5.自由な魔法
……不思議な体験だった。
さっきまで僕をなぶっていた男はぴくりとも動かない。対して僕と向こうに座り込んでいる青年だけはこの"空間"で自由を許されていた。
「どうするって……もう魔力も残ってないし…」
「魔力ってのは人の中にあるわけじゃないぞ。植物や動物、空気にだって存在している」
周囲の魔力を利用する…?
まさか魔法の『詠唱発動』-魔法呪文の詠唱行うことで周囲の魔力が共鳴しそれを利用して魔法を発動することができる-ということか…。
魔法が使えたからといってどうする?
<
いやブローチを取り返すためには今この場で桐山を倒さなければならない。
「ふむ…もう一つ助言をしよう。お前の
自由に………
「…………っ!!」
修が気がついた時にはそこに居た青年が消えていた。まるで最初からいなかったかのように。
「おいっ聞いてんのかよっ!」
再び世界が動き出す。
「………わかった。
修は残された体力を振り絞り立ち上がる。
「ふんっ!流石に諦めたみたいだな。ほら、さっさとこいつに調印しろ!」
桐生が契約魔法の魔法陣を突き付ける。これに調印したが最後、修は彼に逆らうことは一切できない。
(…ここだ)
「『狭間の理、世界の穿孔、我が存在は無条の内界』」
「なにぶつぶつ言ってん…てめぇ!! 」
魔法陣の陰になっていたことで桐生は詠唱に気づくのが遅れる。
「<
空間の主導者が決まる。
「おい!こいつがどうなっても……なに!?」
桐山はブローチを破壊しようとするが彼の手からそれは消えていた。確かに桐山の手中にあったそれは時を刻むことなく修の元へと戻っていた。
修は返ってきたブローチに傷などがないか確認する。
「ふっふざけんなあ!!」
桐山が激昂し魔法陣を描く……が何も起こらない。
「ど、どうなってんだ!?」
何度も魔法の発動を試みるが結果は同じ。
今、この時に限り、修はこの空間を完全に掌握している。物体の位置、大気の動き、魔力の働きでさえ修の意のままである。
「さっきのやつ、痛かったから…その分きっちり返すよ」
修が拳を引く。
「ひいっ」
桐山の動きを制限するまでもなくこの一撃を避けることはできない。
空間を歪ませた一撃。
突き出された拳は距離という概念を無視し、すでに対象に命中している。さらに加速する距離がなかったにも関わらず、その拳には途方もないエネルギーが込められている。拳を振りかぶってから突き出す動作、本来行われるはずの動きの省略により発生したエネルギーは通常の打撃を遥かに凌駕するほど増幅していた。
「ドブァッああ!!」
距離を超越した拳が胴の中心へ炸裂する。
ドゴンッ!!
桐山は壁に打ちのめされ、崩れ落ちるが、意識はまだあるようだ。
「くっ……こ…の…」
「この…魔法を維持するのは結構大変…で…ね。一撃で決めさせて貰ったよ」
修は<
「こ…れに…懲…たら…二度…」
修は<
僕は意識が朦朧とする中、とりあえずこの部屋を出ようと扉へ向かう。扉には鍵がかかっていたが内側だったためすぐに開けることができた。
「ふぅ……」
廊下から窓の外を見るとすでに日が暮れ始めていた。ひとまずどこかで休みた……
ドンッ!!
背中を強打され、そのまま倒れ込んだ。
「逃げ…てん…じゃ…ねえ」
後方から桐山の声がする。どうやら魔弾か何かに撃たれたらしい。
体に力が入らない。限界もいいところだ。
「はあ…はあ…」
荒い呼吸音がゆっくりと迫って来る。
「もう…いい…………死ね」
背後で魔法が展開されているのが分かる。
ここまでか……。
グサッ
鮮血が飛ぶ。
「ぐっ……あぁ…」
痛みに苦しむその声は僕のものではなく、魔法を構えた桐生本人の声だった。
「修っ!!大丈夫かっ!!」
廊下の先を見るとそこには焦燥した響がいた。
「ひ…びき…」
駆け寄ってきた響に体を起こされる。
桐山は…?
振り返ると光の剣に肩を貫かれた桐山が倒れていた。響の魔法だろう。
「ふぅ…間一髪だったぜ」
響は安堵の溜め息を吐く。
少ししてから数人の教師達がやって来た。ザッハ先生もその中にいた。
「三空、無事か!?」
「はい…どうしてここが?」
少し休んだことで僅かに体力が回復した。
「お前がまだ寮に来てないって言われてよ。ほら、今日から寮生活だろ?」
響が僕を支えながらそう答える。寮生活なんてすっかり忘れていた。
「先生達とお前を探してたら、一瞬だけどでっけえ魔力反応があってよ。その後すぐにお前の魔力反応があって急いで向かってきたってわけだ」
大きな魔力反応?
"あの人"の魔法か…。
「二人の応急処置が終わりました」
先程まで僕に手当てをしていた人がそう言いながら桐生を支えて立ち上がる。
「話はまた後日聞くことにする。今日はしっかり休め」
ザッハ先生はそう言い残して先生達と桐山を連行して行った。
「よし!じゃあ寮まで担いでってやるよ」
「一人で歩けるから大丈…」
一人で立ちあがろうとすると足元がフラつく。
「おっと。今日のところは任せろって」
響は僕を支えてそう言う。
「じゃあ…その…お願いします…」
「応!」
「その…辛かったらすぐ降りるから言って?」
「何言ってんだ!俺の得意魔法の一つは『身体強化魔法』だぜ?このくらい朝飯前よ!」
響は僕を軽々と担ぎ帰路につく。
「なあ修、なんか良い事でもあったのか?」
「どうして?」
「なんていうか…あんな目にあったのにどこか落ち着いてるっていうか…なんというか…ただの勘だ!」
「ははっ…すごい勘だな」
一呼吸置いて今日あったこと…"あの人"のことを思い出す。
「不思議な人が助けてくれたんだ」
「不思議な人?」
「初めて会ったのに他人って感じじゃない…また会えるような気がする人だったよ」
響は僕の言ったことに吹き出す。
「ハハッなんだそれ?」
「本当だって!その人が僕に魔法の使い方を教えてくれたんだ。」
そう、自由な魔法の使い方を。
「へぇ、また会えるんなら今度は俺も会ってみてえな」
「うん、きっと会えるさ」
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