7.決断

「なにー!?」


 昼休み、中庭で響の声が響き渡る。


「この学園に入っておいて『学園対抗戦』を知らないやつがいるとはな」


「昔から人と話す機会がなかったからかな…名前くらいは聞いたことがあるんだけどね…あはは」


 僕は苦笑いをして誤魔化す。ここ何年かは家の敷地から出ることは殆どなかったからなぁ。


「『学園対抗戦』はな、全国の学園が競い合う一年に一度のビッグイベントってやつだ!」


「なるほど…。その予戦がこれから始まるわけか」


「そういうことだ!というわけで…」

 なんだ?響が改まった表情で立ち上がる。


「修!俺と組もうぜ!」


 ………………。一瞬言葉の意味が分からなかった。


「な、なんで僕なんかと!?絶対僕と組むより他の人とかと組んだ方が良いって!!」


 絶対にそうだ。『学園対抗戦』とは即ち戦いの場。攻撃魔法を使えない僕なんかが出たら足を引っ張るに決まっている。


「なんでって予戦で勝てばお前は…」


「君、響・シャムロック君だよね?」


 背後から声を掛けられる。僕達が振り返ると見覚えのある青年がいた。見覚えはあるのだが誰だったか思い出せない。どうやら響の事を知っているらしい。


「誰だ…ってあんたは確か…」


「俺は四回生の神崎蓮かんざき れん。この学園で生徒会長をやっていると言えば思い出してくれたかな?」


 思い出した。入学式で壇上で喋っていた人だ。それにしても生徒会長が響に何の用だろうか。


「長く喋ってると昼休みが終わってしまいそうだから単刀直入に言わせてもらうが…

今回の対抗戦の予戦、俺と組んでくれないか?」


「断る」


 即断だった。


「なぜだい?」


「悪いな会長。俺はもう組みたいやつがいるんでね」


 そう言って響は僕に目をやる。それから神崎会長と初めて目が合う。


「君は……初めましてかな?」


「初めまして。響と同じクラスの三空です」


「ふむ…」


 彼はしばらく僕を見つめる。まるで値踏みをするような視線だ。確かに自分より相応しいと思われた人間がどんなものかは気になるか…。だが僕としては…


「響、せっかく会長が誘ってくれてるんだ。僕なんかより絶対良いって」


「ふむ…彼はこう言ってるようだが?」


「修〜そんなこと言わずに頼むよお〜」


 キーンコーンカーンコーン


「とりあえず今日のところは退くとしようか……だけど俺は諦めないよ」


 神崎会長はそう言い残して行ってしまった。

「………とりあえず教室に戻ろうか」


「おう、俺もお前のこと諦めないからな!」




 翌日、教室に入るなり響が生徒達に囲まれていた。


「響くん、神崎会長のお誘い断ったの!?」


「だから何度も言ってるだろぉ?」


 響の様子を見るに、もう何度も同じことを聞かれているようだった。昨日のことを誰かが見てて広まったのか?


「会長とお前が組めば優勝間違いなかっただろ!」


「だから俺にはもう決めた…よお!修!」


 響は僕が来たことに気づき、人混みから抜けて駆け寄ってきた。


「それで、考えてくれたか?」


 昨日はあの後何度も誘われたが答えを出せずに保留になっていた。正直、響と出場できるならしてみたい気持ちもある。


 だけど………

 少しの沈黙。先程まで響を囲んでいた生徒達がチラチラこちらを見ながら話している。


「なんで響くんは三空くんなんかと組みたいんだろうね」

「あいつ攻撃魔法どころか魔弾も使えないんだろ?」

「そんな奴が戦えるとは思えねえー」


 細かくは聞こえなかったが大体何を言ってるかは分かる。そして響にもこの会話は聞こえていただろう。


「まあというわけだ…。僕に君と組む資格はないよ」


「……そんなことは……わかったよ」


 納得して貰えたようだ。響は僕よりも神崎会長と組む方が間違いなく勝てる。そして響と組んで足を引っ張ったりでもしてみれば周りからの侮蔑がより強まる。


 響のためだけではない。

 僕と響、お互いのための決断。そのことに響は分かってくれたようだ。

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