似非ヒロインは余談をゆるさないっ!
となりわに
プロローグ
『私立
───俺が通う中高一貫校で、これまで数多くの人材を輩出してきた名門校だ。
現在この学園の生徒会には、いわゆる『学園の聖女様』と『学園のアイドル』が在籍している。学園を代表する誇らしい二大巨頭! のはずなのだが……これが俺が巻き込まれている奇天烈な学園ラブコメの元凶である。
しばし余談にお付き合い願いたい。
───『条成学園生徒会 生徒会長
五大財閥の一つに数えられる『
それが
整った顔立ちに日本人離れしたワインレッドの瞳、ブロンドの髪を編み込んだハーフアップが麗しく、淑やかな出で立ちにすらりとしたスタイル!
まさに物語のお姫様を彷彿とさせるような学園屈指の美少女である!!
気品と優美さを備える風格で生徒の畏怖と尊敬を集める一方、優しく微笑む笑顔が学内で人気を呼び、
『学園の聖女様』と名高い……!
先日行われた生徒会選挙にて1年生でありながら異例の得票数で生徒会長へと選任され、以降その評判は学内に留まらず近隣地域まで知れ渡るほどうなぎ登りである……
────さて、季節は秋。
俺のいる1年A組の教室では6限後のホームルームが終礼をとなり、クラスメイトは各自の青春へと散会していく……
トイレにでも行こうか、と立ち上がり教室から出る俺に、1人の女子生徒がぶつかった。
「「……わっ!」」
彼女は急いでいるらしく「ゴメンっ! 生徒会、もうちょっと待って!」と手を合わせて言いうと、早々に立ち去った。
……うむ。今日もかわいい。
彼女の肩には我が学園生徒会の副会長を示すワッペンが縫い付けられている。
彼女こそ先程紹介した完璧美少女一条茉莉と対比される「学園のアイドル」こと冠城冬である。
……彼女を紹介しない事には始まらない。
────『条成学園生徒会 副会長
球技から武道まで多岐に渡り活躍するスポーツ万能で、ファッション誌のモデルも務めるマルチタレント!
運動で華々しい成績を残す彼女は、生徒会副会長としても活発な手腕を振るい、日々会長を甲斐甲斐しく支える学園の華。これぞ文武両道の最大値を極めたと評されるような才女!!
それが
あどけなさの残る可憐な顔立ちにコバルトブルーの瞳、艶やかな銀糸の髪を肩で2つに結ったお下げは
一方で引き締まったウエストラインに反して見事に実るたわわなお胸! 抜群のスタイルとはカーディガンの上からでも伺えるほど!!
副会長の手腕に加え、持ち前の愛嬌で大量のファンを集め、
今や『学園のアイドル』と名高い……!
彼女にガチ恋する生徒は数知れず、教師陣にも多数のファンがいると聞く。
────暫くして「キャーーッ!」と黄色い歓声が上がった。
淑やかで気品のある一条会長と
夕日を背景にして金髪赤眼の美少女と銀髪碧眼の美少女が並び、生徒会室へと向かう。
この一見正反対な雰囲気の2人が揃う生徒会の往来を一目見ようと連日ギャラリーが殺到し、俺の所属する1年A組の廊下は一段と忙しない。
今日も耳をすませばあちらこちらで声が聞こえる……
(──「ああ……一条会長と冠城副会長……今日も麗しい……」)
(──「御二方ともなにか浮かない顔をしているわ……やっぱりあまり仲がよろしくないのかしら……?」)
(──「茉莉様と冬様、ファンクラブの人数は拮抗してるらしい」)
(──「副会長は面従腹背に徹して来年度の生徒会選でクーデターを画策してるって噂だ……」)
(──「……友人以上の間柄だという噂も聞きましたわ……!」「キマシタワー!……ってコト?!」)
(──「だれかきいてみたらいいじゃん……」)
(──「そんな! 近づく事すら烏滸がましいというのに!」── )
……なあんて噂話をしている生徒達。そこへ冠城副会長達が掛けてく。
「君たち〜 中等部の子たちだね〜♪ 何話してたの〜?ワタシもまぜて〜?」
話しかけられた女生徒の顔が真っ赤に染まっていく。
「あらあら……冬さん? あまり意地悪してはダメよ……?」
天真爛漫な副会長と優しくまとめる会長……この掛け合いが学園の名物となりつつある。
「えへへ……でもでも〜会長だって気になってたクセに〜」
「わ、
「あ〜はいはい……ワタシが悪かったですよー……いきなり話止めちゃってゴメンねっ? 」
そう言ってウインクする冠城副会長。効果はバツグンだ!
ウインクが急所に当たった女生徒は「し、失礼しました〜〜〜!」と感涙の悲鳴を上げて逃げ出すように退散していった。
……羨ましい。ぜひ俺にもそのウインクを頂戴したいね。
こんな
ちなみに俺は、止むに止まれぬ事情から一条会長派閥の所属なのだが、魂は冠城副会長ファンであり、日々板挟みに悩まされている。
旧校舎の階段で足を止めて向き直り、生徒会とその取り巻き生徒が向かい合う。
お別れのようだ。
「……皆様方、
「みんなー? また明日会お〜っ! ばいばーい♪」
ついてこようとごねる取り巻き達を押し留め、階段を上がって行った。ガヤガヤと賑わう校舎とは対照的に、階段にはコツコツと足音だけが響く。
「きっちり聞き耳立てといて……知らんぷりって卑怯じゃない? ね〜会長ー?」
「……」
「ふふ……むっつりだもんね〜?」
「……お黙りなさい」カチャン
二重鍵になっている生徒会室の扉が開く。
旧校舎5階、歴代生徒会がしのぎを削った伝統ある生徒会室は、その窓から校舎に部活棟、グラウンドを一望できる。
部屋の最奥には代々生徒会長が受け継いできた重厚なデスクが鎮座しており、仕立てのソファは生徒の尊敬と畏怖を背負った生徒会長の双肩をゆったり包む一級品!
彼女に続いて俺も中へ入り、生徒会室にはカチャンと施錠の音が響いた────2人だけの静寂。
ウインクで合図する副会長の姿を一瞥して、俺は最奥の『生徒会長』と書かれたその席へゆったりと身を委ねた……
「……ふぅ……」
「……ふぅ……」
「……お疲れ♪」
言葉と同時に放たれた彼女のウインクが俺のハートを射止める。
「んぅ……!?……ふぅ。な、なぁお前、さっきからそのウインクはなんだ……か可愛っ──もとい! その、き、キツイからっ!? な!?? だからいい加減そういう精神攻撃すんのやめてっ……俺に効くからっ!!」
早まる鼓動を抑えて抗議する俺に、眼前の女は悪態をつく。
「なんだァ? おまっオレ自慢の冬ちゃんショット、バカにしてんのか?」
さっきのは冬ちゃんショットと言うらしい。かわいい。
「バカにはしてない。でもそうだな、高校生にもなってそういう事やってるの恥ずかしくないか?? うん、あー恥ずかし」
「あれれ〜さっきの子にはウケてたぞ?? お前のセンス終わってんな~??」
わざとらしい惚け顔で煽ってくる。まさに売り言葉に買い言葉。
それにしてもこの女かわい……もとい、腹立つな!?!?
「とにかくそういうわけだから! お前! 絶対、お、俺意外にその、冬ちゃんショット(?)やるなよ!? あとこの部屋入る前にやってた可愛い感じで煽ってくるやつ、普通にやめろ」
「そういやお前、さっきの子の前でも見事に猫かぶってたな? あの調子でずっと猫被ってりゃいいじゃねーか。いまじゃ、全生徒の憧れるお淑やかな“学園の聖女様”なんだからよぉ!! いろいろ愚痴ってたクセに、すっかりお嬢様キャラが板につきやがってッ!」
──いかにも、この俺こそ生徒会長、一条茉莉である。
隠し立てするような余談にお付き合い頂き恐縮ではあるが、この悠長な余談で俺と俺を取り巻く現状について、大方の説明を終えていることをご理解頂きたい!
そして猫をかぶっていたのは俺だけではない……
「お、俺は仕方なく……っ! お、お前だって真っ先にカマトトぶってたくせに! しかもノリノリで全生徒に愛される天真爛漫な“学園のアイドル”やってるじゃないか!!」
「いやァ? オレは副会長として交流深めてただけだぜ? お前のむっつりよりマシじゃねーか! むっつりスケベなお前が猫かぶって、お姉様にしたい♡ランキング1位の一条茉莉ちゃん? く~ッ! いやらしいねェ!」
眼前でニタニタ下品に笑い、
もし彼女のファンがこの醜態を見れば卒倒すること請け合いである。数分前までの天真爛漫な純情少女とは似ても似つかない。久しぶりにカマトトぶってない状態で話したと思ったら、この減らず口、品性の欠片もない……
ガワだけであれば俺のストライクゾーンど直球の銀髪美少女に
そんな眼前の、性癖を捻じ曲げるような彼女の冷笑に、俺は言い返さずにはいられなかった!
「こん……の、アホォ! 劣情にまみれたお前に言われたくないっ! 本当はド変態のくせに! カマトトぶって愛嬌振りまいてっ! 挙句、妹にしたいランキング1位の冠城冬さんにはな!!」
……と、声をあげる俺も数分前までお淑やかな令嬢やってたとは思えないほど粗暴な振る舞いになっているから、正直、どんぐりの背比べかもしれん。
彼女は俺の反撃にたじろぐことなく、ふふん、と得意げな顔をした。
「そうやって強がってもオレは見逃してないぜ?」
「なんだ」
「なぁお前、オレのウインクにドキッ♡ときちまって、それを認めたくないから頑張って強がってるだけだろ」
「へにゃ!? い、いや待て!……」
ドキッ♡なんて芝居がかった仕草に、いちいちグッときてしまう自分が悔しい……だがここで引き下がる訳にはいかない!
「お、俺も
「ぴぇっ!? ……は、はぁ?? ち、ちげぇしぃ!?」
顔を真っ赤にして慌てている。俺の指摘は図星のようだ。
それにしても、ぴえっ、ってなんだ……可愛いなお前??
「いやでも──」
「あーーーぁ! ……ったく。お前、驚く度にエロい声出しやがって! いい加減、おお、お押し倒すぞ!?」
大声をあげて俺の二の句を塞いだと思ったら、ゆっくりと俺に近づいてきた。
本当に押し倒すつもりか? お前だって元童貞だろう? そんな勇気あるものか。
……それから、俺がいつエロい声を出したってんだ……!
「何言って……今お前、顔真っ赤だぞ〜? かっ、かかわいいなあ!?」
動揺しながらもなんとか言い返した俺に、彼女の接近がピタリと止まる。
「かっ……かかわ!?」
数刻前まで生徒の尊敬と信頼を一心に束ねていた学園の聖女様とアイドル。
今は見る影もなくろワナワナといやらしい手つきでにじり寄った状態で、婀娜っぽく頬を染めて恥じらい、痴態を晒している……
「…………」
「…………」
スケベエに振り切るタイミングも逃し、ただ睨み合う硬直状態……
なんだか互いの乏しい女性経験を再確認しているようで虚しい。
今はお互い女になっちまってるってのに、どうしたものか。
「バカ……」
「アホ……」
結局、捨て台詞をはくようにお互いそっぽを向く。
ここで、ふと頭に……さっき耳にした噂話が過った。
「な、なぁ……さっき噂で言ってたこと……あれホントか?」
思えばコイツ──冬司とこうして腹を割って話すのは久しぶりだ。新生徒会が発足した翌日あたりから、どこかコイツはムスッとしてご機嫌ナナメなのだ。
「ほら……やっぱりさっき聞いてたんじゃねぇか、このむっつり……」
軽口を叩く冬司はどこか俯いて、釈然としない。
「なぁお前俺のこと嫌い? なんか最近ムスッとしてるよな? もしかして本当にクーデター起こすの?」
目を合わせようとしない冬司に不安が募り、矢継ぎ早に不安が溢れる。
「ぷッ……んなわけないじゃん聞いてんじゃねーy──」
「なぁ俺とお前って友人以上なの?」
「ふぁ!?……ええ!? んぅぅ?!?! ……そ、それは……」
まくし立てるように迫り、ようやく、バツの悪そうな
「えーっと……ゴホン……ふぅ……」
俺が返事を待ってじっ、と見つめると、冬司は目をそらすでもなく、そっ、と目を閉じた。
そして彼女のまとう雰囲気に乙女チックさが戻っていき……
「……え〜っとぉ、それは
きゃるんっ、と学園のアイドルキャラへ振る舞いを戻した彼女の、わざとらしい少女姿──
「あっ……え……っと」
「ねえっ?……
「〜〜〜〜っ!? かっ──」
──か゛わいいぞーーー!?!?
どタイプの見た目をした女の子にこんなことを言われ、トキメキを感じないはずがないッ!
……たとえコイツが、化けの皮を剥がせば性癖を見知った悪友であっても!
……たとえこの女子が、性転換した現在の俺みたいな外見の女子と、イチャイチャすることを目的としていても!!
……たとえこのどタイプな美少女の可愛い発言が、最終目標にイチャラブおせっせを据えた純度100%の劣情からくるものであっても!!!
──自分好みの女の子が目前で性癖をぶち抜いてくるのだから、トキメキに抗えないのは仕方ないのだ。
だから俺は────
「────あらあら。冬さん、貴女またそうやって逃げるの? ふふ……でも貴女、照れ隠しまで可愛いのね……」
「ぴゃ……え」
「
───こうやってコイツの好きそうなキャラに戻して反撃を放つ!!
「くぁwせdrftgyふじこlp」
「うわ壊れた」
俺達は互いに相手の性癖を知っており、数ヶ月前まで元男だったから、当然男心も熟知している。
おまけに、互いに相手のどタイプな美少女という数奇な巡り合わせなのだ!
それもこうして、
幸か不幸か、絶妙に噛み合ってしまったパズルのピース……腐れ縁もここまで絡まるのかと末恐ろしい!
眼前で取り乱す銀髪美少女に、似ても似つかない野郎の似姿を見てしまい、俺は萎える……
そのはず。そのはずなのだが……
「お、おま…… あ~ちくしょうッ! と、とにかく、オレはマジだからな? いい加減……ォ、オレと付き合え!!」
ビシッと指を立てた冬司の、猫を被らない直球勝負の告白。
新生徒会が発足して数週間もの間、メランコリー状態だった冬司が、今日になってようやくまともに口を利いたと思えば……ええと、告白……告白、か。
……ちくしょう、またこれだ。この感覚。
どうも
俺とコイツが性転換してしばらく経つが、心に平穏が戻った試しはなく、寧ろ日に日に輪をかけて乱されつつあるのは如何ともし難い……
「〜〜〜〜ッ!……そ、その件は、要審議につき、回答保留といたします!!!」
俺とコイツの日常は予断を許さず、それゆえ余談は付き物だ。
従って皆様には、もう少しこの余談にお付き合い願おう。
途中退席は認めない!!!!
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