3.努力の証

「なあ、なんであんな奴と知り合いなんだ?」


 あんな奴とはイデオの事だろう。僕とイデオがお互い知ってる風だったのが気になったらしい。


「昔、家の行事で一度だけ会ったことがあるんだ」

「へえ、そこで揉めちまったのか」


 僕は首を横に振る。


「その時は一度も話さなかったんだけどね… たぶん一目見て嫌われたんだと思う」


「はあ?なんだそりゃ」


 響は意味わかんねえなどと言いたげだ。


「僕は弱いから…」


 キーンコーンカーンコーン

 休み時間を終えるチャイムが鳴り響く。


 ガチャッ


 再びザッハ先生が現れ教壇に立つ。


「では最初の授業を始める。知ってのとおり科目は『攻撃魔法基礎』だ」


 初日から憂鬱な授業が始まった。まだ実技の授業ではないだけマシだと思うことにする。


「まずはお前達の魔法に関する知識がどれだけあるか確認するために簡単なテストを行う。」


「え〜いきなりテストぉ」

「なんも勉強してねえ」

「点数勝負しようよ!」


 テストと聞いた瞬間生徒達がざわつき始めた。


「響は自信あるの?」


 特にリアクションを起こさなかった響に聞いてみた。


「まあな、これでも魔法は得意だからな」


 ザッハ先生が全員に用紙を配り終える。


「成績にも関わらない簡単なテストだが不正をすることがないように…それでは、始め」


 合図と同時に生徒達が用紙を捲る音が至る所から聞こえる。


 僕はこの学園に入学することが決まったあの日から今日まで、魔法に関して猛勉強した。入学試験を受けていないためどのような問題が出されるか分からないため少し緊張するが焦りはない。


 "問一. 「クオリアの定義」に示された攻撃魔法の反射性について説明せよ"


 いきなり高レベルな問題だ。だけど僕は「クオリアの定義」については偶然本で読んだことがあったため難なく答えることができた。


さて次の問題は………



「時間だ、回答用紙を回収する」


 ザッハ先生の合図に合わせて解答用紙が魔法で瞬時に集められる。


「すぐに採点を行うのでそのまま待つように」

 ザッハ先生そう言いながら教室を出ていった。


「自信あるか?」


 そう言う響はかなり自信があると言いたげだ。


「うーん…わからない問題はなかったかな。響は自信ありって感じだね」

「当然だぜ!」

 そう言いながらガッツポーズを取る。


 ガチャッ


 再びザッハ先生が現れる。


「解答を返却する。平均点は四〇点程だ。なかなか難しい問題だったがよくできた方だろう」

 ザッハ先生の手元からそれぞれの解答用紙が飛んで行く。点数を見た生徒達が賑わい始める。


「よっしゃー、俺五四点だ!」

「私なんか三一点だったよー」

「クソー、一二点だー」

 

 周りを見る限り六〇点以上を取った生徒はなかなか居ないらしい。


「修!」


「どうし…」


「じゃじゃーん」


 響は僕が反応すると同時に自身の解答を見せる。そこには全ての解答に丸が付けられた完璧な答案があった。


「流石だね。響ってもしかしてかなり頭良い?」


「言っただろ?魔法は得意なんだ。そう言うお前は…」


「きゃー!流石イデオさまー!」


 僕と響はその声のする方を見る。


「ふんっ、こんなのできて当然だ」


 どうやらイデオも満点だったらしい。問題を見た時からそうだと思っていたのであまり驚きはしない。


「先生ー!」


 イデオ達の様子を見ていた他の生徒が手を振っている。


「他に満点の人っているんですかー?」


「名前は言えないがイデオを含めて3人が満点だった」


 生徒達がお互いの解答を確認し合いそれが誰なのかを探しているようだ。


「それでは席につけ」


 生徒達は各々の席に座り、教室は静けさを取り戻す。


「いいか、重要なのは誰かのではなく自分の点数だ。今回平均を下回った者、平均を上回ったが満点を取れなかった者はそれより上の者よりその点数だけ負けていると言うことだ」


 生徒達が緊張した面持ちになる。満点は3人しかいなかったため、殆どの生徒にザッハ先生の言葉が刺さるのだろう。かく言う僕も悠長にはしていられないのだが……。


「下ではなく上を見ろとはよく言ったものだ。学園は励み、競い合う場だ。お前たちが上を見て成長していく事を期待する」


僕も自身の満点の解答を見つめながら考える。どんなに問題を解けたところで実戦では他の生徒に遠く及ばないだろう。知識だけあったところでそれを使えなければ意味がない。


そんな事を考えながらも、今はとにかく"あの日"から続けてきた努力の証が現れたことがとても嬉しかった。

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