第3話 騙されてない?


しばらく歩いていると彼に追いついた。

どうやら彼も走るのは、ほどほどで切り上げたようだ。

二人で無言で歩くのも居心地が悪いので、少し質問をしてみることにした。


「というか、昨日ちょっと作家業は休憩とか言ってなかった?」

「大体そういう時は、一か月はまともに動かないのに。」


そう質問すると、彼は小さな紙製のチラシを差し出した。

乱暴に扱われたのか、少し皺が入って隅が破れている。

読む時によほど興奮していたのだろうか?


「いや、ちょっとこれを見てくれよ。」


「この時代に紙?」

「データじゃなくて?」

「久しぶりに見たなぁ。」


そういいながら、私は手元のチラシをこねくり回す。

今時、紙なんて使う奴はそうそう居ない。

誰も使わないから専門で作ってもらうと、どうしても高級品になってしまうし、指一本でどこへでも情報が飛ばせる現代使う必要があまりない。


「で、何々?」


私は軽く目を通し、確認がてら読み上げる。


「センターが小説のコンテストを開くって?」

「題材は自由で、1位になれば賞金が出る。」

「その賞金の額は…。」


そこには、目が飛び出るような点数が書かれていた。


「家、買えるよ?」

「しかも一等地に大豪邸を。」


私は自分の中のウイルス対策とエラー対策のシステムをすべて起動する。

数秒後にはオールグリーンと視界内に表示される。

ということは、少なくとも私の目がおかしいという訳ではないらしい。


「だぁーろぉぉぉぉ!!」

「これには乗るしかねぇよなぁ。」

「これだけあれば、欲しいものが何でも手に入るし、当分はいい暮らしができるんだ。」


テンションどうした?

そう私は思ったが、それよりも先に聞くべきことがあった。

チラシを彼に押し返し、私は話す。


「詐欺じゃない?」

「騙しやすい機人をこのチラシで探し出して、こちらの点数を奪う気だと思うけど。」


私は当然、騙されている可能性を疑った。

怪しい、それがこのチラシを見た私の第一印象だった。

これだけの点数をポンっと出せる奴はそうそう居ない。

点数の発行をしているセンターならば、余裕だろうが。


となると、疑うべきは詐欺だ。

点数を受け取る際に、個人情報を出せとか

騙しやすい奴リストに載るとか。

色々と面倒なことになりそうな気がする。


「当然、俺もそう思ったさ。」

「だから、センターの元までわざわざ行って確認もとった。」

「いつも通り対応は適当だったけど間違いない。」

「正真正銘、これはセンターからの依頼だ。」

「数少ない人類の生き残りの一人がセンターに頼み込んだらしい。」


「あー。」

「センターって、人類に甘いからねぇ。」

「その甘さの1%でも我々機人に分けてほしいぐらいだよ。」

「私たちの生みの親なのにねぇ。」

「ついでにもっとポイントを発行してばらまいてくれないかなぁ。」

「いつも、気温とか人類に必要なものとか考えているよね。」


「そうだな。」

「元々が人類の生存を支えるために作られたんだからそこに引っ張られているんじゃないか?」


「まあ、こんな機会が与えられるんだから悪くない。」

「もらえるもんはもらっとこう。」

「そのためには、いろいろな異界を巡っていい感じの話を書こう。」


「そんなボヤっとした考えで、1位、とれるの?」

「ライバルはきっと多いと思うけど。」


「とって見せるさ。」

「そのためには最高の作品を書き上げないとな。」

「でも、それだといつも潜っている異界だと難易度が足りないと思うんだ。

「だから、少し情報が欲しい。」


そう言ってから、彼は少し視線を挙げた。

その視線の先には、かすかに光るメールのアイコンが見える。


「メールで呼び出したの?」

「そんな急に頼んだら怒られない?」

「というか、わざわざ呼び出さなくても。」


「いや、あの情報屋のじいさんは周りを信用してないからな。」

「直接会わないと、情報はくれないだろ。」

「というか、前はくれなかっただろ。」


「そうだったっけ?」


「まあ、チラシを受け取ってすぐに頼んだから、ある程度余裕のある時間設定だし、怒ってはないと思うぞ。」

「一応、返信もきたし。」


そうやって二体で一緒に歩いていると、少しおかしな場所にたどり着いた。

空間が少し歪んで見えるのだ。


「お、やっと着いたね。」


「そうだな。」

「合流地点もここに設定したけど、姿がないな。」


「それなら、異界の奥の方にいるかもね。」


「そうだな、ついでに一儲けといこうか。」


「小説のネタ集めも忘れないでよね。」


「ああ。」

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