第3話 コウノトリ
この施設――『子宮』と呼ばれる神殿は、一般の市民はおろか華族にも、神聖な宗教施設だと考えられている。古神道に纏わる施設だとされ、その内部を知る事は、禁忌だと法律的にも定められている。
しかしながら内部の管理者である
地下第三階層には、ところどころに科学的な灯りが点っている。
さらに下の階層から続く、吹き抜けの中央を見れば、『コウノトリ』を繋ぐパイプやチューブ、生命維持装置が多数見える。時鞍の仕事は、定期的に『コウノトリ』に異常がないかを確認する事だ。
男性同士の子供を生み出す『コウノトリ』とは、公表されていない事実として、人工的に脳のない子宮を持つ男性クローン体を生み出し、生命維持装置に繋ぎ、結婚後に提供された生体情報をもとに、具体的には精液や遺伝子などを培養し、人工的に冷凍保存してある卵子を用いて受精卵を作成し、そのクローンの子宮に着床させて子供を生み出す機関である。その後、『コウノトリ』に所属する職員が、各家庭に子供を運んでいく。男性二名から提供されるので、子供は基本的に双子として送られる。よって基本的に、この日高見府において、実際には双生児ではないものの、よほどの事がないかぎり、人間は皆兄弟を持つ。時鞍にも勿論双子の兄弟がいる。だが『コウノトリ』の内部については機密事項であるから、誰に話した事もないし、話せば物理的に首が飛ぶ。
「……」
脳がなく子宮を持つ男性を生み出すというのは、非倫理的にも思える。人工的に生み出されたのは、現在の日本の人類は皆共通であるのに、勝手に操作されて生み出された一部の『生む機械』が哀れだと、時鞍は考えた事もある。だが『コウノトリ』が存在しなければ、人間は絶滅する。時鞍は、それがよいとも思えない。
ゆっくりとした足取りで見回りを終えてから、時鞍は管理室へと戻った。あとはモニターに表示されている波形を眺めて、一日の職務を終えるだけである。
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