第25話 マジウケる
(今度こそ俺に彼女が出来た! しかも昨日の俺、マジで主人公みたいだった!)
通学路を歩きながら、九朗は浮かれまくっていた。
昨日からずっと浮かれっぱなしだ。
アゲハと寄りを戻せたことがとにかく嬉しい。
これから二人で前世では出来なかったあんな事やこんな事が出来るのだろう。
昼休みに一緒にお昼を食べたり、一緒に帰って寄り道したり、寝落ち通話をしたり、デートなんかもしちゃったり。
前世では成し得なかった薔薇色の青春を謳歌するのだ!
もちろんエッチな事だって!
九朗も男だ。
下心だけで好きになったわけではないけれど、下心がないわけではない。
むしろシコり過ぎて死ぬくらいだからエッチな事には人一倍敏感だ。
今すぐにというわけではないが、いずれはきっとその時が来る。
そう思うと、九朗の股間は期待ではち切れそうだ。
それだけではない。
昨日の出来事は九朗にとって自信に繋がった。
後ろ向きでネガティブで、非モテを拗らせて卑屈になっていた自分が、大勢の前で胸を張って好きな子に告白し、堂々と啖呵を切って困難に打ち勝った。
俺だってやればできるんだ!
男として一皮も二皮もズル剥けになった気分である。
今だって、昨日の出来事を聞きつけた登校中の生徒達に奇異の目を向けられ、コソコソと噂話をされているが、全然気にならない。
(そうさ! 俺は生まれ変わったんだ! ここからが俺の快進撃の始まりだ!)
ムフムフと
九朗を見る目はますます増えるが、委縮するどころか心地よくすら感じられた。
昨日の出来事で注目される快感に目覚めたらしい。
(さぁ見ろそれ見ろ! 主人公様のお通りだぞ!)
上機嫌ついでに九朗は二組に寄る事にした。
可愛い彼女に朝の挨拶をするのも悪くない。
ラブラブな所を見せつけてやればアゲハを快く思わない者達に対する抑止力にもなるだろう。
(アゲハさんは俺が守るんだ! だって俺は、か、れ、し、だからな!)
自分の言葉に酔いながら、九朗は元気いっぱい挨拶をした。
「おはよう! アゲハ……さん……」
教室を見渡して九朗は焦った。
どこを探しても愛しい彼女の姿は見当たらない。
どうやらまだ来ていないらしい。
(は、恥ずかしぃ~!?)
二組の生徒に注目され、九朗はわざとらしく咳払いをした。
「な、なんだ。まだ来てないのか……」
なんでもない振りをして退散しようとする九朗を。
「ちょい待ち!」
アゲハのギャル友のアンナが呼び止める。
「アゲハならここにいるから」
「え? どこに?」
「だからここ。目の前にいるじゃん」
そう言ってアンナは前の席を指さした。
確かにそこはアゲハの席なのだが、そこには別の女子が座っている。
後ろ向きなので顔は見えないが、黒髪に古風な三つ編みなので絶対にアゲハではない。
と、思ったのだが。
「……お、おはよう。竿谷君……」
「アゲハさん!?」
振り返ると、確かにその子はアゲハだった。
顏だけは。
髪型はテンプレの図書委員みたいな三つ編みだし、黒縁の野暮ったい眼鏡をかけている。下着が見える程着崩していた制服はキッチリ整えられ、スカートの丈は膝よりも下だ。
前は屈んだら尻が見えるくらい短かったのに……。
「どうしたの!? その恰好!?」
「ぁぅ……。や、やっぱり、変かな……」
「へ、変ではないけど……」
「いや変でしょ。こんな漫画の委員長みたいな格好なのに中身は黒ギャルなんだよ? ギャグじゃん」
アンナの言う通り、髪型や服装は真面目系なのに、肌は黒ギャルのままだ。
ハッキリ言ってミスマッチだが。
(……でも、これはこれでアリだよな。全然アリだ。マニアックって言うか、むしろエロイぞ!)
童貞だけでなく性癖も拗らせた九朗である。
黒ギャル図書委員という新境地に可能性を感じた。
露出度は減っているはずなのに逆にエロく見えるから不思議である。
「そんな事ないって! 凄く可愛いよ! 俺は全然アリだと思う!」
恥ずかしがるアゲハに向けて、九朗は自信を持って親指を立てた。
アゲハは余計に恥ずかしがった。
「か、可愛いくないし!? そんなつもりじゃないっていうか……。褒めてくれるのは嬉しいけど……」
「いや、朝っぱらから友達のメス顏とかきちぃから。イチャイチャしないでくんない?」
「黙れし!? メス顔なんかしてないし!?」
「してたじゃん。ほら」
「勝手に撮んなし!? 消せ! 消せってばぁ!?」
「あはははは……」
もみ合いになる二人を見て苦笑いを浮かべる九朗。
「それはそうと、どうして急に?」
「それは、その……」
口籠るアゲハの脇をアンナが小突く。
「ビビんなって」
「ビビってないから! アンナは黙ってて!」
アゲハは咳ばらいをして仕切り直すと。
「その、あーし……じゃなくて、わ、私ね。イメチェン、しようと、思って……」
どうやら脱ギャルルートに入ったらしい。
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