第19話 義母さんは許しませんよ!?

「……まいったなぁ」


 通学路を歩きながらポツリと呟く。


 九朗の頭の中は昨晩の出来事でいっぱいだった。


 非モテの自分にあんなに可愛い彼女が出来たのだ。


 前世の母親ならどんな相手だろうと無条件で喜んでくれたに違いない。


 同じノリで涼子に話したら。


『九朗さんは何を考えてるんですか!?』

『義母さんは反対です!』

『絶対都合よく利用されてるだけですよ!』


 怒涛の勢いで反対された。


 九朗も必死に弁解したが聞く耳持たずだ。


『集団レイプされそうになったのは可哀想だと思いますけど、元を正せばその子のふしだらな性格にも原因があったわけじゃないですか! 高校生、それも一年生で誰彼構わずエッチしてるようなおビッチさんですよ!? そんな子の何処がいいんですか!? 顏ですか!? おっぱいですか!? ムッチムチの太ももですか!? そんなのに惑わされちゃいけません! っていうか九朗さんのスペックならより取り見取りの選び放題なのになんでよりにもよってそんな地雷物件選んじゃうんですか!? 義母さんは許しませんよ!?』


 涼子だって若い頃は散々遊んでいた癖に、そんな事を言うのである。


 だが、それを持ち出して反論する事は出来ない。


 涼子にとってそれは知られたくない過去であり、この世界でも涼子は九朗に過去を隠している。


 下手に触れようものなら家庭崩壊待ったなしだ。


 一応ゲームでは全てが丸く収まる真の家族ルートもあるのだが、かなり難しいルートだ。


 こんな序盤で発生するイベントではないし、その為に必要なフラグも立ってはいない。


 本来ならそんな事実知りもしない状態なのである。


 そこから手探りで涼子と和解する自信は今の九朗にはなかった。


 そもそもこの設定は涼子を脅してエッチする為にあるようなものなのである。


 だから、涼子さんだってヤリマンだったじゃないですか! なんて口が裂けても言えなかった。


(……それに、涼子さんの立場を考えれば心配するのも無理ないよな)


 九朗にとってアゲハは前世で散々お世話になったシコった憧れの存在である。


 だから両想いと知って勇気を出して告白した。


 しかし、事情を知らない者からすれば、まったく面識のなかったヤリマンビッチにいきなり告白したのと同じである。


 オマケに今の九朗は人気者のハイスペイケメンだ。


 なんでそんな子と!? と思うのも無理はないし、心配して当然で、反対するのは当たり前だ。


 と、一晩経って冷静になった今なら分かるのだが。


 あの時は生まれて初めての彼女で完全に舞いがあっていてそこまで頭が回らなかった。


 九朗に出来たのは「……でも好きなんです」と訴える事だけだった。


 涼子も今すぐ別れろとまでは言わなかったが、そう思っているのは明白だった。


 不用意な発言で、折角芽生えた家族の絆にケチをつけてしまった。


(……でも、涼子さんに内緒で付き合うのはそれはそれで不義理だし)


 そうでなくともここはトラブルだらけのエロゲの世界だ。


 隠した所でいずれバレるに決まっている。


 そしたら余計に拗れるだろう。


 だから、アゲハとの事を涼子に伝えたのは間違いではなかった……と思いたい。


(……そうさ。過ぎたことをくよくよ悩んでも仕方ない。大事なのは、ここからどう挽回するかだ。どの道アゲハさんと付き合ったらこの展開は避けられないんだし。どうにかして涼子さんにアゲハさんは良い子だって認めて貰わないと)


 ゲームでもアゲハと付き合った事を知って、というか彼女が出来た事を知った涼子が嫉妬する展開はある。


 同じではないが、似たような状況だろう。


 ゲームならとりあえずエッチしておけば大抵の問題は解決するのだが。


 真っ当に幸せな人生を目指す九朗には使えない手だ。


(……原作知識、役に立たねぇ!)


 ただでさえルート分岐の多いエロゲだ。


 原作知識があった所で思い通りに状況を動かせる気はしない。


「……ん?」


 視線を感じて顔を上げる。


 いつの間にか九朗は校門前まで来ていたのだが。


「あのイケメンが例の?」

「そうそう! たった一人で三年の不良グループ潰しちゃったんだって!」

「やっば。超カッコいいじゃん!」

「凄すぎ……」

「実際凄いんだよ。一年の癖に彼氏にしたい男子ランキングぶっちぎりで一位だし」

「え~! あたしも狙っちゃおうっかな~」


(……やっべ)


 生徒達の視線を一身に浴びて九朗は思い出した。


 なにかしらのイベントで三バカを退学に追い込むと、問答無用で人気者の爆モテルートに突入するのだ。

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