第6話 君寝取られる事なかれ
(ってバカバカバカ! いいわけないだろ!)
頭を振って煩悩を追い払う。
危うくこちらが攻略される所だった。
ゲームでは常にこちらに主導権があり、プレイヤーは
だが現実ではそうはいかない。
むしろ、エロゲ世界の竿役として転生した九朗は攻略される側にあるとすら言えた。
「なに暴れてんの?」
「なんでもない……。とにかく! 俺はアゲハさんとはエッチしないから!」
「なんでし!? 意味わかんない! 童貞貰ってあげるって言ってるんだよ! ……もしかして、彼女いるとか?」
「いるように見えるか?」
「本命3人にセフレが10人くらい」
「いてたまるか!」
「そんぐらいモテそうじゃん? 竿谷マジでイケメンだし。ちょ~イイ身体してるし? クンクンクン……。匂いだって超セクスィ~!」
「か、嗅ぐなよ恥ずかしい!?」
九朗は耳まで赤くなった。
生前はマタ〇ガースなんてあだ名がつくくらいの腋臭だったのだ。
匂いを嗅がれるのは物凄く恥ずかしい。
「や~ん! 照れた顔も超可愛いじゃん! イケメンなのに初心とか最高だし! 決めた! 絶対竿谷とエッチする! ねぇねぇ~? い~っしょ~? 大人のアゲハちゃんが竿谷の知らない気持ち良い事全部教えてあげるからさぁ~?」
「く、くっつくな! 色仕掛けになんか乗らないからな!」
はだけた制服から露出した半生乳をムニュっと押し付けるように抱きつかれ、九朗は慌てて身を引いた。
「あははは! マジで可愛過ぎじゃん! そんな事言って、そっちはバッチリ勃ってるしぃ?」
愉快そうに笑うとアゲハはニヤニヤしながらこんもりと膨らんだ九朗の股間に視線を向ける。
「し、仕方ないだろ!? 生理現象なんだよ!」
「知ってるけど。つまり竿谷も本当はあ~しとエッチしたいって事っしょ? なら断る理由ないじゃんか。ね~?」
九朗が勃起した事が余程嬉しいのか、ニコニコしながらアゲハは言う。
「ちんちんに話しかけるなよ!」
「だって竿谷よりそっちの方が素直そうだし? あ~しもそっちとお喋りする方が得意まであるしぃ~?」
(お前が得意なのはお喋りじゃなくておしゃぶりだろ!?)
とは流石に言わなかったが。
このままでは完全にアゲハのペースだ。
「とにかく! イヤだったらイヤだ! 俺はアゲハさんとは絶対にエッチしないから! それに! アゲハさんにもそんな風に誰彼構わずエッチなんかして欲しくない!」
「はぁ? なにそれ。なんで竿谷にそんな事言われなきゃいけないわけ?」
「そうだけど……」
ここで言い淀んだら負けである。
マスオナに救われた身として、なにがなんでもアゲハには幸せな人生を歩んで欲しい。
「でもイヤなんだ! 心配なんだよ!」
「心配? なにが。合意の上だし、避妊だってちゃんとしてるんだけど?」
「そんなのわかんないだろ! ゴムだって絶対じゃないし! いざって時になかったら勢いで生でしちゃう事だってあり得るだろ!」
「ないない。そういうのはちゃ~んと気を付けてっから。てか、そこまであ~しを本気にさせる相手なんか今まで一人もいなかったしぃ?」
「これまではな。でも、いつかは出会う」
九朗には確信があった。
何故ならそんな未来を既に見ている。
アゲハの妊娠ルートは一つではない。
主人公を独占する為アゲハが故意にゴムを破ったり、エッチ中にゴムがなくなり勢いでやってしまったり、お互いに合意の上で生でやったり。
「そりゃ、いつかは出会うだろうけど……」
「そうでなくとも、こんな事続けてたら悪い奴らに捕まってレイプされちゃうかもしれないだろ!」
「いやいや。いくらなんでも考えすぎだって!」
アゲハはドン引きだが、これもあり得る未来の一つだ。
アゲハシナリオの中でも悪名高い寝取られルート。
上級生の不良グループに拉致られて集団レイプからの妊娠退学失踪エンドだ。
多くのプレイヤーの脳を破壊した悪夢のようなイベントで、英二も多大なダメージを受けた。
エンディング後に即やり直してアゲハラブラブルートを十周程回してなんとか耐えたが。
これもまた、ゲームの展開を知らないアゲハには荒唐無稽な話に聞こえてしまうのだろう。
でも事実だ。
どうにかして、彼女に危機感を持ってもらわなければ。
「そんな事ない! だってアゲハさんはこんなに魅力的じゃないか! それでビッチなんかやってたら獣みたいな連中に目を付けられたっておかしくないだろ!?」
「わ、わかったから! ちょっと落ち着けし!」
「じゃあもう誰彼構わずヤリまくるのはやめてくれるか?」
「それは……。う~ん」
「全然わかってないじゃないか!」
「だってエッチしたいんだもん! 竿谷にはわかんないかもしんないけど、それがあ~しっていうか? エッチしないあ~しはあ~しじゃないみたいな?」
「そんな事ない! 知らない男とエッチなんかしなくてもアゲハさんはアゲハさんだよ」
その言葉にアゲハはカチンと来たらしい。
「はぁ? あんたにあ~しのなにがわかるってわけ?」
「分からないはずないだろ!? だって俺は!」
あらゆる君のルートで死ぬほどシコりまくってたんだから。
(……なんて言ったら間違いなく異常者扱いされるぞ)
歯痒かった。
でも、佐藤英二だった九朗は二子玉アゲハの事を彼女以上に知り尽くしている。
「……俺は、なにさ」
「……上手くは言えない。言っても多分、信じて貰えない。でも、俺は君のファンなんだ」
「ファン? 竿谷とあ~し、違う中学校だし。クラスだって違うじゃん」
その通りだ。
九朗の言葉は苦しい程に事実だが、状況的にどうしょうもなく説得力がない。
「……あぁ。でも、アゲハさんの事は知ってる。本当の君はそんな人じゃない」
「だーかーらー! そういう知ったような口利くのやめてくんない! いくらイケメンだってムカつくんだけど!」
「アゲハさんは自分に自信がないだけだ! 周りと比べてなにも取り柄がない、取るに足りない奴だって思ってて、不安で不安で仕方ない。だからビッチになって誰彼構わずエッチしてる。そうすればみんなに一目置かれるし、みんな自分を見てくれる……。でも本当はそんなの虚しいだけだって事も分かってて――」
衝撃と共に視界が揺れる。
アゲハに頬をぶたれたのだ。
でも痛くない。
ただ熱いだけ。
見返すと、アゲハは自分の方がぶたれたみたいな顔で涙ぐんでいた。
「最っ低……」
涙混じりに言うと、アゲハは逃げるようにその場を離れた。
唖然として後ろ姿を見送る。
「……最低だ」
自分でもそう思った。
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