第29話 リア充爆発しろ!!!!

「ジャッジャ~ン! 本日のお弁当はアゲハの愛情たっぷりオムライスだよ~!」


 昼休み、屋上にて。


 仲良くベンチに並んだアゲハが得意気に弁当箱を開く。


「わぁ、すごい。これ、アゲハさんが作ったの?」

「そう! いっつも冷食じゃ格好付かないし? ママに手伝って貰って頑張っちゃった! 不味くはないと思うんだけど……」


 不安そうにアゲハが言う。


 料理なんか家庭科の授業でしかやった事のないアゲハである。


 それでも九朗の為に美味しいお弁当を作りたくて、オカズは冷食を使っていた。


 九朗もそれを手抜きだとは思わなかった。


 可愛い彼女が自分の為に早起きをして弁当を作ってくれるというその事実だけでプライスレスな価値がある。


 それに、オカズが冷食の分、アゲハは盛り付けに拘っていて、毎回食べるのが勿体ない程だ。


 だから文句なんか一つもないのだが、それはそれとして手作りはやっぱり嬉しい。


 きっとアゲハはこの日の為に密かに練習していたに違いないのだ。


「アゲハさんが俺の為に作ってくれたんだ! 美味しいに決まってるよ! 早速食べてもいい?」

「まだダーメ! 最後の仕上げが残ってるから!」


 そう言うと、アゲハは弁当バッグから小さなケチャップの容器を取り出した。


「それは……もしかして!?」

「えへ。気付いちゃった? 一度やってみたかったんだよね! 美味しくな~れ、美味しくな~れ、ラブ注入!」


 アゲハは黄色いカンバスの上に赤いハートを描き加えた。


「くぅっ……!」


 込み上げる涙を拭う九朗を見てアゲハが驚く。


「ど、どうしたの!? 竿谷君!?」

「嬉しくて……。こんなに幸せで良いのかなって……」

「ビックリさせないでよ! ……それはあ~しの台詞だし……」


 そう言って、アゲハは恥ずかしそうにはにかんだ。


「……あーしだってこういう恋人っぽい事初めてだし。っていうか、実は憧れてたまであるし……」


 男遊びはしていたが、あくまで身体だけの関係で、恋人らしい事等一つもした事のないアゲハである。


 ゲームでも純愛ルートに入るとビッチのイメージに反して初心な反応を見せることが多い。そんな所も彼女の人気の一つだ。


「……憧れついでにもう一つ、いい?」


 上目づかいで聞かれてドキッとする。


「アゲハさんのお願いならなんでも……」

「……あ~ん、してみたいな~……なんて……」


 九朗はポカンとすると、いきなり自分の頬を叩いた。


「竿谷君!? なにしてんの!?」

「……嬉しすぎて。夢なんじゃないかと……」

「もう! 大袈裟過ぎ! ビックリするじゃん!」

「ご、ごめん……」

「……それじゃあ、いくね?」

「う、うん……」


 震えるスプーンが綺麗なオムライスに突き刺さる。


「あ、あ~ん……」


 お互いに真っ赤な顔で見つめ合いながら、九朗は大きく口を開いた。


「……あーむ」

「……ど、どうかな」

「……美味しいよ。世界一のオムライスだ!」

「だから大袈裟だってば!?」

「そんな事ないって! 愛は最強の調味料だって言うし!」

「そうだけど! そうだけどぉ……」


 際限なく赤くなるアゲハ。


 遠くでは屋上に弁当を食べに来た他の生徒がなんとも言えない表情をしているが、二人の世界には存在しないも同じである。


「……お、俺もあーんしていい?」

「……い、いいけど」


 アゲハのスプーンを受け取って、同じようにオムライスをあーんする。


「あ、あーん」

「……ぁ、ぁーむ」


 アゲハはギュッと目を瞑り、小さな口を目一杯開いた。


「ど、どうかな……」

「うぅ……。これ、めっちゃ恥ずかしい!?」

「イヤだった?」

「……イヤじゃないけど。てか、もっとして欲しい、みたいな……」


 もごもごとアゲハが言い、交互にあーんで食べさせ合う事になった。


 非リアには殺人級の光景が暫く続き、たっぷりと時間をかけて二人は弁当を完食した。


「……終わっちゃった」

「……だね」

「……ヤバい。なんかメッチャドキドキしてる」

「……俺も」


 胸の上に手を当てながら、どちらともなく見つめ合う。


 アゲハの瞳は潤んでいて、元中年童貞の九朗にも発情しているのが分かった。


 九朗も密かに甘勃起していて、膝の上の弁当の位置を直す振りをしてチンポジを直した。


(……こんなんだから夢精しちゃうんだろうな)


 やらしい事など一つもないはずなのに、なぜだかやらしい気持ちになってしまう。


 エロゲの竿役とヒロインだからか、それとも血気盛んなお年頃だからか。


 なんにしろ、性欲を持て余した。


 アゲハも似たような事は感じているらしい。


「……ちょっと落ち着こっか」

「……だね」


 お互いに苦笑いし、お茶を飲みながら深呼吸をした。


 程なくして、思い出したようにアゲハが聞いてくる。


「てか竿谷君、なんか悩み事あるっぽくない?」

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