言って立ち去った。
「さて、分かっているかな?」
目の前に立つ男、神崎が含みを持たせて俺に問う。これは『決闘』だ。敗者は勝者の提示した条件を呑まなければならない。
「あんたが勝者で俺は敗者。そんだけだ」
俺の言葉を聞き奴はニヤリと笑った。
「ふっ、はっはっはっは!」
なんだコイツ。今までとはまるで別人みたいに笑い出した。勝負が終わって帰ろうとする生徒達も様子が気になるのか、しばしば足を止めているようだ。
「いやーすまなかったね。君に本気を出してほしかったんだ。今までの非礼を詫びるよ」
その言葉を理解するのには時間がかかった。
「どうゆうことだ?」
「そうだね……端的に言うと今回の俺の目的は予戦で君と組むことじゃない。だから、勝ったのは俺だけど俺が出した条件は無しだ」
「なぜ……こんなことを?」
この人の真の目的は一体……。
「詳しくは言えなくてね。気にすることはない、君は俺なんかより"彼"と組みたい…というより組まなければならないんだろう?」
どうやら俺の目的はバレていたらしい。
「……知ってたんですか」
「ただの予想さ」
だが俺は負けた。こんな俺が頼んでも"アイツ"の答えは変わらないだろうな……。
「大丈夫さ。君の目的を話せば絶対ね」
顔に不安が出てたか。だがその言葉に不安は払拭されていく。
「全く、あなたの言葉は最初から刺さるものがありますね」
神崎会長はふっ、と小さく笑った。
「良い顔だ。さあ、行きたまえ」
俺は頷き、修のところへ向かうことにした。
僕は運動場から出ていく生徒達の流れを上手く抜けて、響が通るであろう入り口付近で待つことにした。
これは彼に取ってとても大きな戦いだっただろう。事の直前、彼は迷いを晴らし、覚悟を決めてこの戦いに挑んだ。勝敗は関係ない。
戦いから帰還した戦士に直接エールを送りたい。落ち込んでいれば非力ながらも支えてあげたい。とにかく今は彼と話したい。そんな気持ちだった。
「おーい!修ー!」
落ち込んでいる心配はいらなかったようだ。大きな声にそこにいた生徒達も響に気づいたようだ。
そして忽ち囲まれている。響と話すにはもう少し時間がかかりそうだ。……と思っていたが。
「わりぃ!ちょっとどいてくれ!」
そう言って無理矢理人混みを抜けて来た。
「みんな君と話したいみたいだよ?」
僕は生徒達の方へ目を向けたが、全員と目が合って慌てて逸らした。
「俺はおまえと話したい!」
なんだかその言葉はとても嬉しかった。
その後、僕たちは打ち上げと称して少し高い店で夕飯を食べることになった。
「あの時は結構焦ってよ…てか美味えなこれ!」
料理を食べながらも会話は弾んだ。
「そういえば、運動場の入場口辺りに怪しい人いなかった?」
「ん?怪しいやつ?いや、見てないな。そんなやついたのか?」
どうやら響は気づいていなかったらしい。
僕の見間違いだったのだろうか。
食事を終え、僕たちは寮への帰路へ着いた。
「なあ、ちょっと休んでいかないか?」
響が道端のベンチを指差して言った。ちょうど二人掛けのものだ。先程から元気な様子だったが、身体はそうではないのだろう。
「大丈夫?疲れてるなら僕の魔法で寮まで行けるよ?」
空間魔法を使えば寮まで一瞬である。
「いや、夜風に当たりたいんだ」
確かに時折肌を撫でるそよ風がとても心地よい。
僕たちは拳一つ分の距離を空けてベンチに腰を降ろした。
夜更けに外で過ごすことは殆ど無かったのでとても新鮮な気分だった。
「そういえばよ、俺が神崎会長と予戦に出るってやつは無くなったんだ」
二人は対抗戦の予戦のパートナーを懸けて闘っていた。
「別の条件になったということ?」
「いや何もないぜ。どういうわけか神崎会長の目的は俺と本気で闘うことだったらしいぜ」
そのために響を煽っていたということか。
だが何のために……?
「っ…」
「なあ修」
僕が言葉を返す前に再び響が口を開いた。
響の方に目を向けると、彼は夜空を見つめたままだった。
「俺はさ、お前には楽しく学園生活を送って欲しいんだ」
急な話で言葉に詰まった。
「えっと……僕は今でも充分楽しいよ?」
「いつも俺がお前と話している時に向けられる視線……俺は許せないんだ。"あいつら"がお前に向ける視線。お前のことを何処か見下している言葉」
返す言葉がすぐには出て来なかった。"あいつら"とは今まで会ってきた学園の生徒全てだろう。僕に対してこんなにも友好的なのは響だけしかいなかった。
「だからさ……お前が対抗戦で活躍すれば見返せると思ったんだ」
それで僕を誘ったのか。いやしかし……
「ど、どうして、君はそんなに僕の事を……」
思い返してみれば、響は毎日僕に話しかけてくれた。そしてどんなに小さな差別からも僕を退けようとしてくれた。とても優しい人なのだと、僕の唯一の友人であるから気を遣ってくれているのだと。そう思っていた。
「修、お前と話すのは学園が最初じゃないんだぜ?」
それはつまりこの学園に入る前に僕は響と出会っていたということだろうか。
「…………あっもしかして」
僕が学園に入るまで家族以外の交流がほとんど無かったため、記憶を遡るのに時間はかからなかった。
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