第九話 「ナイトメア」

警告:残酷・暴力描写あり


『道に迷いすぎて帰り道が分からず、何者かに殺されかける』

「…、私の記憶にそんなことは書いてない。」

「それか、私が覚えてないだけ…?」

未来予知した後、完全に寝てしまった私は、呟いた。

しばらくして、記憶世界へ戻ってきた。

私は急いでその記憶のデータを探る。

すると、そこには空白のページが30ページにも及んでいた…。

『空白』…つまり、「記憶のデータがない」ということだ。

まるで…まっさらなキャンバスのように。何も書いていない、まっさらな『空白』のページ…。

…これは、何を意味するのだろうか。


記憶を確認できた私は、もう一度瞑想をする。

しばらくすると、目が覚めたところから始まった。

もうすっかり日が沈みかけていた頃だった。寝てから…大体四時間が経ったのかな。

「おっ、お嬢ちゃんお目覚めかな?」

従姉妹がそう言った。正直、お嬢ちゃん呼びされたのは久々すぎてちょっとドキッとした。

…というか、この頃の思い出を掘り返しているだけであって、今の私は「今を生きる私」が「過去を生きた私」に入っているだけ。

…だとしたら、「未来を生きる私」はどこに…?

まぁ、今はそんなことはどうでもいい。

だけど眠ったのに、嫌な予感が背筋を摩る。

思い返してみると、この記憶は眠気に負けてしまっていて、データが元に戻っていない。

もしかしたら…いや、違う…。

たった四時間が30ページの『空白』になるわけがない。

だとしたら…『何者かに殺されかける』時に…、

全てが…、吹っ飛んだのか…?

でも私の親たちは帰る支度をしている。私は特に荷物を持っていなかったから、すぐに出発はできる状態でいたが。

だけど全く会話のデータを集めれていない。この状態で帰ったら、感覚を取り戻すには不十分な状態で帰ってしまうことになる。

リミットは家に着くまで。この間に何か起こらなければいいのだけども。

でも、『道に迷いすぎて帰り道が分からず、何者かに殺されかける』という結果も出ている。

…多分、普通に帰してくれるわけがないだろう…。

「じゃあね、さくちゃん。また今度会おうね!」

「うん!」

従姉妹にそういうと、車に乗り込んで出発した。

するとどういうことだろう。ここに来れたはずなのに、帰り道を見失ってしまい、あっちこっちに行ってしまっているではないか。

まるで…パズルのようだ。

しばらく進んでも、周りはお家がずらりの風景から一回も変わらない。

すると、どこからともなく変な音が聞こえてくる…。

大きな笛の音…大きな足音…。そして、巨大な人影…。

間違いない、あの時のクソ野郎だ。

進んでいた車は最も簡単に止められてしまい、私はすっ飛ばされた。

「うわあああああっ!?!?」

思わず叫んだ。

「さくちゃん!?」

と微かに聞こえる。

そして…、

「ゴホッ…!」

地面に激しく打ち付けられた…。

…かなり痛い…。あの時よりものすごく痛い…。

「また会ったな。桜野郎。」

と声が聞こえる。

「この間のようにイカねぇぜ、お前はここで死ぬんだ…。」

…まさか、私ここで殺されかけるってこと…?

(いやだ、いやだ…。)

(私、こんなところで死にたくない…。)

心の中ではそう考えていたのだろう。だけど、そうやってゆっくり考えている時間はなく…。

「くたばれぇぇぇぇ!!」

と叫ばれた矢先、私は意識を失った。

同時に、『この世の終わりのような激痛』が脳内を走った。

この衝撃で、私は頭部に大ダメージを受けてしまったのだろう…。

声すら出せない。あいつらの声も聞こえない…。

ただ、聞こえるのは…。

「……ぅ。」

私の、微かなうめき声だけ。

これが…『30ページの空白の呪い』なのか…。

そして、どうして彼らは私たちだけを狙うのか。分からない…。

「……………ぅ………ぅ。」

と、また聞こえる。

ほんの微かな音声だった。クソ野郎が何か言っていたような…そんな気がしたが、

…結局この微かなうめき声以外、何も聞こえなかった…。


————数時間後————


「はっ!?」

勢いよく目覚めた。

今の時間は…昼の1時…。ん…?

昼の1時!?!?

「えっ!?親は…!?学校は…!?」

すぐに起き上がると、すぐそばにいた。

母の隣には…バケツ…?とタオル?

まさか私、さっきのどえらい旅をしていた時に熱を出してたってこと…?

一応、念のために熱を確認する…。と思ったが、手が熱すぎて全く分からない。

つまり、今見たのは『体が「悪夢」と認識した記憶』だったと…。

よくみると、バケツから湯気が出ていることに気づく。

手で触ったところ、それはとても高い熱を帯びていた。

私の手より熱い。

「あぢいい!!」

私は反射ですぐに手を退ける。

すると、さっきの声で母が起きた。

「さくちゃん!?起きたの!?」

「う、うん…。」

「よかったぁ、さくちゃん朝起きたらすごいうめいていて、汗もだっくだくだったんだよ…!」

「そう、だったんだ。看病ありがとうね。」

「いいんだよ。さくちゃんの音を戻す旅のためだもんね。これくらいなんてことないさ。」

やっぱり…ママは優しいな。


続く…。

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音のないメモリー 村上紫音 @Murakami_shion

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