第18話 悲報、可愛い可愛い義理の息子がヤリマンビッチと付き合う事になった件

「なんじゃそりゃああああ!?」


 事の顛末を話すと、涼子は夕飯をひっくり返しそうな勢いで絶叫した。


「学校で集団レイプ未遂って!? 今時漫画でも有り得ないですよ! 九朗さんの学校治安終わりすぎじゃないですか!?」


 その通りだと九朗も思うが、元がエロゲの世界なのだから仕方ない。


 中にはもっとヤバいイベントもあり、比較すれば今回の事件はまだマシな方とすら言えた。


「まぁそうなんですけど。悪い奴らは処分されると思うので大丈夫じゃないかなと……」


 あの後アゲハと話し合い、学校に戻って教師に報告した。


 学校側は色々と理由をつけて警察沙汰にするのを嫌がったが、SNSで拡散すると脅したらあっさり掌を返した。


 程なくして警察が呼ばれ、事情聴取の後未成年犯罪として捜査すると約束してくれた。


 詳細は分からないがゲームでも同様のイベントがあり、原作通りなら少なくとも首謀者の三バカは学校を退学になるはずである。


「そんなの分からないじゃないですか! 学校ってそういう事件隠蔽しそうですし! 九朗さんが逆恨みされたらどうするんですか!? っていうか絶対されますよ!」


 原作の事など知るわけがないので涼子が心配するのは当然だ。


 九朗としては心苦しい。


 どうにかして優しい義母を安心させたい。


「大丈夫ですよ。こう見えて俺、結構強いんで。不良共が襲ってきた時も一人で全員のしてやったんです。仕返しに来たら返り討ちにしてやりますよ」

「それなら安心ですね」


 涼子はホッとしたように微笑むと。


「――なんて言うわけないでしょう!? それこそ漫画やゲームじゃないんですから!? 今回はたまたま上手くいっただけで、次も無事に済む保証なんてどこにもないんです! 大勢仲間を連れて来るとか、不意打ちを仕掛けて来るとか、凶器を持ってくるかも! 女の子を脅して素人売春させようとするような連中ですよ!? なにをしたっておかしくありません!」


 確かにその通りではある。


 実際ゲームでも三バカは半グレ組織と繋がっている。


 これはゲームではないのだから、退学したからフェードアウトというわけにはいかない。


 とはいえだ。


「……じゃあ、涼子さんは見て見ぬふりをした方がよかったって言うんですか?」

「それは……。違いますけど……。義理でも私は九朗さんの義母さんなんです! 九朗さんにもしもの事があったら一郎さんに顔向けできません! そうでなくても……」


 その先を涼子は言わなかった。


 ただ、歯痒そうに俯いている。


 九朗も卑怯な事を言ったと思った。


 でも、結局はそういう事なのだ。


 涼子の気持ちも理解は出来るが、そんな風に頭から否定して欲しくはない。


「……ごめんなさい。俺だって涼子さんを心配させるような事をしたのは悪かったと思ってます。……でも、間違った事をしたとは思ってません。もしやり直せるとしても、俺は絶対アゲハさんを助けます。見て見ぬふりなんかしちゃったら、それこそ涼子さんに合わせる顔がないですよ……」


 涼子の目を真っすぐ見つめて訴える。


「九朗さん……」


 義理とは言え、涼子の息子として恥ずかしい行動はしたくない。


 そんな気持ちが伝わったのだろう。


「そうですよね……。九朗さんは間違いなく良い事をしました。褒められるならともかく、叱られる理由なんか一つもないのに。頭ごなしに怒っちゃってごめんなさい……。こんなんじゃ義母さん失格ですね……」


 しょんぼりと涼子の肩が小さくなる。


「そんな事ないですよ! 無茶な事をしたのは事実なんですから!? 母親なら怒って当然! 心配して当たり前です! 涼子さんが義母失格だなんて、そんな事は絶対にありませんから!」


 九朗は必死に励ますが。


「……はぁ。私の方が逆に励まされるなんて……。それこそ義母失格です……」

「涼子さん!? そんな事言わないで下さいよ!? 二度とこんな危ない真似しませんから!?」

「……本当に?」


 チラリと顔を上げ、上目づかいで言ってくる。


「本当に!」

「義母さんに誓えますか?」

「誓いますとも!」


 大真面目に宣言する九朗を涼子はジト目で見つめた。


 そして大袈裟に溜息を吐く。


「絶対嘘です」

「嘘なんか――」

「いいえ、嘘ですね。今回の件でよ~くわかりました。九朗さんは一郎さんに似て優しい人ですから。もし目の前に困っている女の人がいたらそんな約束忘れちゃうんです。いや、それは違いますね。ちゃんと覚えていて、物凄く悩んだ末に破っちゃうんです」

「そんな事は……」

「じゃあ、もしそのアゲハちゃんって子がまた危ない目に遭ってたら?」

「勿論助けます! ……ぁ」

「ほら見なさい!」

「い、今のはズルいですよ! 誘導尋問だ!」

「でも、そういう話でしょう?」


 してやったりという顔で涼子が言う。


「……はい」


 九朗は渋々それを認めた。


「……ごめんなさい。俺、嘘つきました」

「いいですよ。先に意地悪したのは私ですから。でも、後先考えずに守れない約束をするのはよくないですね。私だからよかったものの、他の女の子だったら大変です。あっちこっちで勘違いさせて修羅場待ったなしです。まぁ、これも言っても無駄なんでしょうけど」


 やれやれと涼子が言う。


「そんな事は!?」


 否定したいが、ジト目で睨まれたら何も言えない。


「……ないとは言えません」


 涼子は呆れ半分の溜息をつくと。


「男の人ってみんなそう。特にあなた達みたいなジゴロの血筋は」


(……この身体はともかく、俺自身はジゴロなんか程遠い元非モテの中年童貞なんだけどな)


 アゲハとはたまたま上手くいったが、それは主人公補正とイベントが上手い事重なった結果だ。


 普通にしていたらそうそう勘違いさせる事などないと思う。


(っていうか俺はアゲハさんと付き合う事になったんだから、そんな事にはならないだろ)


 それで九朗はふと気付いた。


「そうだ涼子さん。実は俺、もう一つ言わないといけない事があって」

「……なんですか? もう悪いニュースはお腹いっぱいなんですけど……」


 警戒する涼子に、九朗は自信満々、満面の笑顔で報告した。


「悪いニュースじゃないですよ。むしろ良いニュースです。実は俺、アゲハさんと付き合う事になりました!」


 非モテの息子に彼女が出来たのだ。


 母親なら喜んでくれるに違いない!


 そんな風に考えていた九朗は大バカ野郎である。


「………………は?」


 涼子の顔があり得ない程引き攣って。


「はぁぁぁぁあああああああああ!?」


 長い絶叫が近所に轟く。


 その顔は、どう好意的に解釈しても歓迎しているようには見えなかった。

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