第1章

私の中学生の頃まで一緒だった同級生達とは、中学校を卒業したらそれきりで、連絡すら取り合うことはなくなってしまっていた。高校を離れた同級生達は、私のことなんか忘れ去ってしまったのだろう。そして高校のクラスの中にはいなかったのだが、高校も一緒の子達とは、廊下ですれ違ったとしても挨拶すらしたことはなかった。

学校は友達を作る場所ではない。ただ勉強をして、周りの目を気にして時間が過ぎ去るのを待つだけの場所。学校が楽しいなど、そんなの綺麗事にしか過ぎない。

そして学校では、周りに合わせることを一番に考え、自分の意見なんか捨てて生きていくことが大切だ。そうしなければ友達がいなくなるどころか、周りの目が痛くなってしまうのだから。

それが学校生活を乗り切るためには備えておかなければいけないこと。私も、何度もそうしてきた。その度に私はいつも、クラスメイト達に得意の愛想笑いを見せる。心でどんなことを思っていようと、笑っていれば相手だって自分だって誤魔化すことができるのだから。

学校にいると、一日一日が過ぎ去るのが遅く、心地よさなんて感じたことが一度もなかった。

私の愛想笑いは、周りにばれることなどないと思っていた。家族にですら、何かを言われたことはないのだから。

しかし、そんな私を見抜いたかのように、高校三年生のある日、彼は教室で私にこう言った。

「いつも愛想笑いして、疲れない?」

彼とはそれまで、必要最低限でしか話したことがなかった。例えば、授業で同じグループに組まれた時や、私が日直の時、提出物を集めようとしていたら彼が忘れてしまったらしく、そのことを言いにきてくれた時などだ。

三年間クラスメイトだが、特に接点があったわけでもないし、席が近くになったことすらない。「おはよう」、「また明日」、そのような挨拶すらもしたことはなかった。

彼に教室で声をかけられたその日は、部活が終わった後に忘れ物を取りに、教室へと戻っていた。しかし、教室に入ろうとすると彼の姿が目に映り、一瞬で気まずさを感じてしまった。

教室には、一人で佇む彼の姿があった。その視線は、私の机の方にあったような気もしたのだったが、特に気にも留めなかった。 

私が机の中から物を取ると、彼の机の方からも椅子を動かす音が聞こえた。彼も、私と同じ理由で教室に来ていたようだった。

そして私は忘れ物を取り教室をすぐに出ようとしたのだったが、「あのさ」と、彼の声が後ろから耳に届き、私は後ろを振り返らなければいけなくなった。

そして彼にいきなり言われた言葉が、「いつも愛想笑いして、疲れない?」、その言葉だった。

彼にそう言われた時、私は多少の怒りと、心に重いものを感じてしまった。だが、それを誤魔化すかのように、私は笑ってその場を凌いだのだった。

「愛想笑いなんかしてないよ」と、彼に嘘を言ってしまったのだったが、それは仕方のないことだ。

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