2.入学

 この世界は魔法が主体だ。如何に多くの魔法属性を持つか、如何に強い魔法属性を持つかで人としての価値がある程度定められてしまう。


 僕は緊張した面持ちで扉の前に立つ。エリートのみが入ることを許された上級学園。僕はその一つであるデイヒル上級学園の教室の入り口で立ち止まっていた。


 この扉を開ける勇気がなかなか湧いてこない。この学園に入学すると決まってから積もりに積もった不安が最高潮に達する。


「よし……」

 こんな所で立ち止まっていては前に進まないという気持ちより、こんな所で立ち止まっているところを誰かに見られたらという気持ちで扉に手をかける。


「よお!」

「っ⁉︎」

 突然後ろから声をかけられ、声も出ないほど驚く。


「あっ悪い悪い!驚かせちまった」

 振り替えると金色に輝く髪と瞳、そして眩しすぎる笑顔をかざした青年が立っていた。


「えっと…君もここの教室?」

「応!"も"ってことはやっぱりお前もこの教習か。声かけてよかったぜ」

 青年は安心したという風に溜め息をつく。如何にも"陽"という感じなのに意外と緊張してあるようだ。


「そうだ!俺はひびき、響・シャムロックだ。お前は?」

「僕は三空修。修でいいよ」

「修か!俺も響でいいぜ」

 出会ったばかりなのに響とはなんだか相性がいい気がした。

「こんな所で話すのもなんだし中入ろうぜ!」

「…そうだね」

 僕の方が扉に近かったため再び扉に手をかける。今度はすんなり開けれる気がした。


 ガチャッ


「へえ教室ってこんな感じなのか」

 教室は黒板を前方に講堂のような構造になっていた。先に着いていた生徒達がわいわいと会話を賑わせている。

「この辺でいっか」

 先は自由と書かれていたので、響と僕は最後列の窓際に座った。まだ時間があるようだったので響と互いのことを話すこととなった。

「まじか!修はお貴族様の出身だったのか!」

「僕は大したことないよ。すごいのは父上だよ」

「というか俺ってめちゃくちゃ失礼だったよな?申し訳ございません許してください!」

「全然大丈夫だよっ!本当に僕は凄くも偉くもないから!」

 響が突然頭を下げたので僕も慌ててしまう。 響は一般の出身らしく貴族の事はあまり知らないらしい。


 ガチャッ


 そんな話をしていると教室の前方の扉から一人の大男が入ってくる。服装からして生徒ではないようだ。男が教壇に立つと教室中が静まり返り、立っていた生徒達は慌てて席についていく。

「よし、今日からこのクラスの担任になったザッハ・トルだ。よろしく頼む」

 男の名前を聞くなり静まり返っていた教室中が再びざわめき始める。

「まじか!あの人が…」

「知ってるの?」

「逆に知らないのかよ!ザッハ・トルといえば国王直属の魔法騎士団でNo.3の『不壊のザッハ』!」

「そんな凄い人なのか…詳しいんだね」

「当たり前だぜ!何てったって俺はその魔法騎士団に入ることが目標だからな!」


「静粛に」


 男の言葉に生徒たちは再び静まり返った。

「色々聞きたいことがあるだろうがまずは君たちについて教えて貰おう。一人一人ここに立ち名前と自身の魔法属性を教えてくれ」

 教室中に緊張が走っているのを感じる。ようは自己紹介ということだろう。

「まずは1番前の君からだ。」

 窓側の最前列に座っていた生徒が指名される。

「……よ、よろしくお願いします!」

 教室中で拍手が巻き起こる。そのまま後ろの生徒が指名されていくようでかなり早めに順番が回って来そうだ。

「響・シャムロックです!魔法属性は『光魔法』と『身体強化魔法』です!実技には自信があります!!よろしくお願いします!」

 元気のある挨拶に応えるように一段と大きな拍手が巻き起こっているようだった。

「次は修の番だぜ!」

「うん…」

 僕は緊張しながらも教壇へ向かう。この時間がやけに長く感じ、ようやく教壇へとたどり着いた。

「うっ…」

 教室中の視線が集まっていることに気づき、緊張と不安そしてなんだか教室中から圧がかかっているように感じた。

「修ー!頑張れよー!」

 響が最後列から満面の笑みで叫んできた。殆どの生徒が響に視線を移して笑う。

 再び僕に視線が集まるがさっきのような圧はもう感じない。そして響のお陰で緊張がほぐれた気がする。


 よし


「三空修です!魔法属性は『空間魔法』です。よ、よろしくお願いします!」


 パチパチパチ…


 響の時とは一変し、拍手をくれたのは響とザッハ先生と他数人だけだった。


 なぜだろう。


 僕は再び途方もない不安に追われながら自身の席へと戻る。その途中で生徒達の会話を耳にする。


「三空ってあの三空家だよね?」

「魔法属性一つしかないの?」

「魔力量も大して多くなさそうだし…」

「親のコネってこと?」

「しっ…聞こえちゃうでしょ」


 聞こえてます………

 しかし僕はそんなことより響にどんな反応されるかが不安で仕方なかった。せっかく仲良くなれたのに嫌われたかもしれない。


「お疲れっ!」

 席に着いた僕を響は明るく労った。

「ひ、響…その…ごめん…」

「なに謝ってんだ?それよりみんなひでぇよな。人は魔法だけじゃねえってのに」

「響…ありが…」

 キャー!!イデオさまー!!

 教室に入ってから一際賑わっていたグループの女子が騒ぐ。見ると教壇にはゴールドに輝く長髪掻き上げている男が立っていた。

「グラミー家長子、イデオ・グラミーだ。魔法属性は『雷魔法』『思念魔法』そして…『闇魔法』だ」

 その言葉と共に僕に紫の魔弾が放たれる。それに僕は反応できなかった。しかし魔弾は僕の目前で消滅する。

「てめぇ!!なにしやがる!」

 響が立ち上がっては叫ぶ。

「何の真似だ。当たっていれば怪我では済まされなかったぞ」

 続いてザッハ先生もイデオを叱責する。

「"当たっていれば"の話ですよね?ほんの挨拶ですよ。先生も魔弾が放たれた時点で当たらないことはわかっていたでしょう?」

「そういうことではない…」

「貴族同士の戯れですよ」

 そう言い残してイデオは教壇を離れる。

 キャー!!イデオさまー!!

 通路を通るイデオに歓声が飛ぶ。

「ふんっ」

 イデオは自身の席を通り越してこちらまでやってきた。醜いものでもみるかのような視線を向けて。僕が言葉を発するよりも早く響が立ち上がる。

「何の用だ」

「君に用はないさ」

 響とイデオが視線を交わす。

「君も物好きだな。こんな落ちこぼれと一緒にいるだなんてね」

「なんだと!?」

 響が今にも噛み付かんばかりに怒りを露わにする。

「ひ、響、落ち着いて…」

「イデオ、席に戻れ」

 ザッハ先生が教壇から声を上げる。イデオが再び僕に目を向ける。

「ふんっ。目障りだ。なるべく早く僕の前から消えてくれ」

 そう言い残し自席に戻っていった。



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