9.決着

 会場は歓声で埋め尽くされていた。

 事情を知らない人が見たら一年に一度の大イベントでもやってるのかと思われるだろう。

 それほどまでに二人の戦いは白熱したものだった。


 ここで彼らの動きが止まった。互いに次の一手の読み合いをしているようだ。

 正直、響がここまで強いとは思っていなかった。途中の神崎会長の魔法を避けた動きは目で追うことができなかった。

 一方、神崎会長は攻撃は当たってはいないものの、間違いなく響の動きを捉えていた。

 これが本物の強者……。驚愕と同時に彼らと僕の差を痛感させられる。


 どちらが勝ってもおかしくない。そう思える一連の攻防。だがここで一つの違和感に気づいた。

 神崎会長は恐らくこの学園で屈指の実力者だろう。そして彼と渡り合う響もまた然り。


 この二人が予戦で組む必要はあったのだろうか?


 今にして思えば疑問だった。たしか予戦を突破できるのは上位八組。神崎先輩なら誰と組んでも予戦くらい難なく突破できるのではないだろうか?

 ここまで響に固執するのは何故だろうか。

「………なんだ?あの人…」

 頭を悩ませながら会場を俯瞰していると、妙な人物がいることに気づいた。その人物は黒いローブを纏い、運動場に入場する通路に佇んでいる。如何にも怪しい人物であるのに今のいままで気づかなかった。そして僕以外にあの人物に気づいたら様子はない。

 嫌な予感がする。

 僕は観客席を抜けその場所へ向かうことにした。




 さて、ここからどうするか………。

 俺は奴との間合いを慎重にはかる。

 このまま攻撃と回避の度に<光化エドラム>を使い続ければすぐに魔力切れだ。

 それにしてもアイツの魔法はなんだ?

 あれだけ大規模に魔法を展開しておいて魔力が切れる気配がまるでない。奴の魔力が途方もなく多いか、或いはあの魔法の燃費がとんでもなくいいか、だな。

「俺の魔法が気になるようだね」

 俺の考えてることは筒抜けか。

「教えてあげようか?俺の魔法属性」

 奴は余裕の表情でそう言う。

「遠慮しておきます…よっ!!」

 ムカついたので断ると同時に地を蹴った。

 このままジリジリやっても待ってるのは敗北だけ…。そして<光化エドラム>の特性はまだバレてない。なら今が攻め時!!


「<光化エドラム>!!」

 奴が魔法を展開する前に最短最速で接近する。

 奴を倒す策はイメージできた。だがこれを確実なものにするには奴の本気を見る必要がある。

 まずは俺の全速を以って奴の全力を引き出す!!

 俺は奴の眼前に迫った瞬間、軌道を曲げ、背後に回る。

「っ!!」

 ガキンッ!

 二つの剣が弾き合う。

 流石に対応されるか。だが俺は止まらない。

 今度は奴の左方に回り剣を振り下ろす。

 ガキンッ!!

 再び防がれる。

 まだだ。

 <光化エドラム>を行使中、俺の機動は自在である。

「くっ…!!流石に速いね」

 今俺は神崎の周りを光速で縦横無尽に旋回し、攻撃を叩き込んでいる。

 剣と剣の衝突音が無数に鳴り響く。

 徐々に俺の攻撃が奴の体を掠め始める。それに伴い奴の表情に険しさが増す。

「はあっ!!」

 遂に俺の攻撃が神崎の防御の一手先を行く。

「ふっ!!」

 再び二つの剣が弾き合う。

 やっと全力を出したようだ。

 俺の動きが一瞬止まった隙を突いて、奴は魔法陣を描く。あれは<大地の怒りヴォルカ>ではない、新たな魔法だ。

「させるか…よっ!!」

 魔法が発動するよりさらに速く追撃する。

 魔法陣が消滅した……が何も起こらない。今の追撃に魔法を中断せざるを得なかったか。

 ここが好機だと直感が告げる。神崎は魔法を無理矢理行使しようとしたため、動きが鈍り、次の行動が僅かに遅れる。

 俺は剣を振り上げる。側から見たら隙だらけだろう。防御をする気が一切ない、捨て身の一撃。

「くっ!!」

 俺の動きは紛うことなく光速である。この攻撃が誘いか否か、奴に判断する時間はない。

 刹那、俺は敢えて動きを止めた。


 ザッ

 神崎の剣が俺の体を貫く。しかし血は一滴たりとも落ちていない。

 <光化エドラム>は光速で動く魔法ではない。身体を光に変える魔法であり、その身体は魔法以外の物質を貫通する。

 そして今、神崎が攻撃をしきったこの瞬間、奴の防御は間に合わない。

「はあっ!!」

 完璧なタイミングで剣を振り下ろす。



 会場にいる誰もが響の勝利だと思った。


 ドオオン


 一本の雷が天より降り注ぎ、響の体を貫く。

 そのまま響の体は地面に叩き付けられる。

「………危なかったね」

 その雷を起こした本人が言う。

「しょ、勝者、神崎蓮!!」

 勝敗が決まった。

 数瞬遅れて歓声が巻き上がる。

「<光化エドラム>は魔法以外の物資は貫通する。逆を言えば、魔法ならその特性を無視できる」

「………さっきの魔法か」

 神崎が最後に行使した魔法。中断されたかのように思えたその魔法は正常に発動していたのだ。

 響は立ち合い人の教師に治療を受けながら神崎に問う。

「<光化エドラム>の特性に気づいていたのか……?」

 神崎はゆるりと響に歩み寄りながら答える。

「気づいていたも何も…君、最初から<大地の怒りヴォルカ>は避けていたじゃないか」

 響は悔しさを大地に拳を叩きつける。

「答え合わせをしよう。どの道いつかは知ることになると思うし。俺の魔法は『炎魔法』でも『雷魔法』でもなく………」

 神崎が響の正面で足を止める。


「『自然魔法』だよ」

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